マボロシ
のくたの諸々倉庫
DONEそのまぼろしは既に遠く/鍾タル転生したけど先生だけ記憶ないよ! っての大好きなんですよね……Twitterのヘッダーにもしてます。一度閉じたはずの目をもう一度開いたとき、俺がいたのは神のいない世界だった。
「はじめまして、だな」
それでもきっと、俺はどこかで期待していたのだろう。あのひとはきっと生きていて、俺のことを憶えているものだと。
「俺は鍾離という。名前を教えてくれないか」
「……アヤックス、です」
前世培ったものがなければきっと、声が震えていただろう。忘れもしない彼の姿を目にして、素直に喜ぶことができない理由は──既に分かりきっている。
憶えていないのだ、彼は。
「……すみません、ちょっと忘れ物したみたいで。取りに行ってきますね」
これから通うことになる大学と、若くしてその教授であるという彼。たったそれだけのことのはずだった。けれど俺にとっては、ああ、ああ。
「……なんにも憶えてない、かあ……」
息が切れるまで走って、人気のない場所でしゃがみ込んだ。そうしてこぼれたのは決して涙ではないけれど、いっそ泣くことができたらもっとましだっただろうか。
「……はは、なんだろなあ」
どうしようもない。あの場所にいたのはただの鍾離先生であって、俺の知る元岩王帝君ではないのだ。
「案外ショック、だな……」
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