tinami_o_o
PAST概ねここ1年で描いた自一族絵です。ラフとイラスト交じり。1周目(22枚)~2周目纏一族(1枚)~3周目深波一族(4枚)~電脳一族(7枚)~網島一族(2枚)~番一族(13枚)~夜見一族(2枚)~二十瀬一族(1枚)~その他ログ(12枚)の計64枚です。 64
下町小劇場・芳流
PAST大昔の俺屍小説。「疫神」の後日談。そちらからお読みください。
地獄巡り最終決戦前夜。
2003.8執筆。
「鬼鏡」 疫神後日談ー父の遺品 今月、朱点童子を討ちに地獄へ行く。
当主明梨(あかり)がそう宣言したのは、つい昨日のことだった。
しかし、当の本人は慌てるでもなく、縁側に腰掛け、残り少ない余暇をゆったりと味わっていた。
視界の隅では、普段は人気のないはずの蔵の周囲を子供達が右往左往している。大きく開かれた蔵の入り口には、年代物の木箱や櫃が取り出され、冬の日差しに晒されていた。その間を忙しく動き回っているのは、ひときわ目を引く深紅の髪。
「・・・まめな奴。」
明梨はぽつりと呟いた。
本当は討伐仕度のために蔵を開けたのだろう。しかし、明梨が当主になってこの方、開いたこともない屋敷の隅の蔵は、想像以上に乱雑だった。
何が入っているかもわからない数々の箱を掻き分けるよりも、まずはいったん片付けた方が早い。そう判断したのだろう。先ほどから洸介(こうすけ)に捕まった年少者たちは、揃って蔵の整理につき合わされていた。
6152当主明梨(あかり)がそう宣言したのは、つい昨日のことだった。
しかし、当の本人は慌てるでもなく、縁側に腰掛け、残り少ない余暇をゆったりと味わっていた。
視界の隅では、普段は人気のないはずの蔵の周囲を子供達が右往左往している。大きく開かれた蔵の入り口には、年代物の木箱や櫃が取り出され、冬の日差しに晒されていた。その間を忙しく動き回っているのは、ひときわ目を引く深紅の髪。
「・・・まめな奴。」
明梨はぽつりと呟いた。
本当は討伐仕度のために蔵を開けたのだろう。しかし、明梨が当主になってこの方、開いたこともない屋敷の隅の蔵は、想像以上に乱雑だった。
何が入っているかもわからない数々の箱を掻き分けるよりも、まずはいったん片付けた方が早い。そう判断したのだろう。先ほどから洸介(こうすけ)に捕まった年少者たちは、揃って蔵の整理につき合わされていた。
下町小劇場・芳流
PAST大昔の俺屍小説。この話はここで終わり。
3に合わせて直すべきところを直してなかったので、急いで修正しました。
終盤でひとことだけ出てくる「輝夜」とは、明梨の母です。
「鬼鏡」 疫神4四
目を閉じると、瞼の裏に浮かぶのはいつも同じ景色だった。
どこまでも続く、途切れることのない漆黒の帳(とばり)。時折浮かぶ、漁火(いさりび)のような鬼の炎。そこに漂う、醜悪な餓鬼、狐、天狗。
だが、春日の前に動くものの姿は、もはや何一つなかった。
憔悴しきった両腕から大筒が滑り落ちそうになり、姿勢を崩した春日は、そのまま膝を付いた。荒い息が、唇からこぼれる。膝と手が付いた大地の感触は、いやに柔らかかった。
「・・・終わりだ・・・。」
春日は、荒い息と共に吐き捨てた。大筒は、撃ちつくしていた。もう、どこからも鬼が上がってこないことを、彼は知っていた。
だが、その期待を裏切り、彼が膝を突く大地が揺れた。具足に覆われた彼の足を、白い何かが絡め取った。
14522目を閉じると、瞼の裏に浮かぶのはいつも同じ景色だった。
どこまでも続く、途切れることのない漆黒の帳(とばり)。時折浮かぶ、漁火(いさりび)のような鬼の炎。そこに漂う、醜悪な餓鬼、狐、天狗。
だが、春日の前に動くものの姿は、もはや何一つなかった。
憔悴しきった両腕から大筒が滑り落ちそうになり、姿勢を崩した春日は、そのまま膝を付いた。荒い息が、唇からこぼれる。膝と手が付いた大地の感触は、いやに柔らかかった。
「・・・終わりだ・・・。」
春日は、荒い息と共に吐き捨てた。大筒は、撃ちつくしていた。もう、どこからも鬼が上がってこないことを、彼は知っていた。
だが、その期待を裏切り、彼が膝を突く大地が揺れた。具足に覆われた彼の足を、白い何かが絡め取った。
下町小劇場・芳流
PAST大昔の俺屍小説。続きです。
一部、放送禁止用語な酷い表現があったので、改めました。
「鬼鏡」 疫神3三
交神月は、一族は暇になる。
天界からの申しつけで、交神月は一族全員に殺生が禁じられていた。この時代、人々は死の穢れを最も嫌う。死者の出た家は、昇殿することもかなわないくらいだ。普段は戦いの渦中にある一族も、生命を授かるときには穢れから遠ざかるようにということなのかもしれない。
そのため、いかに何人が屋敷に残されていようとも、討伐に出ることは許されなかった。おかげで、一族は思い思いの時間を過ごすことを許されていた。忙しいのは、交神を行う当の本人と、御所に仕えなければならない当主くらいである。
さて今月は、吹雪の交神である。
ご多分に漏れず、明梨も暇であった。特にすることもなく、彼女はのんびりと縁側で庭先を眺めていた。そろそろ、日向にいると汗ばむ季節が訪れていた。彼女にとって、二度目の夏だった。
17168交神月は、一族は暇になる。
天界からの申しつけで、交神月は一族全員に殺生が禁じられていた。この時代、人々は死の穢れを最も嫌う。死者の出た家は、昇殿することもかなわないくらいだ。普段は戦いの渦中にある一族も、生命を授かるときには穢れから遠ざかるようにということなのかもしれない。
そのため、いかに何人が屋敷に残されていようとも、討伐に出ることは許されなかった。おかげで、一族は思い思いの時間を過ごすことを許されていた。忙しいのは、交神を行う当の本人と、御所に仕えなければならない当主くらいである。
さて今月は、吹雪の交神である。
ご多分に漏れず、明梨も暇であった。特にすることもなく、彼女はのんびりと縁側で庭先を眺めていた。そろそろ、日向にいると汗ばむ季節が訪れていた。彼女にとって、二度目の夏だった。
下町小劇場・芳流
PAST大昔の俺屍小説。「鬼鏡」 疫神2二
京を取り巻く鬼の巣窟は数あれど、自ら「地獄」の名を冠するものは、一つしかなかった。『地獄巡り』と呼ばれるこの洞窟は、そう呼ぶに相応しく、川の向こうの景色とはうって変わって、地面も壁も凍てつく氷に覆われていた。
草鞋を履こうとも、突き刺さるような寒さが足を貫く。立ち止まっていたら、そのまま凍えてしまいそうだった。
明梨は吐く息で、掌を暖めた。指先は、すでに真っ赤に染まっていた。なまじの温もりは、かえって手を傷めてしまう。しかし、明梨はそこに走る痛みをものともせず、愛槍『千手の鉾』を担ぎ、走った。
確かに、こんな『氷雪針地獄』では、少しでも動いていた方が温かい。しかし、彼女が歩みを急ぐのはそのためだけではなかった。
4700京を取り巻く鬼の巣窟は数あれど、自ら「地獄」の名を冠するものは、一つしかなかった。『地獄巡り』と呼ばれるこの洞窟は、そう呼ぶに相応しく、川の向こうの景色とはうって変わって、地面も壁も凍てつく氷に覆われていた。
草鞋を履こうとも、突き刺さるような寒さが足を貫く。立ち止まっていたら、そのまま凍えてしまいそうだった。
明梨は吐く息で、掌を暖めた。指先は、すでに真っ赤に染まっていた。なまじの温もりは、かえって手を傷めてしまう。しかし、明梨はそこに走る痛みをものともせず、愛槍『千手の鉾』を担ぎ、走った。
確かに、こんな『氷雪針地獄』では、少しでも動いていた方が温かい。しかし、彼女が歩みを急ぐのはそのためだけではなかった。
下町小劇場・芳流
PAST大昔の俺屍小説。地獄巡り時代の一族。
最終当主となったのが、この話の主人公の明梨(槍使い、女)。
何故か中二病感満載(恥ずかしい…💧)。
2003.3執筆。
「鬼鏡」 疫神1一
目に映るのは、底も知れない漆黒の闇。
それは己の運命を示すのか、それとも心の内を現すものか。
春日(かすが)は、ゆっくりと視界を巡らせた。瞳を開けようとも閉じようとも変わらない、黒い風景。どこまで続くのかも、どれほどの広さがあるのかも解らない。瞳に映るものは、何もないはずだった。
不意に、闇の向こうに浮き出るような白い光がぼんやりと立ち上ぼった。
丸い、毛玉のような光は、手も届かない彼方に、ただ揺らめきながら浮いていた。遮るものは、何もない。
春日は、顔色も変えず、手にした大筒を構えた。
低い銃声が響いた。
どさりと、重い音とともに光は消えた。その下には、狐の死骸が転がっていた。
「まだだ・・・。」
4837目に映るのは、底も知れない漆黒の闇。
それは己の運命を示すのか、それとも心の内を現すものか。
春日(かすが)は、ゆっくりと視界を巡らせた。瞳を開けようとも閉じようとも変わらない、黒い風景。どこまで続くのかも、どれほどの広さがあるのかも解らない。瞳に映るものは、何もないはずだった。
不意に、闇の向こうに浮き出るような白い光がぼんやりと立ち上ぼった。
丸い、毛玉のような光は、手も届かない彼方に、ただ揺らめきながら浮いていた。遮るものは、何もない。
春日は、顔色も変えず、手にした大筒を構えた。
低い銃声が響いた。
どさりと、重い音とともに光は消えた。その下には、狐の死骸が転がっていた。
「まだだ・・・。」
下町小劇場・芳流
PAST大昔に個人サイトに載せていた俺屍小説の序章。2002.10執筆………(古)。
鬼鏡 序あきらけき鏡にあへば過ぎにしも
今ゆく末のことも見えけり/繁樹
近頃、鳥辺野の地に鬼が出るという。
急に向けられた話題に、私は目の前の治部卿に間の抜けた声で言葉を返した。
「はあ・・・左様でございますか。」
「知らぬはずはなかろう。このところ、京(みやこ)はこの話でもちきりじゃ。」
もちろん、世事に疎い私とて、世間を騒がすこの話を知らないはずはない。しかし、根拠のない噂であればいずれ消えると思い、知らぬふりを通していたのだ。百年前ならいざ知らず、魍魎(ばけもの)退治はごめんである。だが、私の希望を裏切り、京人(みやこびと)の間でそれとなく立ち上っていたこの話は、ついには御所の上でまで聞き及ぶに至っていた。
5112今ゆく末のことも見えけり/繁樹
近頃、鳥辺野の地に鬼が出るという。
急に向けられた話題に、私は目の前の治部卿に間の抜けた声で言葉を返した。
「はあ・・・左様でございますか。」
「知らぬはずはなかろう。このところ、京(みやこ)はこの話でもちきりじゃ。」
もちろん、世事に疎い私とて、世間を騒がすこの話を知らないはずはない。しかし、根拠のない噂であればいずれ消えると思い、知らぬふりを通していたのだ。百年前ならいざ知らず、魍魎(ばけもの)退治はごめんである。だが、私の希望を裏切り、京人(みやこびと)の間でそれとなく立ち上っていたこの話は、ついには御所の上でまで聞き及ぶに至っていた。