呂布
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DOODLE気づいてしまったトールと断る呂布の雷飛「私は、貴様が好き……なのかもしれん」トールから捻り出された言葉は、呂布を唖然とさせるには充分だった。ぽろ、と肉がこぼれ落ちたのを下につくまでに拾い上げることになんとか成功した呂布は、それを口に放り込みもぐもぐと噛み締めてからごくりと飲み込んだ。
「なんだ、それは。どういうことだ」
「そのままの意味だ。私は、お前が好きなのかもしれん」
トールはもう一度言った。一度言ったからか、次には絞り出すようにではなく随分とスムーズに言葉に出していた。
「それはどういった意味の好きだ?」
「……愛おしいと思ったり、慈しみたいという気がしたりする、それだ」
呂布はうっかり杯を取り落とすかと思った。トールから愛おしいだの慈しみたいだのという言葉がでてきたことに驚いたが、それ以上にそう言われているのが自分であることに、驚愕したのであった。
「待て。相手は誰だ? 本当に我か?」
「ああ。貴様だ」
肯定されて、呂布は頭痛がしてきた。まさか自分が? という気持ちでいっぱいであった。しかもそれが友と認めた、友だと思っている、友として扱っているし、向こうも友として扱ってきているはずの、トールから言われてい 1659
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DOODLE自分の感情に悩むトールとめんどくさがる呂布の雷飛愛、という言葉は、二人の間にはあまりにも似合わないものだ。だから、決してこれは愛ではない、とトールは定義していた。わかっていた。わかっている。わかって、しまっている。これは愛などではないと。愛と呼べるほど甘やかではなく、激しく、燃えるように、苛烈で、暴力的な、それは愛などでは決してないのだと、そう、理解しているはずだった。けれど呂布を見るたびに、感じるたびに、思い返すたびに、弾ける胸の内を表せる言葉を、トールは知らなかった。友に向けるには凄絶過ぎるそれを、どう定義していいのか。その問題は詩情を理解したことがないトールには難しすぎた。
この胸の内を、どう表していいのか。困って、困って、困って。
「それで我に尋ねてどうするんだ」
トールよりも詩情というものを理解しないであろう友、呂布本人に尋ねるまでに至った。
呂布は此奴混迷し過ぎだろう、という感想を持った。それでもこの頃には聞くだけは聞いて放置というわけには行かず、一緒に考えてやる程度にはトールのことを突き放せなくなっていた。
「激情ではダメなのか」
「ダメだ。もっと好意的な解釈がしたい」
「慈しみ」
「そうではない。これはそこ 1222
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DOODLE呂布に死んで欲しくないってしたトールと対応に追われた呂布の雷飛「貴様は、天でも、退屈したら死ぬのか?」「まさか。ここにはトール、お前がいるではないか。それだけで、我の日々は退屈からは程遠い」
トールは眉間に皺を寄せたままその言葉を受けた。呂布の言葉に懐疑的なのはそれだけでわかった。面倒だな、と思いながら呂布は頭を掻いた。なにかの拍子に生前の呂布について見てしまったトールは、呂布が目の前から消えることを恐るようになった。なるべく目の届く範囲にいてほしい、と友に願われた呂布はしかたなしにそれに付き合っていたが、陳宮が近況を送ってくる頻度が高くなり、また赤兎馬の様子も気になっていた。そのため、この状況を打破しなくてはならないな、と思っていたところだった。
喋るのはあまり得意ではない。全てを解決してきたのは武、であったから。言葉などは不要だった。武以外のことは陳宮やほかの配下に任せてきたこともあり、不得意であった。いくら頭を悩ませたところで武器を取る、以外の答えが見当たらない。顔を曇らせる友に、慰めの一言すらでてこない。体を動かすのは自由であった。軽い手合わせなら何度もした。呂布はどうすればいいのかと考える。…………。ちっともわからなかった。
呂 1238
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DOODLE稲妻に焦がれる呂布と人間に焦がれるトールの雷飛空を裂く一瞬の光。遅れてやってくる轟音。すべてを壊す空から降ってくるそれに、呂布は焦がれていた。
ああ、そうきっと。初めてそれの起こした結果を目にしてから、ずっと。天にはすごいやつがいるのだ、と。そう、焦がれていたのだ。心の臓を昂ぶり揺らす、それを、ずっと待ち望んでいた、その感情は恋にも似ていた。
「この世界に、雷神と呼ばれる存在は、私だけではなく複数いるのだがな」
酒の席、呂布が語る話を聞いていたトールはぽつりとそう言った。それを聞いた呂布は、一瞬ぽかんとして、それの示すことを理解すると喉を鳴らして笑う。
「お前、まさか妬いているのか?」
呂布はククク、と笑いながらトールに尋ねる。するとトールはそれとわかる仏頂面で頷いてきたので、次こそ呂布は声をあげて笑った。
「これは傑作だ! トールが他の雷神に嫉妬とは!」
「貴様が変なことを言い出すからだろう」
むっとしたままトールは盃を傾ける。呂布も笑ったまま酒を口にする。
「心配せずとも、我にとって雷神とはお前だけだ、トール」
「……それを聞いて安堵する自分が嫌だな」
トールは眉間に皺を寄せる。雷を司るといえばギリシャ神のゼウス 1204
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DOODLEくちづけがしたいトールとわからない呂布の雷飛くちづけを、トールが願ってくるとき。呂布はトールのことが一瞬わからなくなる。
武器を交えれば、理解し合えたはずの相手のことが、わからなくなる。こんなことはいままでなかった。なぜなら、武器を交わした人間は、みんな死んだからだ。みんな、殺したからだ。けれど、相手は人間ではなく、神であるから。しかし、しかしそれだとて、わからないはずもないことなのに。
くちづけを乞う、普段よりも柔らかで、甘やかな声が、呂布を苛んでいることを、トールは知っているだろうか。きっと知らないだろうな、と呂布は自嘲する。
それを隠して、呂布はトールの願いを受け入れる。拒否してもいい。それを言う権利を、呂布は与えられている。けれど、そうはしない。何故だ、と誰に尋ねられることもないことを、呂布は自らの中で繰り返す。さて、何故だろうな、などと曖昧にして、呂布はトールの願いに、ああ、と肯定の返事をする。
そっと、壊れ物を扱うかのように顎を掬うトールの手が嫌だった。
逃げられないよう力任せに押さえ付けられた方が、遥かにマシだった。
では、呂布はトールからくちづけを受けることが、嫌なのだろうか。拒絶している意思を示 1108
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DOODLE呂布の死体を欲しがるトールとわからない呂布の雷飛「貴様が死んだあと、屍はどうなった?」今日の二人だけの飲みの席。トールから唐突にそう尋ねられ、呂布は首を傾げた。なぜそんなことを尋ねられたのかがわからないが、答えはひとつである。
「死んだ我が知る由もなかろう。曹操にでも聞け」
おそらく、おそらく、碌な扱いはされなかったと思う。徹底的に、蘇らないように壊し尽くされ、墓すらないのではないだろうか。
それに加え、呂布が死んだのは千を重ねる昔の話だ。もし形が残っていたとしても、それは骨のひとかけらくらいのものだろう。たとえ、なにかの拍子にそれが見つかったとしても、呂布にはもうどうでもいいことだ。
「なんだ、我の屍が気になるのか?」
「ああ」
トールは頷いた。
「もっと早く貴様と出会えていれば、回収できたかもしれん」
「お前もなかなか馬鹿なことを言う……回収してどうなるものでもなかろう」
手酌で酒を注ぎながら、呂布は笑う。本当に、トールはなにを言っているのだろうか。
「天で死ねば死体は残らん」
トールは言う。天での死は魂の死。宇宙の塵芥となりただ消えいくのみ。
「また、貴様が死なんとも限らんからな」
「お前の慰みのために我の死体が 1240
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DOODLEキスがしたいトールとそれを受け入れる呂布の雷飛「口づけがしたい」トールが深刻そうな顔で部屋に呼んだと思ったらそんなことであったので、呂布は大いにため息をついた。無駄に顔がいいこの神は、何故だか呂布のことが大好きなのだった。少し前にトールが呂布を真剣に口説いてきたこともあって、二人はいわゆる付き合っている、という状態になっていた。というかトールが粘った。渋る呂布に圧をかけ、粘ったり脅したり駄々をこねたりしながら了承させたのであった。呂布に対してそんな芸当ができるのはトールだけであることは間違いない。
そういうことがあって、トールと呂布は付き合っていたのだが、別に変わったことはしていない。殺し合いはランドグリーズの暇を見て週に二度だし、たまに食事を共にし、またセックスをするくらいである。セックスは付き合う前からしていたので、なにが変わることがある、と思っていた呂布だったが、トールの態度が微妙に変わった。なんだか、こう、具体的にはどう変わったとは言いづらいのだが、変わったのである。よく呂布に微笑むようになったというか、視線があたたかくなったというか、二人きりのときには甘ったるい雰囲気を出すようになったというか……。正直、そんなトー 1772
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DOODLE付き合ってることに固執するトールと別にどうでもいい呂布の雷飛いろいろあった。そう、いろいろあった、のである。そのいろいろあった間にすったもんだがあり、その結果トールと呂布は付き合うことになった。交際を始めたのである。やることはすでにやっていたくせに交際までに結構な時間がかかってしまったのは、それこそ冒頭にあるようにいろいろあったからではあるが、まあ二人の現在がよければいいはずのことであった。
ところが、ところが。二人の関係は暗礁に乗り上げていた。
付き合うことになったところで、二人のやることと言ったら武器を交えるか、共に食事をするか、セックスをするか。この三つだけであった。それなら付き合う前と何も変わらないだろうと、なにかしようとしたのだが、なにも思い浮かばなかった。世間一般では付き合う、というのはいったいなにをする関係なのだろうか。とくに悩んでいない呂布はおいておいて、トールは尋ねて回った。
「デートをしたらいいのではありませんか?」
神に尋ねれば碌でもない意見しか出なかった中で、唯一まともな回答をしたのは、ラグナロクの四回戦を戦った、殺人鬼ジャック・ザ・リッパーであった。
「デート?」
「ええ。買い物にでかけたり、綺麗な景色を見に 1497
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DOODLEちいさくなった呂布に我慢できずにキスをするトールの雷飛いろいろあった。そう、いろいろあった、のである。その結果、トールは小さくなった呂布を膝の上に乗せていた。
詳細は省くが、呂布は子供になっていたのであった。トールがその処理に当たろうと動けばおおごとになるため、呂布とともにおとなしくしていてほしい、と言われた。なのでそうしている。膝の上に乗るトールの好敵手は非常に軽い。ピン、と指で弾けば飛び散ってしまいそうなほどである。子供はこれまでの記憶をなくしているらしく、トールのことをいかづちと呼び、純粋な殺意を向けてきた。……殺意を向けてくるところは、呂布らしく、トールは嬉しく思った。
しかしながら、どうにもこの状況はいただけない。さきほどまで殺意を向けてきていたとは言え、膝に乗った呂布はおとなしい。時折、振り返りトールと目が合ってはさっと前を向いてしまう。
子供と触れ合う機会がないトールは、子供とはこんなものだっただろうかと思いながら、その小さな頭蓋骨を眺めていた。鷲掴めば、ぐしゃりと潰れるだろう。泡沫のように持ち上がる思考をぱちんぱちんと弾けさせていると、呂布が言葉を発した。
「いかづちよ、その……聞きたいことがあるのだが」
「なん 1969
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DOODLE行為のとき首に噛み付こうとしてくる呂布を肩に誘導するトールの雷飛。いろいろあった。そう、いろいろあった、のである。その結果、トールと呂布は、いわゆるそういうことをする仲になっていた。この話は二人が寝所を共にしているところから始まる。
首とは急所である。それは人も神も同じだ。否、神にとって弱点であるから、神を模して作られた人間もそうなっているのだ、と言わなければならないだろうか。首は頭部と胴体を繋ぐ関節であり、また太い血管の流れる箇所である。そこに食いつかれようとするならば、危機を感じ、避けようとするのが普通の心情であろう。
それは、北欧最強神であるトールもそうであった。首に食らいついてこようとする友の額を押さえそれを阻止する。
「噛むなら肩にしろ」
押さえた頭をそっと肩の方に誘導すると、呂布はおとなしく肩に齧り付いた。呂布の鋭い歯で噛まれたことにより、痛みが走るがその程度で表情を歪めるトールではない。がじがじと肩に歯型を付ける呂布に、ほどほどにしておけなどという言葉をかけようかと思ったが、やめた。どうせもう聞こえてはいないだろうことがわかったからだ。
意識が朦朧とする中でもしっかりとトールに掴まり、肩に齧り付きながらも時折口を離し喘ぎ声 1774