風薫る五月。連休も明けて気温もほどほど、京極からすれば庭仕事には最適な季節だ。広大な葵ノ橋学園は当然植木や花壇も多く、芝刈りや雑草の処理と用務員の仕事には事欠かない。
「我ながら働き者だね、まったく」
脚立と高枝切りバサミを抱えて校庭を横切る。どこかのクラスが授業中らしく、陸上グラウンドからのにぎやかな声が耳に届いている。不意にガサ、と目の前の植え込みが鳴いた。陰から現れたのはキョロキョロと挙動不審な男。姿勢を低くして何かを探しているような……さては覗きか、と京極は眉を顰める。
「おい。あんた」
「うわっ!」
高枝切りバサミの柄で男の尻をつつくと、相手は飛び上がってこちらを向いた。思っていたより若い男だ。学生だろうか。
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