Azure_Qilin
完畢「初めて」「爪」#ぐだ男xリンボ版週ドロライ
初めて・爪「道満の手って大きくてゴツゴツしてるけど、爪が長くって綺麗で……触ってもいいかな?」
「いいですよ」
快い返事とともに右手が差し出された。
道満の長い人差し指を手に取る。先端の硬質な爪甲はまるで彼の耳飾りと同じ翡翠でできているように思えた。宝石から削り出したように惚れ惚れするような輝きを放っている。
その爪先をそっと撫ぜた。ひんやりとしていて滑らかで硬い。不思議な感触だった。
爪の表面をなぞりながら、どさくさに紛れて指の付け根の方まで触れてみる。骨ばった男らしい手だ。この手がいつも俺を助けてくれているんだと思うとなんだか胸が熱くなる。
ふいに悪戯心が湧いた。そのまま手を滑らせて手首の内側に触れる。道満の腕が小さく跳ねたような気がするけれど気にしないことにした。
3946「いいですよ」
快い返事とともに右手が差し出された。
道満の長い人差し指を手に取る。先端の硬質な爪甲はまるで彼の耳飾りと同じ翡翠でできているように思えた。宝石から削り出したように惚れ惚れするような輝きを放っている。
その爪先をそっと撫ぜた。ひんやりとしていて滑らかで硬い。不思議な感触だった。
爪の表面をなぞりながら、どさくさに紛れて指の付け根の方まで触れてみる。骨ばった男らしい手だ。この手がいつも俺を助けてくれているんだと思うとなんだか胸が熱くなる。
ふいに悪戯心が湧いた。そのまま手を滑らせて手首の内側に触れる。道満の腕が小さく跳ねたような気がするけれど気にしないことにした。
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完畢「バレンタイン」#ぐだ男xリンボ版週ドロライ
バレンタイン 道満は困惑していた。
眼前には飾り立てられたチョコレートケーキがある。バレンタインデーに立香へ渡そうと思って製作したものだ。レシピは膨大な電子データから材料に合わせて逆引きで選出した。「コレが作りたい!」というこだわりはなかった。
慣れないチョコレートという食材を難なく扱い、普段料理などしないのにそつなく完成までたどりつけてしまった。その上、余ったチョコで呪符型の飾りを作り、ココアパウダーと溶かしたチョコで模様を描き、同じようにマスターへのバレンタインの贈り物をしようとケーキを作っていた誰かの残骸の生クリームを少々拝借してアクセントをつけ、仕上げに式神を模したメレンゲドールをいくつか乗せた。
レシピの完成写真よりも圧倒的に立派で個性に溢れる一品が、すでに綺麗に片付けられたキッチンの片隅で存在を主張していた。
4759眼前には飾り立てられたチョコレートケーキがある。バレンタインデーに立香へ渡そうと思って製作したものだ。レシピは膨大な電子データから材料に合わせて逆引きで選出した。「コレが作りたい!」というこだわりはなかった。
慣れないチョコレートという食材を難なく扱い、普段料理などしないのにそつなく完成までたどりつけてしまった。その上、余ったチョコで呪符型の飾りを作り、ココアパウダーと溶かしたチョコで模様を描き、同じようにマスターへのバレンタインの贈り物をしようとケーキを作っていた誰かの残骸の生クリームを少々拝借してアクセントをつけ、仕上げに式神を模したメレンゲドールをいくつか乗せた。
レシピの完成写真よりも圧倒的に立派で個性に溢れる一品が、すでに綺麗に片付けられたキッチンの片隅で存在を主張していた。
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完畢「泣き顔」#ぐだ男xリンボ版週ドロライ
泣き顔 道満が泣いている。
表情は殺し、しかし背を丸めることなく真っ直ぐと、遙か遠く、想いすら届かぬ果てを見るように泣いている。
その光景があまりにも美しかったから。そう思ったことが申し訳なかったから。胸が痛くてたまらなかったから。
嗚咽ひとつこぼさずに泣くその姿に涙が出た。
涙をこぼす彼を綺麗だなんて感じる自分は本当にひどい人間だ。
「マスター、どうかなさいましたか」
それなのに彼は、自己中な滴を頬に流しただけの俺に向かって気づかいの声を掛けてくれた。
穏やかな声。なのに今は少しばかり固い気がする。
無理をしているのだろうか。
「なんでもないよ」
これほどわかりやすい嘘もないな。
「なんでもありましょうや。貴方が拙僧の前で涙を流したのですから。拙僧にはそれが耐えられませぬ」
2954表情は殺し、しかし背を丸めることなく真っ直ぐと、遙か遠く、想いすら届かぬ果てを見るように泣いている。
その光景があまりにも美しかったから。そう思ったことが申し訳なかったから。胸が痛くてたまらなかったから。
嗚咽ひとつこぼさずに泣くその姿に涙が出た。
涙をこぼす彼を綺麗だなんて感じる自分は本当にひどい人間だ。
「マスター、どうかなさいましたか」
それなのに彼は、自己中な滴を頬に流しただけの俺に向かって気づかいの声を掛けてくれた。
穏やかな声。なのに今は少しばかり固い気がする。
無理をしているのだろうか。
「なんでもないよ」
これほどわかりやすい嘘もないな。
「なんでもありましょうや。貴方が拙僧の前で涙を流したのですから。拙僧にはそれが耐えられませぬ」
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完畢「心配」#ぐだ男xリンボ版週ドロライ
心配 今日もがんばった。
「みんな、おつかれさま! 今日もありがとう」
カルデアのスタッフやサーヴァントたちに笑顔で感謝を伝える。
「明日もよろしくね! 明日も……、えっと、良い天気だといいね」
がんばろう、の一言が口から出てこなかった。
がんばらなきゃいけないのに、がんばろうとすら言えなかった。
がんばるってなんだっけ。
どうやるんだっけ。
もうずっとがんばってるからこれ以上は気持ちのギアを上げられない。
一人になって部屋に帰って、いつでも前向きにがんばるマスターとしての仮面を外す。 マシュやダ・ヴィンチちゃんに見せられない顔でシャワーを浴びて夕飯に……と思ったけれど、食堂へ行くならいつでも前向きにがんばるマスターの仮面を被り直さなければならない。
4648「みんな、おつかれさま! 今日もありがとう」
カルデアのスタッフやサーヴァントたちに笑顔で感謝を伝える。
「明日もよろしくね! 明日も……、えっと、良い天気だといいね」
がんばろう、の一言が口から出てこなかった。
がんばらなきゃいけないのに、がんばろうとすら言えなかった。
がんばるってなんだっけ。
どうやるんだっけ。
もうずっとがんばってるからこれ以上は気持ちのギアを上げられない。
一人になって部屋に帰って、いつでも前向きにがんばるマスターとしての仮面を外す。 マシュやダ・ヴィンチちゃんに見せられない顔でシャワーを浴びて夕飯に……と思ったけれど、食堂へ行くならいつでも前向きにがんばるマスターの仮面を被り直さなければならない。