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    nonkasuneko

    PROGRESS新刊の原作軸アフターif、記憶を失って北洋漁業の労働者となっている杉と、その船を出している会社の事務員になっている、金塊争奪戦で片腕を失った尾。記憶の無い杉は尾を溺愛するようになっていく。しかし二人が生きる道は厳しい…その中でふたりは…
    終演 人間から人間への愛、
     これはおそらく私たちに課せられた
     もっとも困難なこと、究極のことであり、
     最高の試練、最後の試験です

    『リルケの手紙』より









     梅雨のない函館でも、六月は長雨の季節だ。季節がひとつ戻ったような冷たい雨が、しとしとと降る。尾形の務める大東洋海産にその連絡があったのも、六月半場を過ぎた雨の日だった。
     ひと月前から社が出しているマス漁船の船長が、海に落ちて死んだという知らせを、尾形は大東洋海産の社中で聞いた。突然の訃報に社内は少しだけ騒がしくなった。しかし、すぐに静まった。船長が死のうと漁を続けて貰わねば、高い燃料費をかけた元が取れぬという上層部の判断を、尾形はまあ妥当な所だと思いながら聞いた。それは周囲も同じだったようで、異を唱えるものはいなかった。尾形はしばらく隣の席の同僚と、なぜ船長が海に落ちたのかを話し、飽きると仕事に戻った。
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