とうど見返りを求めるから優しくする。きっとそれは正しいのだろう。
では、自分が彼に求めているものは何なのだろう?
初めて挨拶以上の会話をした時に『もの哀しい』と彼を形容した。
今でもそれを噛み砕いた形容は出来ないけれども、このように何から何まで世話を焼いてしまうのは未だに直太郎自身が珠岡のことをそのように思ってしまっているからだろう。
大勢の局員が利用する寮の一部屋は快適であり慎ましやかだ。
一度帰宅し持ち込んだ食材を、簡易な台所を借りて煮詰めすぎないように温める。その様子を寝台から見ていた珠岡はどこか遠くを見ているような表情で心がそこに無いようであった。
「具合はいかがですか?」
「骨折と外傷だけですので、他は平気です。」
「そうですか、それは良かった。少しぼうっとされているような気がしましたから。」
さほど脚の高さのない質素な寝台とはいえ、半身を起こしていた珠岡と卓に温めた料理を置いて床に膝をついた直太郎では視線の位置に差ができていた。
「慣れているんですね。」
「主を持つ従者の嗜みですから……というのもありますが、やはりお世話をするのが私の性に合っているみたいです。ああ、それだから、ですかね。」
「? だから、と言うのは?」
珠岡さん、言いましたでしょう。と、直太郎は料理をのせた盆を手渡しながら続ける。
返せるものがないのに優しくされるのは怖いのでは、と。
「私が貴方に優しくするのは『貴方がさみしい時に思い浮かぶ人になりたいから』なんだなと。求めるのが実物でないから無欲に思われたのかもしれないですね。」
ほら、ちゃんと甘やかす理由がありましたよ。
貴方の知りたい『何か』の答えになりましたか?