ヤリチン監督生が洗脳ザーメンでリーチ兄弟をNTRする話 監督生とリーチ兄弟が付き合うようになってから、しばらく経った。監督生はしょっちゅう二人を抱いていたので、ずっと三人の関係は続いていた。とても幸せだった。
監督生は二人のことをとても大切にしていた。抱く時も彼らの嫌がることはしないし、望むまま与えて、慈しみ、彼らが満たされるように、と心を尽くした。それでも、ベッドの上でジェイドとフロイドが仲睦まじくちょっかいをかけあっているのをみると、監督生は少し不機嫌になったり、拗ねたりした。ジェイドとフロイドはそんな監督生がおかしくて愛しくて、わざと仲良しアピールをすることもあった。すると、その日はいつもより激しい行為が待っている。二人は監督生にされることなら、どんなことも嫌ではなかった。むしろ嫉妬されることも、嬉しかった。番から自分たちは愛されていると実感できた。
穏やかな日々を過ごすうちに、監督生も少しずつ満たされ、落ち着いてきて、ジェイドとフロイドが二人だけで楽しげにしていても、むやみやたらと嫉妬するようなことはなくなっていった。二人から捧げられる沢山の睦言のうちのひとつとして、人魚にとって番は家族みたいなものだ、と言われた監督生は、嬉しいな、ずっと家族が欲しかったんだ、と言って、とても嬉しそうにしていた。家族、という響きが彼を救った。
飛行術のときに落ちたジェイドを受け止めようとして、監督生が下敷きになったことがあった。そこまで高い位置から落ちたわけではなかったので、幸い二人に大きな怪我はなかった。魔法薬学のときに他の生徒が雑に扱った薬品で事故が起きたときも、フロイドとペアを組んでいた監督生は彼を庇って破裂した薬品の大部分を浴びた。すぐさまクルーウェルが飛んできて、応急処置をしたので大事には至らなかった。
二人が怪我をしそう、周りで危ないことが起こりそう、そんなとき、監督生はいとも簡単にその身を投げ出して、二人を庇った。それで怪我をしても、なんでもないような顔をしていた。
「だって、俺は二人の番だし。番を守るのは当然だろ?」
そういうことが何度も何度も起きたので、とうとう監督生は二人から怒られた。
「小エビちゃん、俺らのために身体はりすぎ。俺ら人魚だし、魔法も使えるし、そう簡単に死なねえから!」
「そうですよ!人間で魔法も使えない貴方に何かあったらと思うと僕らは気が気じゃありません。死ぬ気なんですか?」
監督生は、目を細めて笑った。
「そうだな。もし、俺が死んでお前たちが助かるなら、俺は死んでもいいよ」
お前たちを解放してやることはできないけれど。それくらいの覚悟で二人のことを愛している。彼らのためを思うなら、本当に愛しているのなら、洗脳を解いて、本当の番の元に彼らを返すべきなのだろうけれど。それができないから。
「俺の命を全部おまえ達にあげるつもりで、番になったんだ」
さらっとそんなことを言ってのける監督生に、ジェイドとフロイドは思わず絶句する。二人は声にならない感情ごと、ぶつかるようにして監督生を力いっぱい抱きしめた。
(この番、自分達のこと好きすぎるだろ……!)
赤くなった顔が見られないように、彼らはぎゅぅっと監督生の肩口に顔を埋めた。
※
三人が付き合いだして三ヶ月が経った頃、監督生が風邪をひいた。高熱が出て、身体がだるくて動けない。ちょうど二人が忙しい時期が続いていて、ここ四日ほど二人と会えてない。あと三日以内に回復しないと、最後に体を重ねてから七日以上経ってしまうという、最悪のタイミングだった。
まずいな、と監督生は焦った。ジェイドもフロイドも監督生を心配してくれた。フロイドが汗で濡れた服を着替えるのを手伝ってくれて、ジェイドが身体を温かいタオルで清めてくれた。脱いだ服をまとめて籠にいれると、フロイドがそのまま部屋から洗濯室へ持っていこうとする。
「いいよ、フロイド。置いておいて。治ったら、俺が自分で洗濯するから。ジェイドももう、はやく自分の部屋へ戻って」
風邪が、うつるといけないから。続きの言葉を言い終えないうちに、ジェイドに布団にくるまれてしまった。
「病人はそんなことを考えないで。はやくよくなることに専念していればいいんです」
「そうそう、そんなつまんねーこと考えてないで、さっさと寝なよ」
額に二人の手が重ねられる。彼らの低い体温が心地よい。あと三日で治らなかったら、失う。この優しさもぬくもりも全て。失うと分かっている。洗脳が解ければ泡沫の泡のように、何もなくなると。この優しさは憎しみに変わる。はやく風邪を治して、彼らの愛を更新しないと。
翌日になっても、風邪は治らなかった。熱も高いままだ。洗脳が解けるまであと二日。体液を飲ませないと洗脳が更新できない。口づけがいいか。せがめば、彼らはいつでもキスをしてくれる。
ああ、でも、と監督生は熱に浮かされた頭でふと思った。そんなことをしたら確実に風邪をうつしてしまうな。熱に弱そうだし、人魚に風邪をひかせたらきっと、苦しむだろう。それはかわいそうだ。もっとひどいことをしているのだから、今更、風邪をうつさないように気をつけたとしても、なんの償いにもならない。けれど、熱に苦しむ二人のことを想像してしまった。手に入れるためなら、どんな非道もやってのけた。けれど、手に入れた愛しい二人のことを大切にしたかった。俺は、二人にキスをねだることができなかった。
日付が変わった。熱が下がらない。あと一日で洗脳が解ける。あと一日で、世界の全てを失ってしまう。どれだけ苦労して手に入れたと思っているんだ。ただの風邪で、こんなつまらないことで、二人を失うなんて、想像してもみなかった。最悪、俺のしたことを考えれば二人に殺されてもおかしくない。二人が離れていく恐怖と熱の苦しさで気持ち悪くなって、俺は少しトイレで吐いた。見舞いに来てくれていたジェイドが慌てて着替えをもって、フロイドがタオルを用意して駆けつける。
「気分悪いの?大丈夫?」
フロイドが背中をさすってくれる。
「ベッドのそばにも洗面器を置いておきます。苦しくなったらいつでも吐いていいんですよ」
ジェイドが口を濯ぐ俺の肩を支えてくれる。二人を失いたくない。家族だと言ってくれた。こんなふうに俺が苦しい時に支えてくれる。ひどいことをした俺のことを。みっともなくすがりつきたくなる自分がいる。無茶苦茶に抱きついて泣き喚いて、愛を請いたくなる。思わず手を伸ばして二人の服を掴んだ。二人は、辛いの?苦しいの?と、掴んだ手を優しく握り返してくれた。俺はやっぱり、キスしないことに決めた。
この三ヶ月幸せだった。だからもう、終わりにしてもいいと思った。二人がそばにいないなら、世界を失ったなら、たとえ殺されたって構わない。
誰もいないから。お前たちに望まれないのなら、もう誰も。望んでくれる人はいないんだ。魔法はいつかとける。真実の愛には勝てないし、永遠の愛に俺の手は届かない。俺がいなければ全て元通りで、二人の幸せのために俺はいらない。
吐いた後、監督生は眠ってしまった。ときどき、二人の名前を呼びながら苦しそうにうなされている。
「フロイド…っ、ジェイド…」
「どうしました、ユウさん」
「オレ達ここにいるよ」
フロイドとジェイドが手を握ってやると、監督生は眠ったまま嗚咽を噛み殺すようにして泣いた。怖い夢でもみているのだろうか。名前を呼ぶ声が、まるで死ぬ間際のような切実な響きをしていたので、二人は繋いだ手を離せなくなってしまった。泣き止んだ監督生は再び深い寝息をたてはじめる。フロイドとジェイドは二人で顔を見合わせると、起きるまで監督生のそばについていることに決めた。
夜中にぱちっと目が覚めた。熱は大分下がってきて、身体が楽になっている。二人は俺のベッドサイドで俺の手を握ったまま寝落ちしている。ずっとついていてくれたのか。優しいなあ、二人とも。俺は本当の番じゃないのに。まるで、本当に愛してもらっているみたいだ。そんな優しい彼らとも今日が最後だ。きっと正気に返れば、彼らは俺を許さない。この三ヶ月、この上なく幸せだった。俺はそのままずっと起きていて、二人の寝顔を眺めていた。
二人が正気に返る朝。俺は黙って、二人と繋いでいた手を離した。もう、この温もりを再び手にすることはないだろう。二人が目を覚ましたらすぐにでも、首を絞められたり、殴られたり、蹴飛ばされたりするのだろう。
そう覚悟していたのに、目覚めたフロイドは優しい声で俺に告げる。
「具合はどう?小エビちゃん」
身体を起こしたジェイドが俺の顔を撫でる。
「隈ができていますね。昨日はよく眠れなかったんですか?なにか温かいものをもってきますから、それを飲んだらもう少し寝た方がいいですよ」
二人がそんなことを言うので、俺はひどく混乱した。いったい何が起きているんだ。七日目をとっくに過ぎても、愛しい人魚達は俺のそばにいてくれた。熱は下がっても、なかなか風邪が治りきらなくて、その後も俺はキスもセックスもできていない。俺は狼狽えた。
嘘だ、お前たちが俺のことを愛しているはず、ない。たぶん、俺を油断させて、一番ひどいやり方で報復しようと考えているのだろう。信じない。信じられない。混乱してどうしていいかわからなかった。本当に風邪をうつしたくなかったし、自分の身の回りのことはできる程度に回復したので、ジェイドとフロイドのことを遠ざけた。
※
ジェイドとフロイドの二人は監督生のそばで目が覚めた。この日、ついに二人にかけられた全ての洗脳はすっかり解かれた。最後に監督生とセックスをしてから七日目のことだった。どうやら、この洗脳は七日で解けるらしいことを二人は理解した。
監督生が自分達に何をしたか、全部覚えている。それでも、いつも通りにふるまった。フロイドもジェイドもお互い何も言わなかったけれど、示し合わせたように普段通りの態度をとった。つまり、混乱する監督生のことを甲斐甲斐しく看病し、手厚く世話したのだ。
二日ほど経って、監督生から、だいぶよくなってきたし、うつったらいけないから、と部屋から出されてしまったその日の深夜、彼らはオンボロ寮を訪れた。熱が引いて、監督生はよく眠っている。昼間、こっそり睡眠薬を飲ませたので、何をされても彼が起きることはない。
向かい合って見下ろす双子の手には銀のナイフが握られていた。互いにナイフを渡しあう。
『さあ、兄弟。このナイフで王子様の心臓を一突きしなさい。そうすれば貴方は自由になれる』
御伽噺の一節になぞらえて、声を揃えた二人は互いにナイフを差し出した。月の光を受けて、ナイフがきらきらと銀色に光る。渡された凶器を受け取って、安らかに寝息を立てる監督生の胸元に切っ先を向けて二人は狙いを定めた。
両腕を振り上げて、躊躇なくその心臓を。
一突きに。
してやるはずだった。
「……どうしたの、ジェイド。殺さねえの?」
「……フロイド、貴方こそ」
この男を殺して。ころして。自由になる。八つ裂きにしても足りない、とそう思っていた。その筈なのに。どうして。
「俺さぁ。人魚姫が王子様を刺せなかった理由が分かった気がする」
フロイドが小さく呟く。
「だって、手動かねえもん」
「僕も、まさかこの絶好のチャンスを棒に振ってしまうなんて、思いもしませんでした」
「俺の番はジェイド」
「ええ、僕の番もフロイドです」
「じゃあ、小エビちゃんは?」
「監督生さんは……」
「赤の他人?」
「その通り。僕ら兄弟とは違う。住む世界も、種族も、血のつながりも無い」
「じゃあ、なんで」
「なんでこんなに」
(愛しくて仕方がないんだろう)
殺せない。あんなに憎んだのに。
愛してしまった。
明け方の、あの泣き顔が離れなくて。
あんなにめちゃくちゃに俺達を思い通りにしたのに、命全部で俺たちに愛を誓ってきた。まるで世界に俺たちしかいないみたいに、必死で愛してくる。俺達が死ねと言えば、簡単に死んでしまうのではないかと思うほどの献身をみせた、この男のことを、とうとう愛してしまった。
「やっぱり僕は、王子様を殺せません」
「俺もジェイドとおんなじ気持ち」
監督生の上でジェイドとフロイドは番同士がするような甘いキスをした。眠る監督生にも、そっと二人はキスを落とした。
この男に大切な番の関係を蹂躙された。監督生のしたことは許せないし最低だ。だから、愛しているけれど、監督生には少しだけお仕置きが必要だろう。
銀のナイフを仕舞った二人の金色の目が、月夜にぎらりと光っていた。