雨の日は傘をおれは今、ナックルのレコードショップで雨に降られている。最近なぜか今の空みたいに気分の晴れない日が続いていて、購入したレコードを濡らさないよう抱きしめながら、店先の庇に落ちる雨音をぼんやり聞いていた。
気分が落ちている原因は、自分でもよくわからない。それが厄介だった。どこからともなく湧きあがっている落ち着かなさから目を背けようと、目蓋を閉じホワイトノイズに耳をすませる。そうしてしばらくシャワーズみたいに意識を水に溶かしていた。

「あれ？ネズじゃん」
突如名前を呼ばれ、聞き覚えのある声の方を見れば、昼休憩だろうか、通りがかりのキバナがそこに居て驚いた。
「もしかして傘ねぇの？」
「……ロッカーが傘なんかさすわけないでしょう」

【玲マリ】夏服とサイダー「英語の課題が難しすぎるので助けてください」

イギリス帰りの玲太くんを頼るのはズルしてるみたいだし、なるべく自力で頑張りたいと思ってた。
けど試験も近くなって、そうも言ってられない状況になってきちゃって、わたしは玲太くんに縋ってしまった。

「じゃあ、今日は俺の家、寄って行くか？」

呆れられるのではと心配していたのに反して、玲太くんは思いのほかあっさりと、むしろ嬉しそうな笑顔で答えてくれた。

そんなわけで放課後。
帰る途中で冷たい飲み物を調達することにして、近所の自販機でラインナップを吟味。
二人で相談してお値段据え置きでお得な大き目の缶に入ったサイダーを２本選ぶことにした。
冷たいまま運ぶため、わたしがお弁当を入れている保冷バッグに缶を入れて、そのままてくてく歩いて玲太くんの家へ。

霜焼け注意⚠️おニューのスノーシューズでギュムッ、ギュムッと地面を踏みしめる。パッと見こ洒落たスニーカーだが撥水性があるうえに靴底の凹凸が滑り止めとしてきちんと機能しており、なかなかいい感じだ。瞬歩を使えば転ぶこともなくあっと言う間に家までたどり着くのだが、雪の風情を味わいたかったのと、せっかく買った靴の履き心地も確かめたかった。オシャレは豊かさの象徴であり、日々のちょっとしたそのひと手間こそが人生に彩りを与えるというのが真子の持論だ。要するに雪の日には雪の日なりのファッションをすることで少しでも気分を上げたいのだった。ちなみに雨の日はだるいのでしばしば瞬歩で帰る。

車のタイヤに理不尽な圧力をかけられ灰色に汚れた道路の雪の、その上から真新しい粉雪がまた降り積もっては薄く毛羽立っている。住宅街に連なる家々のブロック塀の上やら植え込みなど、人の足を踏み入れられることがない場所にはまっさらな雪が綺麗に積もり続けていて、植物の葉や枝がその重力と冷たさに身を縮こまらせている。辺り一面がしんとしていて、たまには雪もオツでええもんやなァなんて思いながら鼻歌まじりにお気に入りの深緑の長傘を軽く回したりしてみる。

世界はそう簡単には変わらない。それはもう痛いほどに理解している。だからこそ、プラウドディフェンダーの製作を急いだのだ。けど、
過ぎた力はまた新たな戦争を生む。それは昔カガリが言った言葉だ。もちろんその意味も理解しているつもりだ。

けど、この世界は誰か1人だけで頑張っても変わらない。
みんなで一丸となって変わろうとしない限り、変わらないのだ。


カタカタカタともう無意識にキーボードを打っている。
今日でもう何日になる？ えーと、多分三徹は超えた筈だ。
僕だって休まないと行けないのは分かってる。分かってるけど、今この時も世界は小競り合いやら紛争で休む間もなく動いている。
いつまでも変わらない人々。いくらデスティニープランを否定した身とはいえ、ここまで酷いとは思いもよらなかった。