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    失声症

    azisaitsumuri

    MAIKINGと思いつつ、傭は耳や目が研ぎ澄まされて行くと言うか、悪化して行くような気がするんだよなぁ…←(失声症傭の件)
    耳聡いの傭の方にすれば良かったかもしれない←荒地と成った戦場から一時撤退して彷徨って居た。足は鉛のように重いが、ここで止めてしまっては、もう二度と立ち上がれない気がした。足を取るばかりの荒野に、やっとまばらだが草が見え始めたと思ったが、そんな風に下ばかり見て居たせいか、自分以外の爪先に気付くのが遅れた。こちらに向けられたそれが、兵士のものではないことしか分からない儘、そこで意識を途切れさせた。更地に突いた膝のざらついた感触が何故か無かったことが、その時の最後の思考と成った。目覚めると、木目の天井が滴って来そうな程潤いの有る湿り気が、空中に有った。なのに寝かされて居た寝台の敷布はさらりとしていて清潔だ。冷たくて湿った空気は乾いた戦場より遥かに心地良かったが、それでは足りない程に渇いて居た。それを知ってか、吸い飲みを口に当てられ、水を飲まされるので、飢えに喘いで奪って飲み干した。しかしそれは。「如雨露じゃねえか…」「如雨露ですが?」如雨露を吸い飲み代わりにした人物は、木が立つように背が高く、上体を起こしたその姿を見上げるのに骨が折れた、いや、折れそうだ、首が。「介抱してくれたのは助かった。悪かったな。」「塒の外から、引き摺るような足音が耳障りでしたので。」「…悪かったな。」「でも、ホラ、」相手はまた身を屈めて、今度はもっと近く、こちらの胸にその小さな耳を押し当てて身を寄せた。「騒ついていた呼吸も、綺麗に成りましたよ。」一々嫌味っぽいが、満足そうに溜め息を零されては、命の恩人であることを差し置いても、なんとも言えない。どれくらい世話に成って居たのか分からないが、だいぶ楽に成ったことを感じる体を、好きにさせて遣るのも吝かでない。
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