初めてのネクタイ(うまく結べない…)
衣類に興味はない。
だが、指定された衣服であれば、それはマレウスに恥をかかせないためには必要なことであった。
シャツに、スラックスに、あと警棒と…靴下にローファーと身につけつつ残されたのはネクタイのみ。
入学式は式典服の着用でボタンを締める、フードを被るとそこまで複雑なものではなかったがこうも手先の器用さが必要となってくると表情を変えることなくシルバーは悩むしかなかった。
明日から始まる学園生活。
少しでも慣れようと思って手をかけやり始めたがなかなか上手く行かない。結び目が大きくなったり、裏地が表を向いてしまったりとぐちゃぐちゃだ。
「シルバーおるか?」
ドアをノックする音が聞こえた。聞き慣れたその声に嬉しく思いつつ、咳払いをし扉を開けた。
「親父殿」
「ふふ…ここでその呼び名は誤解を生むぞ?」
「あっ」
「さて、どう教えたか覚えておるか?」
「リ、リリア先、輩……」
「いいのいいのぉ!シルバーに先輩と呼ばれるのは嬉しいぞ!」
「俺があなたのことを名前で呼ぶのは初めてで慣れませんが…それはそうと用があったのでは?」
「そうじゃった!!」
リリアと呼ばれた彼はぴょこぴょこと髪を揺らしシルバーの横を通り抜ければ机に置いてあったシルバーのネクタイを手に取る。
何度も練習したのがわかるくらいシワシワになったそれを見てニヤニヤと見つめるのであった。
「ネクタイ難しいじゃろ?」
「はい」
「…こっちにおいで、シルバー」
机に備え付けられている椅子を引き、リリアは自分の正面を向かい合わせにセッティングした。シルバーにそこに座るように促せば「心を読まれた?」と思いつついそいそと向かい合う形で椅子へと座った
。
「リリアちゃんが特別に結んでやろう」
「ありがとうございます」
「…今日のお主の式典服姿とてもよく似合っておった。妖精のわしからしたら16歳はまだまだ赤子も同然なのにのぉ」
「親父殿と暮らしてもう16年経ったんですね」
「時の流れとは早いものよ」
手際よくネクタイが結ばれていく。
形が綺麗に整えられると「よし!!」と肩をポンと押される。リリアの魔法によって手繰り寄せられた手鏡で確認すればネクタイの綺麗さを更によく見れた。
「リリア先輩ありがとうございます」
「あとは練習して慣れることじゃ」
「はい」
自然と笑みが溢れる。
自分が困っている時に助けてくれるのはいつもリリアなんだと。
声を上げずとも来てくれる。
「…入学おめでとう、シルバー」
「はい」
初めて結ばれたネクタイに手を当てた。
NRCに入学して初めてできた思い出だった。