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    34

    調@大人向け他

    INFO3月16日東京開催のHARUCOMIC CITY 34にて、『その健やかなるときも』(小説合同誌)を頒布いたします。
    執筆者は以下、
    ORION 夜明さん
    BellaDonna Doll 高階さん
    くじら書房 えすさん
    白妙舎 調
    新婚をテーマに四季をそれぞれが担当し、それぞれの塚不二を綴っています。
    こちらは調担当の秋「I know」冒頭のサンプルです。
    『その健やかなるときも』「I know」より抜粋   一


     夜のふもとともまた違う、薄闇に手塚は立っていた。視界はうっすらすみ色で、その暗がりのどこかから、まっかだな、と歌声がした。誰のものともしれない声が繰り返す。まっかだな、まっかだな――……。
     小学校で、秋になるとよく歌わされた童謡だ。そうだ、俺にはこの歌がよく分からなかった――。手塚は今さらそんなことを思い出す。もう十何年、いや、何十年は前の話だ。
     幼い疑問が闇の中、無音で首をかしげている。あちこち真っ赤で、きみとぼくもほっぺたが赤くて、だからどうしたというのだろう。紅葉こうよう、夕日、秋なら当たり前のことだ。
     綺麗な秋をきみと過ごせてしあわせなのだと困ったように笑ったのは、何年生の教師だったか。音楽を習った教師は多くない。その内の誰かであるのだろうが、顔はそれこそ闇のようにぽっかりと暗い口を開けていた。ぎこちなく笑みを作った唇が、はくはく動いて手塚に言う。手塚くんには、むずかしいかな――?
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    月海 故

    DONE2022年3月27日発行の無配。
    植物研究者の無惨とカフェ店員の縁壱の話。
    キャラクター崩壊が顕著。なんでも許せる人向け。むざより未満。
    第3話は2025年3月16日【HARU COMIC CITY 34/日輪鬼譚 HARU2025】にて頒布予定。

    💝第1話、第2話共に冊子版の頒布が終了したため公開いたします。
    お手に取ってくださりありがとうございました。
    カフェ・ボタニカル 私の行きつけの喫茶店には、花を咲かせるように笑う店員がいる。
     だがその男、始終ニコニコとしているわけではなく、どちらかといえば仏頂面を見せていることの方が多い。ただ、目が合うと綻ぶように表情を和らげるし、問い掛けに答えればそれを満開にさせるのだ。
     人と触れ合うのが好きなのだろう、私とは違って。


     早春、新たな仕事に就くためこの地へ来た。
     職場近くにあるその店の外観を気に入って立ち寄ったのがきっかけだったが、出す料理もコーヒーもなかなかに美味い。
     それからもう三ヶ月ほど通い詰めているが、今は週に数回、食事や茶を楽しんでいる。

     件の店員は二十代半ばといったところだろうか。主な仕事は給仕。
     座席数はカウンターの他、テーブル席が十席ほどの店内だ、そこまで広くはない。給仕の男はそのテーブルの間をデカい図体で行ったり来たりする。
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