現人神
s_toukouyou
DOODLE水銀黄金/現人神/9月のテーマ「酒」「酒か……」
悩まし気に眉をしかめた金髪の少年に、影のような男は微笑んだ。
成長途中のアンバランスさの残る美貌が苦慮に歪むのは、妙な色艶があった。桜貝のような爪がガラスの表面を滑り、ワイングラスの中で深い色合いの液体が揺れる。
好んで飲んでいたのを知っているからわざわざ持ってきたわけだが、酒が飲めるような歳ではないのも知っている。そもそも今のラインハルトは酒が飲める歳まで成長しない。
「すこしくらい、良いではないですか。あなたが多少趣味を楽しんだところで、咎めるものはおりますまい」
蛇の誘惑であった。
禁断の果実は葡萄であるという説もあるらしいと考えながら、結局少年はワイングラスを手に取った。
ワイングラスを遡って香る酒精に少年は目を細める。匂いだけでその白い頬に赤が散る。グラスの淵にちいさな唇の痕がつけられた。
1042悩まし気に眉をしかめた金髪の少年に、影のような男は微笑んだ。
成長途中のアンバランスさの残る美貌が苦慮に歪むのは、妙な色艶があった。桜貝のような爪がガラスの表面を滑り、ワイングラスの中で深い色合いの液体が揺れる。
好んで飲んでいたのを知っているからわざわざ持ってきたわけだが、酒が飲めるような歳ではないのも知っている。そもそも今のラインハルトは酒が飲める歳まで成長しない。
「すこしくらい、良いではないですか。あなたが多少趣味を楽しんだところで、咎めるものはおりますまい」
蛇の誘惑であった。
禁断の果実は葡萄であるという説もあるらしいと考えながら、結局少年はワイングラスを手に取った。
ワイングラスを遡って香る酒精に少年は目を細める。匂いだけでその白い頬に赤が散る。グラスの淵にちいさな唇の痕がつけられた。
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DOODLE水銀黄金/現人神小ネタ「カールよ」
足を掴まれたまま、少年は影を呼んだ。応えはない。影は少年の足の爪を整えることに執心していた。丁寧に磨き上げて、ゴールドラメ入りの透明なマニキュアを塗るのに忙しいのだ。
少年は結局枕を抱きしめて、ベッドに倒れ込んだ。まあ大人しくしていればいいのだから、もう寝てしまってもいいだろうか。良いはずだ。
すやぁ、と寝てしまった少年に、影は相変わらず警戒することを知らないと思ったとか、思わなかったとか。
207足を掴まれたまま、少年は影を呼んだ。応えはない。影は少年の足の爪を整えることに執心していた。丁寧に磨き上げて、ゴールドラメ入りの透明なマニキュアを塗るのに忙しいのだ。
少年は結局枕を抱きしめて、ベッドに倒れ込んだ。まあ大人しくしていればいいのだから、もう寝てしまってもいいだろうか。良いはずだ。
すやぁ、と寝てしまった少年に、影は相変わらず警戒することを知らないと思ったとか、思わなかったとか。
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DOODLE水銀黄金/現人神「ご機嫌麗しゅう、影殿」
共用スペースに設置された机で作業をしていたところに、影の如き男がやってきたことに気が付いて、私は丁寧に挨拶をした。
影の如き男の用件は察している。我らが輝かしき光が側にいないのを見るに、その行方を尋ねに来たのだろう。
「どこにいるか、知っているか」
そら来た。
主語すらない問いかけだが、その意図を汲めないわけもない。この影の如き男が自ら尋ねるのはひとりに関することのみだ。
私は少し考え込んでから、首を横に振った。
「いいえ、本日私はかの方にお会いしておりませんので……お役に立てず申し訳ございませんが、他の方に尋ねられたほうがよろしいかと」
影の如き男の温度のない視線に、私は困ったように微笑んだ。幾度かの瞬きの間、微苦笑を崩さずにいると、影の如き男はそうかと一度頷いて去っていった。
1272共用スペースに設置された机で作業をしていたところに、影の如き男がやってきたことに気が付いて、私は丁寧に挨拶をした。
影の如き男の用件は察している。我らが輝かしき光が側にいないのを見るに、その行方を尋ねに来たのだろう。
「どこにいるか、知っているか」
そら来た。
主語すらない問いかけだが、その意図を汲めないわけもない。この影の如き男が自ら尋ねるのはひとりに関することのみだ。
私は少し考え込んでから、首を横に振った。
「いいえ、本日私はかの方にお会いしておりませんので……お役に立てず申し訳ございませんが、他の方に尋ねられたほうがよろしいかと」
影の如き男の温度のない視線に、私は困ったように微笑んだ。幾度かの瞬きの間、微苦笑を崩さずにいると、影の如き男はそうかと一度頷いて去っていった。
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DOODLE現人神 膨らんでいくビニールプールを眺めながら、設置された椅子に腰かけている少年は足先を揺らした。つま先が地につかないのを良いことに、ぷらぷらと足を遊ばせている。
照りつける日差しは強く、肌が痛むほどだ。庭の木陰を選んで用意しているとはいえ、作業をしている青年は大粒の汗を額に浮かべていた。
「水分補給は適度にしなさい」
差し出された少年の飲み物を、青年は満面の笑みで恭しく受け取る。根をつめすぎるなとは常々伝えているのだが、どうにも無理をしたがる。御身のためならえんやこらですとも、とは彼らの合言葉である。
近くの木々の枝にロープを張り、視線を遮るための薄絹をかけて、プールの用意をした青年は去っていった。
用意された水着、というより滝行に臨む修行僧のような水衣に身を包んでいた少年は、その格好のまま足先をプールの中に伸ばす。ひんやりとした水をちゃぷちゃぷとかき回して、ひょいとプールの中に飛び込んだ。
629照りつける日差しは強く、肌が痛むほどだ。庭の木陰を選んで用意しているとはいえ、作業をしている青年は大粒の汗を額に浮かべていた。
「水分補給は適度にしなさい」
差し出された少年の飲み物を、青年は満面の笑みで恭しく受け取る。根をつめすぎるなとは常々伝えているのだが、どうにも無理をしたがる。御身のためならえんやこらですとも、とは彼らの合言葉である。
近くの木々の枝にロープを張り、視線を遮るための薄絹をかけて、プールの用意をした青年は去っていった。
用意された水着、というより滝行に臨む修行僧のような水衣に身を包んでいた少年は、その格好のまま足先をプールの中に伸ばす。ひんやりとした水をちゃぷちゃぷとかき回して、ひょいとプールの中に飛び込んだ。
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DOODLE現人神おしょたけものどの/モブ視点 なんでこんなことに。
内心愚痴りつつも、引きつりそうになる口元を無理矢理押さえつけて、微笑みの形を作る。
隅々まで手が入れられた庭園、小さいながらも精緻なつくりの東屋。差し込む日差しは柔らかく、吹き抜ける風も心地よいというのに、噴き出る冷や汗は止まらない。
目の前には少年がいる。長い金の髪を三つ編みにまとめて、黄金の瞳を楽し気にきらめかせた少年だ。身にまとう衣服は聖職者じみている。まあ、男が調べた限りでは、"じみている"どころではないのだが。
予定にない接触に、危機感ばかりが増していく。
つまり、目をつけられている。
男の内心を見通しているかのように、少年はくすりと微笑んだ。
3902内心愚痴りつつも、引きつりそうになる口元を無理矢理押さえつけて、微笑みの形を作る。
隅々まで手が入れられた庭園、小さいながらも精緻なつくりの東屋。差し込む日差しは柔らかく、吹き抜ける風も心地よいというのに、噴き出る冷や汗は止まらない。
目の前には少年がいる。長い金の髪を三つ編みにまとめて、黄金の瞳を楽し気にきらめかせた少年だ。身にまとう衣服は聖職者じみている。まあ、男が調べた限りでは、"じみている"どころではないのだが。
予定にない接触に、危機感ばかりが増していく。
つまり、目をつけられている。
男の内心を見通しているかのように、少年はくすりと微笑んだ。