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    百合菜

    PAST遙か2・頼花
    「たとえこの手が穢れていても(後編)
    6.この手は血で穢れている~前編

    「頼忠さん、市に行きたいので、お供をお願いできますか」

    一通りの愛を交わしたあと、花梨が頼忠にそうお願いしたのは、先ほどのこと。
    頼忠はあっという間に身支度を整え、そして花梨に従い屋敷を出る。
    これだけ見ているとどちらがこの家に住むものなのかわからない

    「今日は、どちらにうかがいましょうか」

    和気あいあいというには、ちょっとかしこまっているのかもしれない。
    だけど、出会ったときよりは確実に縮まっているふたり。
    少し遠くから見れば、従者とともに出歩いている姿だが、近くで見れば逢瀬にしか見えない。そんな独特の空気を持つふたり。
    しかし、そんな仲睦まじいふたりの様子を氷のように研ぎ澄ました瞳で見つめるものがいた。微笑ましい、そんな空気を一蹴するかのような冷たい眼差しで。


    「花梨殿、私から離れないでいただけますか?」

    頼忠が花梨にそう話しかけてきたのは、必要なものはほぼ揃い、そろそろ帰ろうとしたときだった。

    「はい。でも、どうしたのですか? 急に」

    頼忠はそのことには答えない。
    もしかすると、自分が口を開くことで邪魔になるかもしれないので、花 6803

    百合菜

    PAST遙か2・頼花
    「たとえこの手が穢れていても(前編)」
    プロローグ

    「それ、花梨からの文か?」
    「ええ、河内で元気にしているようですわ、兄上」

    千歳の住む屋敷に勝真が訪れたのは秋も深まったある日のこと。
    貴族の女性らしく、めったに表情を崩さない千歳であるが、その日はほんのわずかではあるが口角が上がっているのが見てとれた。
    そして、手にしていたのは文であることから、差出人が花梨であると気づいたようである。

    「あいつら、いろいろあったけど、元気にやっているみたいだな」
    「そうですね」

    千歳の言葉を聞きながら勝真は簾のかかった室内から空を仰ぐ。
    空の色をはっきりと認識することはできないが、おそらく彼女の笑顔を思い出させる澄みきった青空が河内まで広がっているであろう。

    「もう二度と会うことは叶わないでしょうけど…… でも、会いたいわ、花梨」

    聞こえるか聞こえないか。そんな千歳の呟き。
    返事を待っているわけではないだろうが、勝真もつい答えてしまう。

    「そうだな、俺ももう一度会いたいぜ。あいつらに」

    そして、思い出す。
    花梨たちと京を守るために奮闘した日々と、そしてそのあとの花梨と頼忠を取り囲むちょっとした事件のことを。

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