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DOODLE暗めの雑諸。雑→諸のクソ重感情、監禁描写ありますので苦手な方はご注意ください。
雑諸⑦雨が、降っていた。昨日も、その前も、ずっと。
梅雨の空はいつも同じ灰色で、どこを見ても逃げ道がなかった。風のない、重たい湿気の中。尊奈門は、ふすま一枚隔てた部屋の外に雑渡が居ることを知っていた。いや、感じていた。
──見張られている。
その感覚は、日に日に濃くなっていた。優しい笑顔の奥にある、底知れぬ執着。それに気づいたのは、きっと随分前のことだったはずなのに、心のどこかで見ないふりをしてきた。
「組頭は、優しい。私のことを、思ってくれてる。」
そう言い聞かせてきた。どんなに行動が過剰でも、どんなに言葉が過ぎていても。
けれど──
今日、ふと棚の奥にしまわれた小箱を見つけたとき、その言い訳は崩れ去った。それは、尊奈門がかつて落とした手ぬぐい。もう捨てたと思っていた古い頭巾。幼い頃に描いた、稚拙な絵……。どれも、尊奈門が忘れていたもの。なのに、雑渡はひとつ残らず、それを持っていた。きれいに、丁寧に、愛おしそうに保存された「私」が、そこにいた。
5227梅雨の空はいつも同じ灰色で、どこを見ても逃げ道がなかった。風のない、重たい湿気の中。尊奈門は、ふすま一枚隔てた部屋の外に雑渡が居ることを知っていた。いや、感じていた。
──見張られている。
その感覚は、日に日に濃くなっていた。優しい笑顔の奥にある、底知れぬ執着。それに気づいたのは、きっと随分前のことだったはずなのに、心のどこかで見ないふりをしてきた。
「組頭は、優しい。私のことを、思ってくれてる。」
そう言い聞かせてきた。どんなに行動が過剰でも、どんなに言葉が過ぎていても。
けれど──
今日、ふと棚の奥にしまわれた小箱を見つけたとき、その言い訳は崩れ去った。それは、尊奈門がかつて落とした手ぬぐい。もう捨てたと思っていた古い頭巾。幼い頃に描いた、稚拙な絵……。どれも、尊奈門が忘れていたもの。なのに、雑渡はひとつ残らず、それを持っていた。きれいに、丁寧に、愛おしそうに保存された「私」が、そこにいた。
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DOODLE春の、子尊と雑の看病期間の話。ほんのり雑→諸。
尊奈門のことを坊と呼んでいます。
雑諸①春の昼下がり。
山奥の庵に、鶯の声がこだまする。静けさの中に命の息吹を感じるこの地で、雑渡昆奈門は縁側に身を横たえていた。身体のあちこちがいまだ焼け爛れてはいるものの、季節が暖かくなるたびに、その痛みは幾分やわらいでいくように思えた。
「こんなもんさま、お背中、また痛みますか?」
声をかけてきたのは、いつもの坊だ。
十二歳の小さな少年。己を看病するために父に代わってここまで来て、もう二年になる。
「いや…今日はずいぶん調子が良い。坊のおかげだな」
「えへへ…」
照れたように笑う坊の笑顔を見ると、どうしてだろうか、胸の奥がふっと温かくなる。
あの日、坊の父を庇って業火に巻かれ、すべてが変わった。
生きるも地獄かと思ったが、この小さな看護人の笑顔が、どれほど己を救ってくれたか。
1164山奥の庵に、鶯の声がこだまする。静けさの中に命の息吹を感じるこの地で、雑渡昆奈門は縁側に身を横たえていた。身体のあちこちがいまだ焼け爛れてはいるものの、季節が暖かくなるたびに、その痛みは幾分やわらいでいくように思えた。
「こんなもんさま、お背中、また痛みますか?」
声をかけてきたのは、いつもの坊だ。
十二歳の小さな少年。己を看病するために父に代わってここまで来て、もう二年になる。
「いや…今日はずいぶん調子が良い。坊のおかげだな」
「えへへ…」
照れたように笑う坊の笑顔を見ると、どうしてだろうか、胸の奥がふっと温かくなる。
あの日、坊の父を庇って業火に巻かれ、すべてが変わった。
生きるも地獄かと思ったが、この小さな看護人の笑顔が、どれほど己を救ってくれたか。
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DOODLE夏の、子尊と雑の看病期間の話。ほんのり雑→諸。
尊奈門のことを坊と呼んでいます。
雑諸②蝉の声が絶え間なく響く庵のまわり。
夏の山は命の気配に満ちていて、遠くの空まで揺れるようだった。
「こんなもんさま、今日は…お散歩しましょう」
坊の言葉に、雑渡昆奈門はゆっくりと顔を向けた。
もう何度目になるだろう――坊の手を借りて、庭を歩く練習を始めてから。
「歩けるかな…今日は少し、膝が重くてね」
「大丈夫です。私が支えますから。ほら」
坊が小さな掌を差し出す。その手は、雑渡の大きな手にはまるで子鳥のように頼りなく思えるのに、不思議と安心できた。
「ふふ…坊は、随分と逞しくなったな」
「えへへ、最近、ごはんもたくさん食べられるようになりましたから」
二人はゆっくりと、縁側から庭に降りる。
夏草が伸びて、あちこちに朝顔や野いちごが揺れていた。
1009夏の山は命の気配に満ちていて、遠くの空まで揺れるようだった。
「こんなもんさま、今日は…お散歩しましょう」
坊の言葉に、雑渡昆奈門はゆっくりと顔を向けた。
もう何度目になるだろう――坊の手を借りて、庭を歩く練習を始めてから。
「歩けるかな…今日は少し、膝が重くてね」
「大丈夫です。私が支えますから。ほら」
坊が小さな掌を差し出す。その手は、雑渡の大きな手にはまるで子鳥のように頼りなく思えるのに、不思議と安心できた。
「ふふ…坊は、随分と逞しくなったな」
「えへへ、最近、ごはんもたくさん食べられるようになりましたから」
二人はゆっくりと、縁側から庭に降りる。
夏草が伸びて、あちこちに朝顔や野いちごが揺れていた。
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DOODLE秋の、子尊と雑の看病期間の話。ほんのり雑→諸。
尊奈門のことを坊と呼んでいます。
雑諸③山の木々が色づきはじめ、庵の庭にも赤や黄の葉が舞い降りる。
風は少し冷たくなってきていたが、陽だまりはまだ暖かい。
雑渡昆奈門は、小さな囲炉裏の前で、そっと湯呑を置いた。
番茶の香ばしさが立ちのぼり、秋の空気にとけていく。
「こんなもんさま、お外、行きませんか?栗が落ちてきてるかもしれません」
「ほう…坊は栗が好きだったな」
「はい。でも今日は、拾ったら、こんなもんさまにも食べてもらおうと思って」
「うん、ありがとう。それじゃあ、付き合おう」
もう歩くのにも慣れてきた足取りで、雑渡は坊の後を追う。
ふたりで拾い集めた栗は、小さな布袋にいくつも溜まっていく。
「ほら、見てください。この大きいの」
「ふふ…坊の手の中にあると、なおさら大きく見えるな」
962風は少し冷たくなってきていたが、陽だまりはまだ暖かい。
雑渡昆奈門は、小さな囲炉裏の前で、そっと湯呑を置いた。
番茶の香ばしさが立ちのぼり、秋の空気にとけていく。
「こんなもんさま、お外、行きませんか?栗が落ちてきてるかもしれません」
「ほう…坊は栗が好きだったな」
「はい。でも今日は、拾ったら、こんなもんさまにも食べてもらおうと思って」
「うん、ありがとう。それじゃあ、付き合おう」
もう歩くのにも慣れてきた足取りで、雑渡は坊の後を追う。
ふたりで拾い集めた栗は、小さな布袋にいくつも溜まっていく。
「ほら、見てください。この大きいの」
「ふふ…坊の手の中にあると、なおさら大きく見えるな」
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DOODLE冬の、子尊と雑の看病期間の話。ほんのり雑→諸。
尊奈門のことを坊と呼んでいます。
尊奈門は光なんだろうな、という気持ちで書きました。
雑諸④朝、窓を開けると、一面の銀世界が広がっていた。
庵の屋根にも木の枝にも、厚く積もった雪がしんと音もなく降り続けている。
雑渡昆奈門は、湯呑を手にしながら、その静けさを見つめていた。
立ち上がる足は、もう震えない。
かつて焼けただれた皮膚も、今では服を着ていれば目立たぬほどになった。
――ここで過ごした、三年。
そのすべてが、胸の内にあたたかく積もっていた。
「…おはようございます、こんなもんさま」
奥の部屋から坊が現れた。
まだ幼さの残る顔に、羽織の袖が少し長すぎる。
けれどその足取りは、誰よりもしっかりとしたものだった。
「おはよう、坊。…いや、もう“坊”とは、呼べぬかもしれんな」
「…でも、もう少しだけ。そう呼んでいてください」
1150庵の屋根にも木の枝にも、厚く積もった雪がしんと音もなく降り続けている。
雑渡昆奈門は、湯呑を手にしながら、その静けさを見つめていた。
立ち上がる足は、もう震えない。
かつて焼けただれた皮膚も、今では服を着ていれば目立たぬほどになった。
――ここで過ごした、三年。
そのすべてが、胸の内にあたたかく積もっていた。
「…おはようございます、こんなもんさま」
奥の部屋から坊が現れた。
まだ幼さの残る顔に、羽織の袖が少し長すぎる。
けれどその足取りは、誰よりもしっかりとしたものだった。
「おはよう、坊。…いや、もう“坊”とは、呼べぬかもしれんな」
「…でも、もう少しだけ。そう呼んでいてください」
のへ子
MOURNING雑諸尊奈門が怪我をします、弱々しい尊奈門がいます
※すべて捏造、妄想、n番煎じ
※血あり、怪我の描写あり、モブいます
※何でも許せる方向け
かなりの雰囲気漫画、オチなし、ヤマなし
腐向けなのでポイピク投稿します 8
璃寿🐘
DONE以前Xで呟いたネタの続きを文章化『雑諸のラブラブ(エロではない)に遭遇してしまう人たちっていると思うんですよ。山に関しては、雑が気を許しすぎているので、しょっちゅう遭遇する。』
pass:雑諸の歳の差
https://x.com/san_moono_o/status/1886617928235458828?s=46&t=1FY2S6cAu4G5zuTGjWkWhw 1489