ミドリ
PAST【Web再録】水鏡に言【2023.3.26発行マツミナ文字アンソロジー内作品】2023.3.26チャ!26発行の
マツミナ文字アンソロジー「まつとしきかば」内作品のWeb再録です。
水鏡に言、すいきょうにげん、酔狂に幻。
タイトルは訓読みで「みずかがみにいう」でお願いします。
お互いの脳内にいるお互いは僅かに違うことを言うタイプだと思います。
水鏡に言 友人で、なくなってしまってもいいと思った。そんなのは、鏡にでも向かって言ったら良かった。
観る人のために整えられた広い石畳ではなく、ミナキの白い革靴は古い景観のジムを囲む裏手の砂利道を踏んでいる。ざくざくとした音が耳を刺し、血ののぼった頭を痛める。
いいんだよ、僕のことは。昂った脳が先の会話をリフレインして、再生されたマツバの声にびくりと思わず足を止める。足音がやむと耳元に血の音が際立った。どっどっと刻むリズムに夕暮れの町内放送が和する。
──次回、大講堂での講演はジムリーダーを招待し──
五時を告げる割れ気味の鐘と、単語を区切った人の声。地元のイベントの報せが入る。今日話したのはこの件だった。
7634観る人のために整えられた広い石畳ではなく、ミナキの白い革靴は古い景観のジムを囲む裏手の砂利道を踏んでいる。ざくざくとした音が耳を刺し、血ののぼった頭を痛める。
いいんだよ、僕のことは。昂った脳が先の会話をリフレインして、再生されたマツバの声にびくりと思わず足を止める。足音がやむと耳元に血の音が際立った。どっどっと刻むリズムに夕暮れの町内放送が和する。
──次回、大講堂での講演はジムリーダーを招待し──
五時を告げる割れ気味の鐘と、単語を区切った人の声。地元のイベントの報せが入る。今日話したのはこの件だった。
houran96
MOURNING【マツミナ】これどこかに上げてましたか…?あなたと海の底でダンスを遠い夏の日。
きらきらと光る水辺で小さな手の持ち主と内緒話しをした。
その時はまだ僕のほうが背が高くて、小さな両手で丸を作った口元に身をかがめた。
膝まで浸かった水がちゃぷりと鳴って、足元はひんやりと冷たいのに背中はじりじりと焼かれてとても影が濃かったことを覚えている。
ひみつだよ、と言われたあの日から僕は彼の手綱になった。
あなたと海の底でダンスを
さらりとした乾いた風が吹いていく。
山から下りた春風は通りの桜並木を撫でてマツバの部屋までたくさんの花びらを運んできていた。
カントー地方は春。
萌黄が芽吹き息吹が噴出す季節。
マツバは自室に寝転がりながら裏手にあるやしろの森の気配がさざめいているのを夢うつつに聞いていた。
5420きらきらと光る水辺で小さな手の持ち主と内緒話しをした。
その時はまだ僕のほうが背が高くて、小さな両手で丸を作った口元に身をかがめた。
膝まで浸かった水がちゃぷりと鳴って、足元はひんやりと冷たいのに背中はじりじりと焼かれてとても影が濃かったことを覚えている。
ひみつだよ、と言われたあの日から僕は彼の手綱になった。
あなたと海の底でダンスを
さらりとした乾いた風が吹いていく。
山から下りた春風は通りの桜並木を撫でてマツバの部屋までたくさんの花びらを運んできていた。
カントー地方は春。
萌黄が芽吹き息吹が噴出す季節。
マツバは自室に寝転がりながら裏手にあるやしろの森の気配がさざめいているのを夢うつつに聞いていた。