Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    天野

    aoitori5d

    TRAINING愛しい人に出会えた喜びに花を咲かせた穏やかなローくんはもういないっていう話です。

    by天野月子/花冠
    穏やかなわたしはもういない 彼に無理やり、攫われるようにして連れ出された病院巡りの旅の当初から、彼が子供の扱いに慣れていないことはわかっていた。大人と子供の歩幅(それも彼は随分大柄だった)を加味しない歩き方や、それでおれが引き離されているのをようやく理解すると、おおよそ子供にするものではない、まるで猫の子かハンドバッグを持つような抱え方をして持ち運ぶ。それまでちょっとした嗚咽や呻きの一つさえ上げることのなかった無口で不気味な大男は、その実案外お喋りでくだらないことをベラベラと途切れることなく話し続けた。それは話好きだからというものではなく、ただ単純に十三も年の離れたおれをどう扱えばいいのかわからなかったからだろう。緊張からやや早口で、鳥が飛んでるだの雲のかたちがお尻に見えるだの、幼児相手にするんならまだしもおれはあの頃すでに十三だった。彼はおれという存在を早々手に余らせつつも、けしておれの手を離そうとはしなかった。くだらないことを喋っておれが鼻白んだ目で見つめても、シュンと一瞬肩を落としたかと思えばまたすぐにパッと顔を明るくさせて「屁が出そう!」などと宣う。彼はきっと、そんなことを言うような男ではなかっただろう。ファミリーに居たときだって、誰かが下卑た話をし始めるとおれやベビー5なんかのガキをおもむろに叩き出し、そしてサングラスの奥の瞳を眇めて煙草を噛み潰していた。そんな彼がくだらないことをスピーカーのように話し続けた理由はただ一つ。陰鬱な顔をしたガキをどうにか笑わせてやろうと必死だったのだ。彼はどうしてだか、笑顔に拘るひとだった。常に笑みを刷いた化粧もそうだけれど、彼はことあるごとにおれの眉間の皺を突いて笑った。「なあ、そんなガキの頃からしかめっ面で、皺が取れなくなっても知らねぇぞ」なんて大きな口を広げて笑っていた。
    7396

    みどりた//ウラリタ

    DONE『叔母と甥』上下巻より
    秀信+七緒
    帰ってきた叔母を受け入れらるか悩む甥
    パルシィに連載中の第9話付近、そのころの秀信は……。
    ゲーム本編と若干違う点はありますが、秀信と再会を果たしていればネタバレはありません。
    秀信+七緒 杞憂「龍神の神子が現れた?」

     思わず筆をおいて報告に来た者の言葉を繰り替えした。
    比叡の怨霊騒ぎを鎮めた娘がいるらしい。それも若く、年頃の娘。
    怨霊を刺客として送り込まれる立場として怨霊を業から解き放つことのできる龍神の神子の再臨も、民の暮らしを思う城主の立場として静謐の世に不可欠な龍神の神子の再臨も真実であれば喜ばしいことではある。
     誰にも聞こえぬように短く息を吐いた。
    無駄とは分かっていても念のため人をやるように指示をして庭に身体を向けると、今年も桜が散り木瓜の赤い花が咲き始めているのが見て取れた。その赤をこの城で一人、幾度見てきたことだろう。
    怨霊を鎮めた娘がいると聞けば人をやり、雨を降らせた舞手がいると聞けば人をやった。しかし今は隠れし龍神に選ばれた最後の神子、自身の叔母であるなお姫が見つかることはなかった。そして新しい神子が選ばれたとも伝え聞かない。
    2325