『ホテル行く?』(クロパパ)「……寒くなってきたな」
「だんだん冷えてきましたなぁ…」
晩酌の途中で、二人はホテルを抜け出し散歩に来ていた。マスターさん、と急に呼ばれて。クロックマスターは振り返る。いつの間にか距離を詰めていたミイラパパに抱き寄せられて、クロックマスターはビクリと硬直した。
……ホテル、行きます?
ミイラパパの顔が、自身の顔に触れそうな程に近い。耳元に囁かれる声は、とても身体に悪い毒のように、クロックマスターの心臓を蝕んでいく。……ホテル、と言うのは。目の前のホテルに決まっているだろうに。
「…………あぁ、そう…だな……」
辛うじて返事をして。ミイラパパの反応を待つ。──しかし身体に回された腕がほどかれる気配が、一向に無かった。ミイラ……?と名前を呼ぶも。返事は無い。この密着している距離感で、クロックマスターはミイラパパの顔を見る事を、何故だか躊躇っていた。
──別に、何と言うことは……無いだろうに。自身にそう言い聞かせるも、身体は強張って、動かない。
「──マスターさん…」
「……あぁ、どうした…?」
帰りましょうか。ミイラパパは突然そう言うと、先程とは打って変わりスッと腕を離して、クロックマスターを解放した。スタスタと歩き出したミイラパパの横顔が満面の笑みだった為、クロックマスターは自身の逸る心臓に大きく咳払いをしたのだった。
おわり。