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    4月

    nmc29bananaxxx

    MEMO🐰篤4月ボイスを聞く季節ですね
    散り際が一番美しい 君島が日本に滞在する期間は仕事とテニスの合宿のときだけだが、桜の季節にそれが重なると、自分も日本人なのだなと改めて感じる。薄紅色の花びらが咲き誇る光景は美しく、心が洗われるような思いがするからだ。
    「綺麗ですね」
    「そうかァ?明日には全部枯れてたりしてな!」
     そう言ってけたけたと笑う隣の男は自分よりもよほど日本に長く住んでいるはずなのに、どうしてこうも風情がないのか。わかっていたこととはいえ、ついため息が零れる。
    「本当にアナタって人は、情緒とかそういうものがありませんね」
    「俺にそんなもん求めんなよ。桜ねえ……地元はもっとすげえからな」
    「ああ……なるほど」
     確かに彼の故郷には桜の名所があると聞いた。城を一望できる公園には、さまざまな種類の桜が何千本も花を咲かせるのだという。それはさぞ風光明媚なことだろう。そんな素晴らしい景色にも大して関心がなさそうな男は、さらさらと絹のような黒髪を揺らしながら、時折舞い落ちる花びらを交わして歩いていく。皮肉にも大層画になるその様に、君島はすうっと目を細めた。練習終わりの日も暮れた帰り道、辺りには誰もいない。
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