とうた
DONE #Novelmber で幽蔵。「もしも」のターニングポイントは幽助と蔵馬で違ってそうだなと。
6.もしも 幽助との関係において『もしも』はいくつも思い浮かぶ。もしも幽助が出会ったばかりの自分を信じなかったら。もしも幽助を手助けするというコエンマの提案を受けなかったら。もしも――。挙げているとキリがないが、最大の『もしも』は彼が魔族ではなかったとしたら、に違いない。
麗らかな春の陽気に包まれた小さな公園で、幽助が一人の男の子と遊んでいる。初対面の幽助にも物怖じせず無邪気に滑り台を下りるその子は、今年で三歳になる蔵馬の義弟の子供だ。義弟は今朝いきなり蔵馬の部屋にやってきて、自分も妻も急な仕事が入ってしまったため夕方まで息子を預かってほしいことを告げてきた。こちらが恐縮するくらい頭を下げながら。
たまたま予定のない土曜日だったし、甥っ子はそれなりに可愛いので預かること自体は構わなかったが、いざ二人きりになると時間を持て余す。近所のファミレスで悪戦苦闘しながら昼食を終えたあとは、特にしてあげられることがない。そこにたまたまやってきたのが幽助で、彼は意気揚々と甥っ子を近所の公園に連れ出した。
2168麗らかな春の陽気に包まれた小さな公園で、幽助が一人の男の子と遊んでいる。初対面の幽助にも物怖じせず無邪気に滑り台を下りるその子は、今年で三歳になる蔵馬の義弟の子供だ。義弟は今朝いきなり蔵馬の部屋にやってきて、自分も妻も急な仕事が入ってしまったため夕方まで息子を預かってほしいことを告げてきた。こちらが恐縮するくらい頭を下げながら。
たまたま予定のない土曜日だったし、甥っ子はそれなりに可愛いので預かること自体は構わなかったが、いざ二人きりになると時間を持て余す。近所のファミレスで悪戦苦闘しながら昼食を終えたあとは、特にしてあげられることがない。そこにたまたまやってきたのが幽助で、彼は意気揚々と甥っ子を近所の公園に連れ出した。
とうた
DONE #Novelmber で幽蔵。幽蔵←飛(無自覚)です。
26.窓 その窓を叩くのは決まって真夜中だった。
ガラス一枚割るくらい飛影にとっては造作もないことだが、部屋の主を怒らせると後々厄介なので毎回律儀に窓を叩く。
室内の彼はすぐに気付いて、窓を開ける。飛影は夜風と共にするりと入る。
用件は大抵、傷の治療か情報収集だ。特に前者において彼はとても有用で、毎回症状に合った薬草を配合してくれる。
相手が寝ていても構わず叩いていたが、
「こちらも一応暮らしがあるんだから、起きている時にしてくれないか?」
と生欠伸を噛み殺しながらチクリと注意されてからはその意を汲んで遠慮してやることにした。
飛影が訪れる時、彼は机に向かってノートに何かを書き綴っていることが多かった。尋ねると、高校数学だよと微笑む。
2298ガラス一枚割るくらい飛影にとっては造作もないことだが、部屋の主を怒らせると後々厄介なので毎回律儀に窓を叩く。
室内の彼はすぐに気付いて、窓を開ける。飛影は夜風と共にするりと入る。
用件は大抵、傷の治療か情報収集だ。特に前者において彼はとても有用で、毎回症状に合った薬草を配合してくれる。
相手が寝ていても構わず叩いていたが、
「こちらも一応暮らしがあるんだから、起きている時にしてくれないか?」
と生欠伸を噛み殺しながらチクリと注意されてからはその意を汲んで遠慮してやることにした。
飛影が訪れる時、彼は机に向かってノートに何かを書き綴っていることが多かった。尋ねると、高校数学だよと微笑む。
とうた
DONE #Novelmber で幽蔵書いてます。原作終了から約四十年後のお話。
18.半分 彼女が逝ったのは粉雪のちらつく寒い朝だった。
晩年こそ足腰の痛みや視力の低下に悩まされていたが、大きな病気もせずに天寿を全うできたのは幸いであろう。
頭痛を訴えた彼女が自宅から緊急搬送され、そのまま最期を迎えた病院の屋上に蔵馬は佇んでいた。昼過ぎになっても雪はまだちらほらと舞い続けている。
「お疲れさん」
いつの間にか来ていた幽助に、ぽんと肩を叩かれた。
「……どうも」
何十年も前に家を出て、送金を続ける以外特に何もしていない自分がその言葉を受け取る資格はないように思われたが、素直に礼を言う。
「この病院ってさあ、あの時と同じ病院だよな」
「ああ」
かつて彼女が大病を患って入院し、蔵馬が満月の夜に暗黒鏡を使った病院である。といっても何年か前に改築して今風の外観になったため、当時の面影は少しも残っていない。
1483晩年こそ足腰の痛みや視力の低下に悩まされていたが、大きな病気もせずに天寿を全うできたのは幸いであろう。
頭痛を訴えた彼女が自宅から緊急搬送され、そのまま最期を迎えた病院の屋上に蔵馬は佇んでいた。昼過ぎになっても雪はまだちらほらと舞い続けている。
「お疲れさん」
いつの間にか来ていた幽助に、ぽんと肩を叩かれた。
「……どうも」
何十年も前に家を出て、送金を続ける以外特に何もしていない自分がその言葉を受け取る資格はないように思われたが、素直に礼を言う。
「この病院ってさあ、あの時と同じ病院だよな」
「ああ」
かつて彼女が大病を患って入院し、蔵馬が満月の夜に暗黒鏡を使った病院である。といっても何年か前に改築して今風の外観になったため、当時の面影は少しも残っていない。
とうた
DONE #Novelmber で幽蔵書いてます。まだ付き合ってない二人。
5.陶酔 十月にしては気の早い空っ風が吹いて、蔵馬は「さむっ」と肩を竦める。同僚やら取引先やらと別れて、ちょうど一人になったところだった。飲み会終わりと思しき会社員たちで賑やかな街中を、駅へ向かって歩き始める。金曜二十一時過ぎの都内は宴もたけなわ、二次会の始まる今からこそが本番という空気だったが、蔵馬は一足先に帰路に着くことにした。
結論から言えば、つまらない会食だった。
取引先が選んだのはなんともお上品な料亭の個室。相手を観察しつつ、同僚の手綱を握りつつ、懐石料理も日本酒も美味しく頂いたけれど。
混み合う電車の中で、蔵馬は小さなため息をつく。
このまま話を進めても実りは少ないだろう。だが父の代から付き合いのある取引先のため無碍にもできない。人間社会はままならぬところが面白いが、今夜のようにつまらなさを感じることもある。
1590結論から言えば、つまらない会食だった。
取引先が選んだのはなんともお上品な料亭の個室。相手を観察しつつ、同僚の手綱を握りつつ、懐石料理も日本酒も美味しく頂いたけれど。
混み合う電車の中で、蔵馬は小さなため息をつく。
このまま話を進めても実りは少ないだろう。だが父の代から付き合いのある取引先のため無碍にもできない。人間社会はままならぬところが面白いが、今夜のようにつまらなさを感じることもある。