Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    千歳

    ミトコンドリア

    DONE『かくのみにありけるものを君も吾も千歳の如く頼みたりけり』

    相互の誕生日に捧げた👹🦊
    ▓隠し 待ちに待った夏祭りの日だってのに熱が出て、ミスタはひとり布団の中で不満げにグスグス鼻を啜っていた。
     昼には38度近かった熱も日が落ちるにつれて和らぎ、暇を持て余してウゴウゴと暴れる。少しダルい感じはあるが動けないほどではなかったので、夕食を持ってきたお手伝いの老婆に行ってもいいか訊いたのだが、案の定宥めすかされて畳の上に逆戻りである。
     壁掛け時計の針の音が畳に落ちる。ボーーン…と間延びした渦巻きリンの鈍い音が午前2時を告げた。全ての生き物が眠るこの時間を丑三つ時というのだと、ミスタは3歳のときに病気で死んだ祖父に教えられて知っていた。
     パチッと目を開けて、庭に面した障子をゆっくり開ける。冷たい沓脱石に縁側の下に隠しておいた草履を履いた足の裏をペタリとつけて、十数えた。それで誰も起きてこないのを確認してからミスタは勢いよく走り出した。裏の勝手口から猛然と家を出て、田舎のだだっ広い畦道を突き進む。真夏の生ぬるい風が火照った頰を撫でた。高い空に幾万の星がチカチカしている。蛙と虫の鳴く声を置き去りにして、珍しい鬼を祀っている神社の長い石段を駆け上がった。人々の喧騒と馬鹿囃子が近くなる。
    4534

    harunoyuki

    DOODLEフィガファウ/魔法舎のフィが、二千歳のファが暮らす未来に迷い込む話/魔法舎では付き合いたてで、まだ何もしていないふたり
    きみが幸せだなって思うとき「…………あれ?」

    ふと気付くと、鬱蒼とした森の中、赤い屋根の一軒家の前にいた。
    見知った場所ではあった。東の果て、呪い屋…というには些か清廉にすぎる魔法使いがひっそりと居を構える、嵐の谷。だが珍しく雷雨でも暴風でもないらしい。穏やかな夕陽で、家の壁も傍の木々も、茜色に染め上げられている。素朴な絵画にでもありそうな、いたってのどかな情景だ──平時ならば呑気に感嘆していられるのだが。

    (おかしいな、俺、診療所にいたはずなんだけど……)

    今回の帰省は常よりも多忙を極めた。
    夕刻に任務から戻って来たかと思えば今度は深夜、南で経過観察をしていた妊婦が予定より早く産気づいたとの一報を受け、取るものも取り敢えず箒を飛ばし、明け方無事に元気な赤子を取り上げたのはよかったものの、そこから休む間もなく、やれ子供が転んで膝を擦りむいたとか、老婆が散歩から帰って来ないとか、しまいには機嫌を損ねた飼い牛が牛舎に入ってくれないとか云々、我ながら引く手あまたの人気者だった。ああ、あと川沿いの土手が大雨で崩れていたのを、応急処置もしたんだったか。
    28514