浬-かいり-
DOODLE咲咲ブレーキ同盟がお泊まり会するはなし(後編) ミッシェルのもこもこルームウェアを着て顔を真っ赤にしながら有咲のスマホを取り上げようとする美咲と、それを笑いながら阻止する有咲の攻防から数秒後。暫し謎の沈黙が訪れる。向かい合わせに座った二人が目を泳がせ、そして視線がかち合う。
口を開いたのは有咲の方だった。
「……で、何やるよ?」
夕飯まで、まだ時間がある。ポピパで泊まる時は、ハロハピで泊まる時はいつも何をしてどんな風に過ごしていたっけ。二人は考えを巡らせる。
「トランプでもやる?」
「二人でか?」
「じゃあUNOとか?」
「だから二人しか居ないっての」
「…………」
「……宿題、やるか?」
あまり楽しくない提案だが、明日も学校があるので仕方ない。他にやりたいことも思い浮かばないので、二人で黙々と宿題に取り掛かるのであった。
1987口を開いたのは有咲の方だった。
「……で、何やるよ?」
夕飯まで、まだ時間がある。ポピパで泊まる時は、ハロハピで泊まる時はいつも何をしてどんな風に過ごしていたっけ。二人は考えを巡らせる。
「トランプでもやる?」
「二人でか?」
「じゃあUNOとか?」
「だから二人しか居ないっての」
「…………」
「……宿題、やるか?」
あまり楽しくない提案だが、明日も学校があるので仕方ない。他にやりたいことも思い浮かばないので、二人で黙々と宿題に取り掛かるのであった。
浬-かいり-
DOODLE咲咲ブレーキ同盟がお泊まり会するはなし(前編) 平日のある日。この日はバンド練習も他の予定も特に無い。それなのに、自宅で寛ぐ市ヶ谷有咲はそわそわと落ち着きがなかった。
室内をウロウロ歩き、部屋の埃をチェックし、窓を開けては閉め、最後にベッドに飛び込んだ。
直後、家のインターホンが鳴ると弾かれたように起き上がり、手櫛で髪を整えながら玄関へ向かった。息を整えながら、ゆっくりとドアを開ける。
「あー……。い、いらっしゃい」
「……どうも。お邪魔します」
ぎこちなく挨拶をする有咲に、制服姿に大きな荷物を持った奥沢美咲が、同じようにぎこちない挨拶を返した。
◆
「こころ、これ見て」
事の発端は、その日の朝のことだった。2年A組の教室に来ていた弦巻こころを手招きし、美咲は自分のスマートフォンの画面を見せた。画面を覗き込んだこころの顔が、ぱっと華やぐ。
2822室内をウロウロ歩き、部屋の埃をチェックし、窓を開けては閉め、最後にベッドに飛び込んだ。
直後、家のインターホンが鳴ると弾かれたように起き上がり、手櫛で髪を整えながら玄関へ向かった。息を整えながら、ゆっくりとドアを開ける。
「あー……。い、いらっしゃい」
「……どうも。お邪魔します」
ぎこちなく挨拶をする有咲に、制服姿に大きな荷物を持った奥沢美咲が、同じようにぎこちない挨拶を返した。
◆
「こころ、これ見て」
事の発端は、その日の朝のことだった。2年A組の教室に来ていた弦巻こころを手招きし、美咲は自分のスマートフォンの画面を見せた。画面を覗き込んだこころの顔が、ぱっと華やぐ。
浬-かいり-
DOODLE咲咲誕生日の朝、教室にて。 10月1日。既に花咲川女子学園2年A組の教室に着いていた市ヶ谷有咲は、一緒に登校してきた戸山香澄と共に談笑をしていた。まだ始業までは余裕があり、廊下の方からも楽しそうな話し声が聞こえて来る。
「じゃあ美咲! 今日の夜、あたしの家に集合よ! 美咲はあたしが迎えに行くから、家で待っていて頂戴ね!」
「はぐみたち、すっごいサプライズ用意してるから!!」
「いや、サプライズって先に言っちゃダメなんじゃない……?」
廊下から、聞き覚えのある声が三つ聞こえた。二つは朝から元気の有り余る声、一つはまだ少し眠たげなようにも感じる声。
有咲が教室の入り口へ視線をやれば、クラスメイトの奥沢美咲の姿があった。彼女はバンド活動を同じくしている弦巻こころと北沢はぐみに手を振ると、教室の中へと入ってきた。有咲が声を掛けるより先に、香澄が美咲の元へと駆け寄る。
2237「じゃあ美咲! 今日の夜、あたしの家に集合よ! 美咲はあたしが迎えに行くから、家で待っていて頂戴ね!」
「はぐみたち、すっごいサプライズ用意してるから!!」
「いや、サプライズって先に言っちゃダメなんじゃない……?」
廊下から、聞き覚えのある声が三つ聞こえた。二つは朝から元気の有り余る声、一つはまだ少し眠たげなようにも感じる声。
有咲が教室の入り口へ視線をやれば、クラスメイトの奥沢美咲の姿があった。彼女はバンド活動を同じくしている弦巻こころと北沢はぐみに手を振ると、教室の中へと入ってきた。有咲が声を掛けるより先に、香澄が美咲の元へと駆け寄る。
浬-かいり-
DOODLE咲咲+ましろいっそ夢オチって言ってくれよ 「あ、有咲ちゃんいらっしゃい。今日は一人で練習でいいんだよね?」
「はい、お願いします」
受付にいるまりなさんに挨拶をして、スタジオへ入る前に飲み物でも買おうかとラウンジへ。するとソファの上に、何か小さいぬいぐるみのようなものが見えた。
……誰かの忘れ物か? 周りには誰も居ないし、仕方ない。まりなさんに届けるか。そう思いながら、“それ”に近付いて。
「……は???」
固まる。思考が停止する。いや、え??? 混乱しながら、それを抱き上げてみた。温かいな。重いな。現実だな。
“それ”が此方を見上げてきて、アクアマリンの瞳と目が合った。
「あれ、市ヶ谷さん。何して———、」
いつの間に背後に居たのか。奥沢さんの声がして名前を呼ばれて、肩にぽんと手を置かれた。それが起動の合図だったかのように、私の身体はぎこちなく動き奥沢さんの方を向く。抱える“それ”を見せるように。
2932「はい、お願いします」
受付にいるまりなさんに挨拶をして、スタジオへ入る前に飲み物でも買おうかとラウンジへ。するとソファの上に、何か小さいぬいぐるみのようなものが見えた。
……誰かの忘れ物か? 周りには誰も居ないし、仕方ない。まりなさんに届けるか。そう思いながら、“それ”に近付いて。
「……は???」
固まる。思考が停止する。いや、え??? 混乱しながら、それを抱き上げてみた。温かいな。重いな。現実だな。
“それ”が此方を見上げてきて、アクアマリンの瞳と目が合った。
「あれ、市ヶ谷さん。何して———、」
いつの間に背後に居たのか。奥沢さんの声がして名前を呼ばれて、肩にぽんと手を置かれた。それが起動の合図だったかのように、私の身体はぎこちなく動き奥沢さんの方を向く。抱える“それ”を見せるように。
浬-かいり-
DOODLEハロハピお前らのとこのDJだろ、なんとかしろよ この日はガールズバンドパーティが主催する、大規模なライブの打ち上げだった。成人した今でも、こうしてみんなとバンド活動を続けていられるのは有難いし嬉しい。……表で言うことは、恥ずかしいからなかなか無いけど。
弦巻さんの敷地内に何故か建っている居酒屋で行われる打ち上げには、総勢30名超が集結していた。
「有咲〜! 次何飲む〜?」
隣に座る程よくほろ酔いの香澄に、ウーロン茶を頼んでおく。彼女は悪酔いすると非常に面倒なので見張っておきたいところだが、今回は中心になってみんなを引っ張ってくれたので、今日くらいは大目に見てあげたい。
それよりも、そう。もっと面倒見なくちゃいけない相手が私の隣に居るのだ。
「えへへへ、いちがゃさーーん!! これおかわり〜〜!!」
2902弦巻さんの敷地内に何故か建っている居酒屋で行われる打ち上げには、総勢30名超が集結していた。
「有咲〜! 次何飲む〜?」
隣に座る程よくほろ酔いの香澄に、ウーロン茶を頼んでおく。彼女は悪酔いすると非常に面倒なので見張っておきたいところだが、今回は中心になってみんなを引っ張ってくれたので、今日くらいは大目に見てあげたい。
それよりも、そう。もっと面倒見なくちゃいけない相手が私の隣に居るのだ。
「えへへへ、いちがゃさーーん!! これおかわり〜〜!!」
浬-かいり-
DOODLE咲咲次からはもうファミレスでいいです「……市ヶ谷さん、飲み過ぎじゃない?」
「いやいや、全然まだまだだろ」
オレンジジュースの入ったグラス片手に苦笑いする奥沢さんに、私は首を振ってからカシスオレンジのグラスを傾けた。
先日、ポピパとハロハピでの合同ライブがあった。この2バンドが揃って何も起こらない訳がなく、まあ賑やかでハプニングだらけで、でも盛り上がって大成功に収まった。
ライブ直後で合同の打ち上げはあったけれど、私と奥沢さんはそれぞれ、はしゃいでいる香澄や弦巻さんの世話に追われて終わってしまった。
なので、後日にこうして二人だけで細やかな打ち上げを行なっているのであった。打ち上げの打ち上げとも言う。
大学は別々となってしまった今でも、奥沢さんは気の合う話し相手であり、身近な相談役であり、そして事情の分かっている愚痴相手だ。
2835「いやいや、全然まだまだだろ」
オレンジジュースの入ったグラス片手に苦笑いする奥沢さんに、私は首を振ってからカシスオレンジのグラスを傾けた。
先日、ポピパとハロハピでの合同ライブがあった。この2バンドが揃って何も起こらない訳がなく、まあ賑やかでハプニングだらけで、でも盛り上がって大成功に収まった。
ライブ直後で合同の打ち上げはあったけれど、私と奥沢さんはそれぞれ、はしゃいでいる香澄や弦巻さんの世話に追われて終わってしまった。
なので、後日にこうして二人だけで細やかな打ち上げを行なっているのであった。打ち上げの打ち上げとも言う。
大学は別々となってしまった今でも、奥沢さんは気の合う話し相手であり、身近な相談役であり、そして事情の分かっている愚痴相手だ。