いっそ夢オチって言ってくれよ 「あ、有咲ちゃんいらっしゃい。今日は一人で練習でいいんだよね?」
「はい、お願いします」
受付にいるまりなさんに挨拶をして、スタジオへ入る前に飲み物でも買おうかとラウンジへ。するとソファの上に、何か小さいぬいぐるみのようなものが見えた。
……誰かの忘れ物か? 周りには誰も居ないし、仕方ない。まりなさんに届けるか。そう思いながら、“それ”に近付いて。
「……は???」
固まる。思考が停止する。いや、え??? 混乱しながら、それを抱き上げてみた。温かいな。重いな。現実だな。
“それ”が此方を見上げてきて、アクアマリンの瞳と目が合った。
「あれ、市ヶ谷さん。何して———、」
いつの間に背後に居たのか。奥沢さんの声がして名前を呼ばれて、肩にぽんと手を置かれた。それが起動の合図だったかのように、私の身体はぎこちなく動き奥沢さんの方を向く。抱える“それ”を見せるように。
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