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    呂布

    amei_ns

    DOODLE子猫にじゃれつかれるトールを見てる呂布の雷飛「助けてくれ」
     トールが助けを求めるなど、どんな天変地異があってもないことだと思っていた。けれど、それは有り得たらしい。トールからの連絡があり駆けつけた呂布は、その光景を目の当たりにし、驚愕で目を見開いた。
    「お前、なにをしているんだ……?」
     トールは子猫に群がられていた。数は、五匹くらいだろうか。ぴゃう、ぴゃう、などと鳴きながら、小さすぎて恐れというものをまだ知らないのだろう。トールの足元をよじ登っていたり、その足元でころころと転がっていたりと、それぞれに違う反応はしていたもののどれもがトールの傍にいるという点では一致していた。
    「見て分かるだろう」
    「いや、見て分からん。どうした?」
     使用人が邸の傍に捨てられていた箱を持ってきたら入っていた、というのである。
    「私を恐れない生き物など初めてだ……」
     はぁ、と溜め息をつくトールの揺れる髪の毛にちょいちょいと手を出している子猫もいた。
    「お前のことだから捻り潰していても不思議ではなかったが」
    「こんなもの、殺したとてどうなる」
     呂布が近付き、一匹をひょいと拾い上げる。シャーとも言わない、警戒心というものすらまだないのではあるま 1199

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    DOODLE呂布を愛してるトールと満更でもない呂布の雷飛 トールの手は、狂戦士の手だ。破壊者の手だ。誰かを助けるためではなく、壊すために存在する手だ。行く道を阻むものがいるなら、敵対するものがいるなら、すべて打ち壊してきた手だ。
     その手が、鉄の手套を外した、素のままの手が、平常時のミョルニルですら握り壊してしまうほどの手が、優しく呂布の頬に触れる。愛おしいといわんばかりの所作で。それを呂布は受け入れている。その暴力を冠するような手がそんな風に触れてくることがさも当然であるかのように、受け入れていた。
    「お前は本当に我が好きだな」
     溜め息混じりに呂布は言う。心底呆れているかのような声色であったが、顔は緩んでいたため、それが照れ隠しであることが伺えた。
    「ああ、そうだ」
     トールは答える。
     そう、なのだ。トールは、呂布が、ラグナロクを戦い一度は消滅したはずの呂布が、再び今世に戻ってきたことを喜び、そして愛した。神が人を愛することは、人間の物語にはあれど、実際はそうないことであった。しかし、トールは自らに傷を付け本気を出させた呂布を、人のそれとは形が違うかも知れないが、愛したのであった。呂布もそれに応えるようにトールを愛するようになった。二 1144

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    DOODLE孤独なトールと癒す呂布の雷飛 トールはずっと、ずっと、ずっとずっと、孤独だった。神の中にいても、みんながみんな、トールより弱く、並び立てるものなどいなかった。どんな敵も、怪物も、トールに傷一つすらつけることができなかった。呂布だけだ。呂布だけが、トールに傷を付け、自分が傷付いてもなお立ち上がり、武器を失い、腕を失い、もうだめだとわかっていてでさえ、向かってきた。
     ――だからトールは好敵手と、友と、呼んだ。神と人間。種族が、生まれた地が、過ごした歳月が、すべてが、違っていたとしても、そのようである、と思ったからだ。
     その友がなんの因果か蘇った。それは絶対にありえないものだと思っていた。しかし、舞い込んできた情報は真実であると物語っていて、トールは初めて歓喜という感情を覚えた。ラグナロク以降ぽかりと空いていた穴がようやく埋まる心地さえした。すぐにでも駆けつけて、呂布の様子を確認したかった。初めての友として、出迎えてやりたかった。けれど、トールの上級神としての立場が邪魔をした。落胆するトールだったが、まあ生きてくれてさえいればいつかは会うことができるだろう、と楽観視していた。そのトールの楽観に影を落としたのは、敗者 1759

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    DOODLE呂布が一日使用人体験をする雷飛 トールの邸にある壺を割った。呂布の完全な不注意だった。
     それを申し訳なく思った呂布はなにか償いがしたいと申し出た。別になにもしなくていい、かまわない、というトールにしつこく言えばならば、とトールは呂布に無理難題を提案してきた。
     ……そもそもトールの邸にあるものと言ったら神代のうちからある年代も年代物であり、人間である呂布に償いきれるものではないのである。形あるものはいつか壊れるのだからどうでもいいというトールだったからこそ不問にできたはずなのだ。その気遣いがわからなかった呂布だったが、トールに提案された難題を飲んだ。普段より自らに不可能という文字はないと豪語する呂布なのだから、それを失念していたトールが悪かった。
     こうして、女物の使用人の服――ようするにメイド服だ――を着た呂布が誕生した。
     サイズがギリギリだったせいで胸や腰、腕周りなどはぱつぱつだったが、呂布の身長はそれほど高くないため、スカートの丈は充分にあった。まるで似合ってない。すごい。陳宮が見たら「お労しや、殿!!」と泣き出すだろう。そして殿が着るのであれば自分もと言い出すだろう。やばすぎる光景になるはずだ。いっそ恐 1412

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    DOODLEキスが好きなトールとキスをされる呂布の雷飛 トールはくちづけをするのが好きらしい、と呂布は気がついた。むやみやたらと呂布の体に唇を落としたがるし、その唇が触れるときには自然と口角が上がっている。そのくせ、痕という痕はつけてこない。まあ、呂布の普段の格好が格好だからかもしれないが。それが気遣いであるとするなら、素直に受け取っておくのである。下手につついて、蛇を出すこともあるまい。
     唇が合わさる。普通なら目を瞑るのかもしれないが、トールも呂布も普通ではなかったので、目を開いたままだ。視線がカチ合ったまま、キスをする。トールの舌が催促するように呂布の唇を舐めると、呂布は口を開き、トールの舌を受け入れた。口内を蹂躙しようとしてくる舌に対し、呂布は応戦する。二人にとって、キスもまた戦いであった。どちらの勝ちというものもないが、相手を負かすことを考えているのであれば、それは戦いとなる。
    「っ、ふ……ぁ」
     呂布の口から吐息が漏れ、それはトールの耳に届いた。官能を刺激する、いい音だった。ぬる、と舌同士が絡み合い、くちゅりと音を立てる。始めの頃はそう、軟体生物のようなそれを受け入れるのは苦手な部類だったが、いまはそうでもない。むしろ心地がい 1381

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    DOODLE神トールと悩む呂布の雷飛 鉄の手套をしていないトールの握力は凶器である。通常時のミョルニルですら握り壊してしまう可能性のあるそれは、紛れもなく殺戮兵器の域に達している。しかし、最近のトールは呂布と素手で触れ合いたいがため、呂布の前では鉄の手套を外すことが多くなっていた。――今回はそれがあだとなった。
     ミシッ、と軋む音がしたと思ったときには、すでに遅く。トールに掴まれた呂布の腕は粉砕されていた。咄嗟のことだったので、トールも力加減を間違えていた。何が起こったのか理解するよりも先に、握り壊された呂布の腕の折れた骨が刺さった血管から、鮮血が溢れ出てトールの手を、落ちた血が床を、汚した。トールが手を離せば、血はどんどんと溢れて、落ちる。呂布には当然痛みはあったが、うめき声一つあげることなく、半ば引きちぎれた腕を完全に引きちぎり、邪魔になった腕を放り投げると、傷を残った手で押さえた。少しでも血の流出を抑えるためだ。
    「布はないか」
     呂布の声で唖然としていたトールはハッとして自らの着ていたものの一部を破り、呂布に渡した。呂布はそれを片腕で器用に流血している箇所に巻きつけ、止血をする。それはどちらかといえばこれ以上床を 1906

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    DOODLEがんばるトールと知らない呂布の雷飛 トールは、これまで人を愛したことがなかった。初めてだ。初めて、他者を愛しいと感じた。慈しみ、愛でたいと思った。しかし、そう思った相手というのが問題だ。その相手というのは、呂布奉先。ラグナロク一回戦を戦った人間である。そう、人間なのだ。
     神と人間。そのロマンスの話は数多くあれど、ほとんどが人間の側の創作であり、事実ではない。人間たちの間で、ゼウスなど恋多き神として知られているが、なにが、なにが。実際のゼウスは戦闘変態嗜虐愛好神である。いつ見てもすごいなこの言葉の圧。
     実際の神は人間など歯牙にかけないものが多く、トールの恋は多難であった。けれどトールは諦める気などさらさらなかった。数多の困難をその力で打ち砕き、解決してきたトールにとって、この程度のことなど乗り越えられないはずがないと思っていた。トールは口が上手くないから、まず口達者な神を自らの協力者にした。その者は初めから協力的だったのでよかった。そこからじわじわと手を広げ、トールが人間に恋をしているという話を固めた。事実そうなのだからしかたがない。ときには反対派を見せしめにしたりしつつ、浮遊層を懐柔し、人間との恋を是とさせていった 1266

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    DOODLE生を感じるトールと聞いた呂布の雷飛 トールには自分の死がわからない。死んだことがないので当然である。でも、きっとわかることがある。自分が死んだところで、世界は何も変わらない。多少の不都合は出ることがあるかもしれないが、それでも、変わらないのだ。それは誰しもが同じこと。多少誰かが死んだとしても、いなくなったとしても、何も変わらない。世界はその程度のことで変わったりしない。――そう思っていた。
     トールの神生は、ある一人の死で変わった。それは、呂布奉先。ラグナロク一回戦を戦った、人間である。その人間の死は、トールを大きく変えた。
     呂布は、トールが出会った初めての好敵手とも呼べる存在だ。いろいろあって再び今世に戻ってくることができたものの、それだけではトールの心は休まらなかった。次になにかあれば今度こそ完全に失われてしまう命のことを考えると、迂闊なことはできないと思った。
     だが、友はそんなことなど知らぬとばかりにトールに挑んできた。今度こそ勝つ、と武器を携えてやってきた。トールは驚いたが、それでこそ我が友と認めた人類だったのだ。それだからこそ、トールは呂布を愛したのだ。
     ――そう、トールは呂布を愛した。初めて、人間を認 1680