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    百合菜

    遙かやアンジェで字書きをしています。
    ときどきスタマイ。
    キャラクター紹介ひとりめのキャラにはまりがち。

    こちらでは、完成した話のほか、書きかけの話、連載途中の話、供養の話、進捗なども掲載しております。
    少しでもお楽しみいただけると幸いです。

    ※カップリング・話ごとにタグをつけていますので、よろしければご利用ください

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    百合菜

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    遙か2・頼花
    「たとえこの手が穢れていても(後編)

    #頼花
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    #遙か2
    faraway2
    #遙かなる時空の中で2
    harukanaruTokiNoNakade2
    ##頼花
    ##遙か2

    6.この手は血で穢れている~前編

    「頼忠さん、市に行きたいので、お供をお願いできますか」

    一通りの愛を交わしたあと、花梨が頼忠にそうお願いしたのは、先ほどのこと。
    頼忠はあっという間に身支度を整え、そして花梨に従い屋敷を出る。
    これだけ見ているとどちらがこの家に住むものなのかわからない

    「今日は、どちらにうかがいましょうか」

    和気あいあいというには、ちょっとかしこまっているのかもしれない。
    だけど、出会ったときよりは確実に縮まっているふたり。
    少し遠くから見れば、従者とともに出歩いている姿だが、近くで見れば逢瀬にしか見えない。そんな独特の空気を持つふたり。
    しかし、そんな仲睦まじいふたりの様子を氷のように研ぎ澄ました瞳で見つめるものがいた。微笑ましい、そんな空気を一蹴するかのような冷たい眼差しで。


    「花梨殿、私から離れないでいただけますか?」

    頼忠が花梨にそう話しかけてきたのは、必要なものはほぼ揃い、そろそろ帰ろうとしたときだった。

    「はい。でも、どうしたのですか? 急に」

    頼忠はそのことには答えない。
    もしかすると、自分が口を開くことで邪魔になるかもしれないので、花梨は口を閉ざす。そして、頼忠の様子をうかがう。
    しかし、彼はいつも通り寡黙な様子で歩くだけであった。あえて言うのであれば、いつもより殺気立っているような気もするが、花梨は気のせいかもしれないと思い直す。
    それが気のせいではないと気づいたのは、自分たちが向かっているのが屋敷とは反対方向であると気がついたときであった。
    頼忠が案内したのは一軒の古びた屋敷であった。
    庭は朽ちており、建物も壁があちこち剥がれいる。おそらく雨の日は屋根から水滴が入ってくることが予想できる、そんなところであった。

    「花梨殿、しばらくの間、この屋敷から出ないようにしていただけますか?」
    「何かあったのですか?」
    「今は話せません。信じてくださいとは言いません。ただ、あなたの命だけはお守りいたします」

    それだけを話すと頼忠は扉を閉め、その場を離れていく。
    何かがあったのは明らか。だけど、それを教えてもらえないのは、おそらく自分はこの状況だと足手まといになるしかないから。
    だから、今はここで身を潜めるのが彼の一番の力となり、安心となる。
    頭でそうはわかっていたものの、頼忠が何も告げることなく自らの戦いに赴いていったのが悲しかった。

    屋敷の中を下手に動いても、床が抜け、はまってしまう可能性もある。
    花梨は安全だと思う場所を探し、そこで体育座りをすることにした。
    外の様子をうかがうことはできないが、物音はしない。むしろ静寂があたりを包み込む。
    おそらく頼忠はここから離れたところにいるのだろう。
    何もできないことが歯がゆく苦しくもあるが、今は彼を信じて待つしかない。

    すると、庭から人が訪れる気配を感じた。
    自分の居所に気づいたものかもしれないし、それとは関係なく住みかを探しているものかもしれない。
    相手が誰であるかわからない以上、戦いの体制を取ったが、そこに現れたのは見知った顔であった。

    「勝真さん!」
    「頼忠に護衛を頼まれたんだ。お前のな」

    花梨はへなへなとそこに座り込んでしまった。
    思っていたよりも緊張していたらしい。
    そんな花梨の手を掴み、勝真は視線を花梨に向ける。そして、暗がりの中でもわかるくらいの眩しい笑みを見せた。おそらく花梨を安心させるために。
    その笑みに勇気づけられ、花梨は尋ねる。

    「勝真さん、教えてください。頼忠さんに何があったというのですか?」

    勝真は視線をそむけ、そして何かを考えているようだった。
    そして、重々しく口を開く。

    「一言で話すと、権力争いといったところだ」
    「権力争い……」

    京に来てから何度か巻き込まれたもの。
    それは主に身分の高いものの間で繰り広げられる。そんなイメージが花梨の中にあった。武士の頼忠は権力争いの渦中にいるものを護衛することはあっても、自らがその中に入るとは思えなかった。
    しかし、勝真は続ける。

    「前にも話しただろ、あいつは武士団の棟梁になるかもしれない男だって」

    そう言われてみれば。
    勝真の言葉を聞いて思い出す。
    以前、そんなことを言われたことを。
    そのときはその事実に驚くだけであったが、実際、頼忠と棟梁の地位は近づいているのだろう。

    「少し前に関白-幸鷹の父親が死んだだろ。それによって京の勢力が変わっているんだ」

    幸鷹の父が亡くなったというのは紫姫からも幸鷹からも聞いたことがある。
    ただ、藤原家は幸鷹の兄が継いでおり、今のところ大きな問題はないと話していた。

    ……しかし、実際のところは違うのかもしれない。

    一家の長を失ったため、権力は失墜し、それを補うため「龍神の神子」を迎えようとしていたのかもしれない。
    今はまだ小さなほころびに過ぎないが、大きく崩れていくのはもしかすると時間の問題なのかもしれない。

    「前ほど貴族の権力はなくなり、それを武士がとって変わろうとしている。その武士も頼忠のいる河内源氏や伊勢平氏など、いくつかの有力な武士が各地を支配しようとしている。貴族と武士、一族と一族だけではない。一族の中でも誰が長になるか、そんな争いは避けられない」

    勝真の言葉を花梨は頭の中でなんとか整理する。
    頼忠は一族以外との争いはもちろん、内部での争いに巻き込まれる可能性がある。いや、花梨をこの朽ち果てた屋敷に連れてきた時点で既に巻き込まれていると考えた方がいいのかもしれない。

    「頼忠さんも……」

    花梨の言葉に対し、勝真は小さく頷く。

    「ああ」

    頼忠は大丈夫なのだろうか。
    どこかで彼を狙う同族のものに刃を向けているのかもしれないし、逆に斬りつけられているのかもしれない。
    状況を知ることができないのが一番こわかった。だけど、頼忠が無事であることを今は信じるしかなかった。

    ーーーーーー

    7.この手は血で穢れている~後編

    不安と戦ってどれくらいの時間が経ったのだろうか。
    薄暗い屋敷の中では時間の経過をはっきりと知ることは叶わない。
    隙間からこぼれてくる光が強くなったかと思えば弱くなり、そして風も温かさを含んだかと思えば冷たくなる。
    そんな永遠に等しいとさえ感じる時間を花梨はそこで過ごした。
    そして、外からの風が夕暮れを告げる頃、待ちに待った声が届いた。

    「花梨殿、お待たせして、申し訳ございません」

    紛れもない。低く艶のある声は頼忠のものである。
    その声と入れ換わるように勝真は去っていく。まるで自分の役目はここで終わりだと示すかのように。
    屋敷の中に入ってきた頼忠は毅然と立っていた。
    おそらく傷ひとつついていない様子で花梨は安心する。
    ただ、不審なのは着ているものが花梨と別れたときとは違うこと。そして、それに汚れがほとんどついていないことであった。

    おそらく自分には隠しておきたい状況が起こったのだろう。
    そして、それを隠蔽するために着ているものを変えたに違いない。花梨はそう判断した。
    すると、頼忠が花梨の身体をふんわりと抱き締めた。
    花梨の鼻につくのは梅花の香。そう、彼が好きだと話していたお香。
    だけど、その匂いがいつもよりキツいのが気になった。そして、花梨は感じ取ってしまった。香に混ざってほんのわずかではあるが血の臭いもしたことを。
    そのことに頼忠も気づいたらしい。
    花梨から顔をそむけ、険しい表情へと一編させる。

    「やはり、あなたには誤魔化しがききませんでしたか……」

    花梨を抱き締めていた腕は解かれ、頼忠は花梨の目の前に跪いた。
    よそよそしさを感じる態度に花梨はイヤな予感がする。

    「私をこれから迎えるのはおそらく無数の血を流す戦い。そして、あなたもいつ、それに巻き込んでしまうかわかりません」

    そう話す頼忠をどこかで見たことあるような気がし、花梨は記憶を探る。
    そう、龍神の神子と八葉として京を守っていた頃、頼忠が自分のことを話してくれたにも関わらず遠くに感じたあのときと似ている。

    「それでもあなたが見せてくださる幸せに浸りたい。そう思ったのも事実です。そして、先ほどまではそれが叶うと信じていました」

    その先の言葉を聞くのがこわかった。
    自分は決して望んでいないひとことを放たれる。それを感じ取ったため、花梨は耳を塞ぎたくなる。
    だけど、今、ここで逃げれば頼忠を永遠に失うことになる。そんな恐怖が花梨の中にあった。

    「だけど、私は血の臭いから逃げることは叶わない。あなたは龍神の神子の役目を終えたとはいえ、やはり清浄な御方。私の穢れに触れさせるわけにはまいりません」

    ああ。
    花梨の中で言葉にならない感情が入り乱れた。
    気持ちの整理がつかないうちに、頼忠は立ち上がり、花梨の先を歩き出す。
    そして、振り返って話す。それは恐ろしいほど淡々と。

    「私とのことはなかったことにしましょう。勝真に紫姫の館までお送りするよう、伝えてまいります」

    行ってしまう。
    花梨は咄嗟にそう思った。
    そして、ここで頼忠を捕まえないと永遠に彼を失うことも感じた。
    先を行く彼の着物の袖を花梨はぎゅっと掴む。
    意外とも言うべきか、手を振り払われることはなかった。

    「私の話も聞いてください!」

    頼忠の返事を待つことはなく花梨は続ける。
    そうしないと彼はどこかに行ってしまいそうだったから。

    「勝真さんが話していました。私は龍神の神子でなくなったとはいえ、その過去があるという事実だけで私は利用価値があると。だからこそ守ってくれる人が必要なのです」

    そのとき、頼忠がはっと息を呑んだ。
    そこに糸口を見つけ、花梨はさらに続ける。

    「守られてばかりは嫌です。だけど、武力だと私は劣るのも認めます。そんな私だからこそ、頼忠さん、あなたに守っていただきたいのです」

    話しているうちに頼忠の視線が花梨に向き、絡み合うのを感じた。
    その鋭い眼光に負けじと話し、視線と視線がぶつかり合うことにひるまずにいたら、やがて頼忠が小さなため息を吐くのが見えた。

    「そうですね。私は大切なことを忘れておりました。あなたを一番近くでお守りしたいということを。確かに私の手は血に染まっています。これはもう拭いようもない。それでも私と一緒にいていただけますか?」

    答えは決まっている。
    花梨はしっかりとした瞳で答える。

    「もちろんです」

    この人は、頼忠は、立場と立場に挟まれることがあっても、自分を守ってくれた。
    だからこそ、今度はそんな彼の心を自分が守りたい。それが自分にできる精一杯の愛情だから。

    花梨は頼忠の身体を抱き締めた。
    彼がこれ以上、ひとりで悩む姿を見たくないから。
    そして、誰かを守るために剣を振るうというのであれば、それは彼だけが背負うものではない。
    だったら自分も一緒に彼の荷を背負い、罪を一緒に受けたい。そう思った。
    ふと花梨は背中に暖かいものを感じた。
    それが頼忠の腕であると気づいたのは少ししてからのことであった。

    ーーーーーー

    chapter:8.この手は血で穢れている~エピローグ

    「えー、源氏の武士団も私を利用しようとしていたのですか?」
    「ええ」

    季節はめぐり、麗らかな春の日差しが見守る中、花梨は頼忠とともに河内へ旅立つことになった。
    頼忠は棟梁の座を継ぐため、そして花梨はそんな頼忠に寄り添うと決めたため。
    河内への移動中、花梨は頼忠から告げられたことに驚きの声を上げてしまう。
    幸鷹のいる藤原家が花梨との婚姻を望んでいたことは知っている。
    それと同じことを源氏の武士団も企んでいたとは考えが及ばなかった。
    頼忠が花梨を匿った屋敷も、一族で争いが起こることを想定した上で以前から用意していたものらしい。
    もっとも武士団の企てとは関係なく、自分と頼忠は人生をともにすることになり、そして同族の争いも頼忠が何らかの形で決着をつけたらしいが。

    「でも、話してくださってありがとうございます」
    「いえ、これからあなたも一緒に過ごすものたちですから、隠しておくのも懸命ではないと判断いたしました」

    馬の手綱を引いているため表情をうかがうことはできないが、声の様子から花梨に対する真摯な気持ちが伝わってくる。
    おそらく生易しくはない世界。
    だけど、棟梁を頂点とし、一族繁栄のために剣をふるい、畑を開墾していく生活はやりがいも感じるのだろう。

    「そういえば、前に勝真さんに私への呼び方を指摘されていましたよね?」
    「言われてみれば……」
    「武士団のみなさんの前で『花梨殿』と話すと、頼忠さんについていくべきか、私についていくべきか、みなさん迷ってしまいませんか?」

    『花梨殿』と呼ばれることには慣れたところもあるし、呼び捨ては正直諦めた部分もある。
    だけど、やはり寂しく感じる自分がいるのも事実。
    そこで花梨は頼忠の武士団での立場を利用してみることにした。

    「花梨……ど…の……」

    前にいる頼忠から伝わってくる響き。
    敬称を取ろうとしているがうまくいかないのが伝わってきた。

    「やはり難しいですね」

    わずかに見える横顔から頬が染まっているのが見える。
    年は相当離れているはずなのに、そんな姿を見ているとかわいいと思ってしまう。

    「でも、近いうちにあなたをその愛しい名で呼ぶことを誓いましょう」

    そう言うなり、頼忠のうちから小さな音が漏れてくる。
    かりん、かりん、かりん、かりん……。
    呟きなら言えるのに本人を目にすると音にならない呼び名。
    いつかその名で呼んでもらえる日を楽しみにしながら花梨は馬上からの景色を眺めることにした。
    目に映るのはまだ田植えが始まっていない田んぼ。
    自分たちの結婚生活もまだこれから。
    その先にどんな形の穂を実らせるのだろう。
    そんな期待に花梨は胸を膨らませていた。
    相変わらず頼忠から漏れる花梨の名前を呟く音を聞きながら。

    ーーーーーー

    エピローグ

    「頼忠さーん」

    日中の気温は高いものの、日差しは柔らかくなり、秋の気配を感じさせるようになった。
    田んぼはすっかり稲穂が実り、頭を垂れている。
    秋独特の匂いを感じながら花梨は少し遠くにいる愛しき者の名を口にしながら走り出してしまう。
    その声が耳に入ったのか、頼忠がゆっくりと振り向く。彼にしては珍しい笑みを浮かべながら。その笑みが眩しくて花梨は見とれてしまったが、その笑顔は一瞬で焦燥に変わったことに気がつく。

    「そのように走られては」

    そう言いながら花梨のもとに駆け寄り、そして、花梨の身体をそっと抱き締める。
    しかし、花梨はなんてことないといった風に微笑む。

    「大丈夫ですよ。もう慣れっこですから。何度目のお産だと思っているのですか」

    そう、頼忠が花梨を気にかけているのは、そのお腹がふっくらとしているから。

    京に訪れた危機を救ってから数年後、花梨は頼忠に連れられて彼の郷里である河内へ赴いた。棟梁として一族を率いることになった彼を間近で支えるため。
    あっという間に花梨は源氏一族に馴染んでいった。それは頼忠の心配が杞憂であると実感するほど早くに。
    ふたりが笑みを交わし、あぜ道を歩いていたら後ろから声を掛けるものたちが。

    「とーちゃん、剣のけいこつけてー」
    「かーさま、わたしと遊んで」

    ふたりの元にやってきたのは子どもたち。
    この間、産まれたと思っていたのに、いつの間にかこうして元気よく動き回るようになった。
    頼忠は子どもたちの頭を撫で、屋敷の庭へと足を向ける。万が一花梨が転んでもしっかり支えられるようにするため、手は花梨の腰を支えながら。

    頬を掠める風を感じながら花梨は一面に広がる黄金の大地を眺める。

    「まさか十代で結婚して、子だくさんな生活になるとは思わなかったな」

    元の世界が恋しくないといえばウソになるけど。
    ときどきあの便利な生活が懐かしくなるのも事実だけど。
    それでもいい。
    この人が、頼忠さんが、自分を守ってくれるこの人がいれば私は充分だから。

    「今度は私が頼忠さんのことを守りますね」

    そっと呟いたつもりだったが、頼忠の耳には届いていたらしい。頬がほんの少し染まっているのは傾きつつある陽の光のせいだけではないだろう。
    返事はない。
    その代わり、腰にまわされた手の力がより一層強くなるのを感じる。

    「ありがとうございます、花梨」

    久しぶりに呼ばれる自分の名。それも存分な愛情を込めた上で。
    どこかに恥ずかしさを感じつつも幸せな想いに包まれながら花梨は屋敷へと戻った。
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    Replies from the creator

    百合菜

    DOODLE地蔵の姿での任務を終えたほたるを待っていたのは、あきれ果てて自分を見つめる光秀の姿であった。
    しかし、それには意外な理由があり!?

    お糸さんや蘭丸も登場しつつ、ほたるちゃんが安土の危険から守るために奮闘するお話です。

    ※イベント直前に体調を崩したため、加筆修正の時間が取れず一部説明が欠ける箇所がございます。
    申し訳ございませんが脳内補完をお願いします🙏
    1.

    「まったく君って言う人は……」

    任務に出ていた私を待っていたのはあきれ果てた瞳で私を見つめる光秀さまの姿。
    私が手にしているのは抱えきれないほどの花に、饅頭や団子などの甘味に酒、さらにはよだれかけや頭巾の数々。

    「地蔵の姿になって山道で立つように、と命じたのは確かに私だけど、だからってここまでお供え物を持って帰るとは思わないじゃない」

    光秀さまのおっしゃることは一理ある。
    私が命じられたのは京から安土へとつながる山道を通るものの中で不審な人物がいないか見張ること。
    最近、安土では奇行に走る男女が増えてきている。
    見たものの話によれば何かを求めているようだが、言語が明瞭ではないため求めているものが何であるかわからず、また原因も特定できないとのことだった。
    6326

    百合菜

    MAIKING遙か4・風千
    「雲居の空」第3章

    風早ED後の話。
    豊葦原で平和に暮らす千尋と風早。
    姉の一ノ姫の婚姻が近づいており、自分も似たような幸せを求めるが、二ノ姫である以上、それは難しくて……

    アシュヴィンとの顔合わせも終わり、ふたりは中つ国へ帰ることに。
    道中、ふたりは寄り道をして蛍の光を鑑賞する。
    すると、風早が衝撃的な言葉を口にする……。
    「雲居の空」第3章~蛍3.

    「蛍…… 綺麗だね」

    常世の国から帰るころには夏の夜とはいえ、すっかり暗くなっていた。帰り道はずっと言葉を交わさないでいたが、宮殿が近づいたころ、あえて千尋は風早とふたりっきりになることにした。さすがにここまで来れば安全だろう、そう思って。

    短い命を輝かせるかのように光を放つ蛍が自分たちの周りを飛び交っている。明かりが灯ったり消えたりするのを見ながら、千尋はアシュヴィンとの会話を風早に話した。

    「そんなことを言ったのですか、アシュヴィンは」

    半分は穏やかな瞳で受け止めているが、半分は苦笑しているようだ。
    苦笑いの理由がわからず、千尋は風早の顔を見つめる。

    「『昔』、あなたが嫁いだとき、全然相手にしてもらえず、あなたはアシュヴィンに文句を言ったのですけどね」
    1381

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    「頼忠さん、市に行きたいので、お供をお願いできますか」

    一通りの愛を交わしたあと、花梨が頼忠にそうお願いしたのは、先ほどのこと。
    頼忠はあっという間に身支度を整え、そして花梨に従い屋敷を出る。
    これだけ見ているとどちらがこの家に住むものなのかわからない

    「今日は、どちらにうかがいましょうか」

    和気あいあいというには、ちょっとかしこまっているのかもしれない。
    だけど、出会ったときよりは確実に縮まっているふたり。
    少し遠くから見れば、従者とともに出歩いている姿だが、近くで見れば逢瀬にしか見えない。そんな独特の空気を持つふたり。
    しかし、そんな仲睦まじいふたりの様子を氷のように研ぎ澄ました瞳で見つめるものがいた。微笑ましい、そんな空気を一蹴するかのような冷たい眼差しで。


    「花梨殿、私から離れないでいただけますか?」

    頼忠が花梨にそう話しかけてきたのは、必要なものはほぼ揃い、そろそろ帰ろうとしたときだった。

    「はい。でも、どうしたのですか? 急に」

    頼忠はそのことには答えない。
    もしかすると、自分が口を開くことで邪魔になるかもしれないので、花 6803

    百合菜

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    「たとえこの手が穢れていても(前編)」
    プロローグ

    「それ、花梨からの文か?」
    「ええ、河内で元気にしているようですわ、兄上」

    千歳の住む屋敷に勝真が訪れたのは秋も深まったある日のこと。
    貴族の女性らしく、めったに表情を崩さない千歳であるが、その日はほんのわずかではあるが口角が上がっているのが見てとれた。
    そして、手にしていたのは文であることから、差出人が花梨であると気づいたようである。

    「あいつら、いろいろあったけど、元気にやっているみたいだな」
    「そうですね」

    千歳の言葉を聞きながら勝真は簾のかかった室内から空を仰ぐ。
    空の色をはっきりと認識することはできないが、おそらく彼女の笑顔を思い出させる澄みきった青空が河内まで広がっているであろう。

    「もう二度と会うことは叶わないでしょうけど…… でも、会いたいわ、花梨」

    聞こえるか聞こえないか。そんな千歳の呟き。
    返事を待っているわけではないだろうが、勝真もつい答えてしまう。

    「そうだな、俺ももう一度会いたいぜ。あいつらに」

    そして、思い出す。
    花梨たちと京を守るために奮闘した日々と、そしてそのあとの花梨と頼忠を取り囲むちょっとした事件のことを。

    ーーーーーー 8597

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    頼忠はあっという間に身支度を整え、そして花梨に従い屋敷を出る。
    これだけ見ているとどちらがこの家に住むものなのかわからない

    「今日は、どちらにうかがいましょうか」

    和気あいあいというには、ちょっとかしこまっているのかもしれない。
    だけど、出会ったときよりは確実に縮まっているふたり。
    少し遠くから見れば、従者とともに出歩いている姿だが、近くで見れば逢瀬にしか見えない。そんな独特の空気を持つふたり。
    しかし、そんな仲睦まじいふたりの様子を氷のように研ぎ澄ました瞳で見つめるものがいた。微笑ましい、そんな空気を一蹴するかのような冷たい眼差しで。


    「花梨殿、私から離れないでいただけますか?」

    頼忠が花梨にそう話しかけてきたのは、必要なものはほぼ揃い、そろそろ帰ろうとしたときだった。

    「はい。でも、どうしたのですか? 急に」

    頼忠はそのことには答えない。
    もしかすると、自分が口を開くことで邪魔になるかもしれないので、花 6803

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    「ええ、河内で元気にしているようですわ、兄上」

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    貴族の女性らしく、めったに表情を崩さない千歳であるが、その日はほんのわずかではあるが口角が上がっているのが見てとれた。
    そして、手にしていたのは文であることから、差出人が花梨であると気づいたようである。

    「あいつら、いろいろあったけど、元気にやっているみたいだな」
    「そうですね」

    千歳の言葉を聞きながら勝真は簾のかかった室内から空を仰ぐ。
    空の色をはっきりと認識することはできないが、おそらく彼女の笑顔を思い出させる澄みきった青空が河内まで広がっているであろう。

    「もう二度と会うことは叶わないでしょうけど…… でも、会いたいわ、花梨」

    聞こえるか聞こえないか。そんな千歳の呟き。
    返事を待っているわけではないだろうが、勝真もつい答えてしまう。

    「そうだな、俺ももう一度会いたいぜ。あいつらに」

    そして、思い出す。
    花梨たちと京を守るために奮闘した日々と、そしてそのあとの花梨と頼忠を取り囲むちょっとした事件のことを。

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