星々の唄星の海には星々の記憶が流れていた。
過去、現在、未来…星の海には「時」がないから、それが既に起きた事象なのか、いつか来たる事象なのかはわからなかった。
分かるのは結果だけ。
星々の記憶は正確だった。抗っても抗っても…必ず観測した事象は訪れる。だから備えておく必要があった。いつこの結末を迎えてもいいように。
最後まで抗ってみせる。せめて、大切なこの世界の人達が少しでも笑顔でいられるように。この手で、世界を壊してしまわぬように。
なぜ、星の海が見えるのか
なぜ、剣たちの声が聴こえるのか
なぜ、剣聖たちが応えてくれるのか
それは未だにわからない。
けれど、ずっと孤独だった俺には、この美しい星の海が唯一の救いだった。星々だけが、いつも俺の側にいてくれた。眩しすぎる陽の光の中でも、暗く寂しい夜も、見上げれば星の海を見ることが出来た。ひとりじゃない、そう思えた。
彼らが見せる悲しい未来を変えることが、自らに課せられた使命なのだと、いつしか思うようになっていた。
それに、悲しい未来だけじゃない。みんなが笑顔でいられる未来だってあった。だから今、その未来の為にこうして立っていられる。
孤独ではあったかもしれない。でも、寂しいと思った事はなかった。この星々と、守りたい人達の姿を胸に生きてこられたから。
それに、未来が見えたからこそ、来る日に備えることもできた。団長ちゃん達には、俺がいなくても世界が廻るよう強くなって貰う必要があったから、敢えて困難に立ち向かうよう誘導もした。
団長ちゃん達が堕天使達や月の来訪者達との戦いの時…まさに世界の危機って時、手を出さなかったのもそうだ。あの時は、ウーノや他の十天衆の皆からは、この件は手を出さなくていいのか、散々詰め寄られたっけ…
それら大きな戦いの結果は解決に向かうこと、そしてその光景には必ず団長ちゃんとその仲間たちがいた事を知っていた俺は、敢えて手を出さず、被害拡大を抑える側に徹する事にしていた。手を貸してしまえば、団長ちゃんの成長、ひいては彼らの戦力拡大を抑える事になりかねなかったからだ。
ウーノから「時折思うんだが、君はまるで未来が見えているような発言をするね。」と言われたこともあったっけ…君のその予想、間違いじゃなかったよウーノ。
そして、標神と名乗る彼の声が聴こえたその時、ついにその時が来てしまったのか、と察してしまった。
存外、冷静だった。
世界を壊すキッカケがいずれ来ることは星々から見せてもらっていたし、事の発端は自分が関わる事も知っていたから。
その次に湧いてきた感情といえば安堵だった。
嗚呼、こいつが世界を壊すのか、俺じゃなくてよかった…という安堵。
この手で世界を壊す事など信じたくなかったし、この先ありえないだろうと思っていたから、なるほど合点がいった。
俺が世界を滅ぼす、という結果だけしか知らなかったが、どうやら正確には、「シエテ」を器にした標神が世界を滅ぼす…というのがこの世界の行く末らしい。
夢から覚めた心地だ。
大好きな仲間達がいるこの世界が愛おしくて愛おしくて、そしてそれを傍で見守っていられる事が楽しくて、嬉しくて…俺には勿体無いくらい出来すぎた世界で…本当に夢のようだったから。
でも、もうその夢は終わるのだ、と思ったら急に胸がざわついた。感情なんて何処かに落っことしてしまったと思ってたけど、やっぱり寂しい、のかもしれない。
あとは、時が来れば彼らが標神を止めてくれる事だろう
その時はきっと俺はもういないけど…思い残す事などない。
いや、1つだけ、あるかな…
団長ちゃんを悲しませてしまうこと。
あの子は優しいから…こんな俺の為でも涙してくれるかもしれない。
ごめんね、一緒に星の海を見に行くって約束…
守れそうにないや…
標神、お前は世界を諦めたかもしれないけど、団長ちゃんは決して諦めたりなんかしない…あの子は諦めないと決めたら最後まで諦めない。覚悟はできてる?
…
お前も少しは信じてみたらどう?
大丈夫、あの子ならきっと…