Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    マメ

    bintatyan

    DOODLE事後の土井利(なまめかしくはないです、初夜後)
    美しいものすべて――利吉くん。きみがはじめて私をお兄ちゃん、と呼んだ日のことを、夢に見る夜があるよ
    半助が言うと、利吉は『いきなり何の話です』と言いたげな表情で見返してきた。
    静寂が耳に痛いほど、虫の音すらもなくただ窓から射し込む月の光だけがけざやかだ。濡れたようなつやつやとした双眸を覗き込むと、あの日の花畑が見える。半助の運命が変わった日。
    「後悔していますか」
    「ん?」
    「私とこうなったこと」
    もう今や寂れた、ほとんど客のないような木賃宿で半助は初めて利吉を抱いた。一応の管理をしている老婆は体のあちこちを悪くしていて、また別の粗末な、他にほとんど人もいないような長屋で寝起きしているという。元は今よりよほど賑やかな村だったものが、ここから少し足を伸ばした先により商売に都合のいい立地である宿場町ができたことで急速に廃れた。ほとんど人は残っていないのを、それでも残った何人かが守って暮らしているのだった。そういう、人目につかないところであることが肝要だったからあえて選んだ場所だ。人込みに紛れることも考えたが、利吉の容姿は秀でていて、注目されやすい。今日この日、彼をそういう目で見る不埒者は己だけでいいと思った。ばかみたいな話だ。
    1562