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    アロー

    2BH

    TRAININGレグリ習作 アローラのすがた
    湿度を孕んだ風は昼よりも穏やかに、一定のリズムで耳を撫でていく。手に持った冷たいグラスは小さく汗をかき、琥珀色の液体が溶け始めた氷のぶつかる音と共に少し甘い香りを放った。波の音だけが遠くに聞こえるバルコニーで、夜の帳が降りた向う側の景色をぼんやりと眺める。すっかりあかるさを忘れた海は水平線と空の境目が曖昧で、見慣れたカントーの風景とはまるで違う。そう嘆息しては、琥珀をまた飲み下した。

    「……グリーン、お酒弱いのに。」
    「弱かねぇよ、ちょっと酔いやすいだけ。」
    「同じじゃん。」

    背後からふいに、咎めるような声色が飛んできた事に少し笑いそうになった。おまえはそういう事を指摘するタイプじゃないだろ、なんて。振り向くよりも先に、言葉数の少ない恋人はぴったりと隣に陣取ってきたので仕方なし、此方はじっと顔を見つめてやる事とする。いつもの無表情が、アローラの陽気に当てられてほんの少しだけ緩んでいた。目の前の男がいつもよりも僅かに饒舌で、浮かれているように見えるのは恐らく気の所為ではない。観光客達の例に違わず常夏の陽射しに灼かれていた所為――なんてのは、レッドが浮かれて見えるひとつの要因としてあるかもしれないが。
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