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    somakusanao

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    書いている私だけが楽しい十二国記パロ

    #ココイヌ
    cocoInu

    十二国記パロ④「それにしても、あれほど荒れはてた巧国をなかなかうまくまとめたものだねぇ」

     氾王は優雅な手つきで扇を仰ぎながら、つぶやいた。穏やかな気候の王宮の中である。扇は涼をとるためではなく、見せびらかすための贅を凝らしたものである。範は農作物にしても工芸品しても平均的な国であったが、見事な工芸品で他国に名を轟かせている。
     一方の巧国は新王が立ったばかりである。荒れた国ではどうしても工芸品にまで手は至らない。王の威厳を保つための服飾品の多くは範からの借りものであった。買い取ったわけではない。あくまで借りたものだ。この度の来訪もその借りた品々を返すためである。

    「治世五年でうまくやっている方だ」
    「外面を取り繕っているだけです。中身は貧乏国のまま。服も金も軍もなにもかも借りものです」

     宝飾品は範国が貸している。金子は奏国が、軍は雁国だ。いづれも十二国の中では長い治世の国である。

    「なに、いづれ貸しは返してもらうよ。これから長いつきあいになるんだ」

     なにしろ王はひとではない。神である。そのため寿命はない。

    「我々とてまったくの奉仕活動というわけではない。なにしろ国は地続きであるしな。国が荒れれば気候が荒れる。妖がでる。難民を見捨てるわけにはいかぬ」
    「ありがたいお言葉です。若輩者なりに奮闘させていただいております」

     ふむ、と氾王は若き塙王を透かし見た。年のころは十代後半と言ったところ。細身であるからか、少年と青年のはざまといった風情である。
     黒々とした髪に紫の瞳。いかにも聡明そうな顔立ちであるが、なんというか一筋縄ではいかなそうなところがある。そもそもにして年若い王にしては、官とわたりあう手並みは鮮やかであったと噂に聞く。あれよあれよというまに、王宮の顔触れは一新し、腐敗のいっさいを断ち切ったというのだから見事だ。
     あれが学生というのは嘘だな、と言ったのは、延王だったか。どこぞの軍にでもいたのではないか、と顎を撫でていたが、景王に日本に軍隊はありませんよとばっさりと切り捨てられていた。
     塙王のおそるべきところは犯罪に精通しているところである。
     前王を失った巧は荒れに荒れ、悪人が跋扈する国であった。その名だたる頭領たちを次々に追い詰めていったのが塙王だ。あまりに塙王の予想が当たるので、禁軍の将軍らは震えあがり、若き王に首を垂れたという話である。
     その際に王は妖なのではないかと噂が流れたとか流れないとか。その噂の出所が塙王自身であったとかないとか。
     まったく面白い王である。
     おなじ胎果の王であっても、延王は奔放に過ぎ、景王は気真面目である。塙王はしたたかというべきか。

    「で、塙王自らの訪れてきたのは目的があるんだろう」
    「もちろんです」

     もちろんと来た。
     建前を口にするつもりすらないらしい。

    「我が国は金がない。優秀な人材も足りない。なにもないから、あるものを利用します」
    「ふむ」
    「塙麒です」
    「ふむふむ」
    「気を悪くせず、まずは話を聞いていただきたい。我が塙麒はうつくしいでしょう」
    「ふむふむふむ」
    「一月ほどお貸しいたします。ご自由に着飾らせてやってくださいませ」

     これに思わず鈴のようなかろやかな笑い声をあげたのは氾麒だ。幼い外見の麒麟は、うふふふふ、とさも楽しそうな笑い声をあげる。

    「うふふふふ、うちの塙麒はうつくしいだなんて、ずいぶんと素敵なことを言うのね」
    「おや、とんだとばっちりだ。私の氾麒はいちばん可憐な麒麟だよ」
    「ふふふふ、麒麟が美しいのなんてあたりまえでしょう。うふふふふふ」
    「もちろん廉麟殿はうつくしく、宋麟殿はたおやかだ。でも私の姫さまがいちばん愛らしいよ。どれ、悲しませたお詫びに新しい首飾りでも拵えてみようか」
    「それです」

     それです、と膝を打ったのは氾麒ではなく、塙王だった。

    「ぜひうちの塙麒にもひとつ」
    「範の国税で塙麒の首飾りを作れと言うか」
    「我が国のものにしようというわけではありません。イヌピーをモチーフに、これじゃあ伝わらないか、ええと塙麒を題材にした工芸品はきっと見事なものになるはずです」
    「ふむ。我が国の匠たちにあたらしい意欲をあたえよ、ということか」
    「そうですそれです。貴国の氾麒はとても可愛らしい。だが氾麒にはない凛とした美しさが塙麒にはある。いかがでしょう」
    「あのような痣のある麒麟は見たことがない。ああ、気を悪くするな。むしろ美しさをひきたてていると言っている」

     これ、そこの、と氾王はその場に控えていた工匠たちを呼びつけた。塙王の来訪の理由は工芸品の返却にある。そのためにずっと平伏し控えていたのだ。
     塙麒を意匠に宝飾品を作ってみる気はあるか、と訊ねた氾王に、ありがたいおことばですと工匠たちはいっそう首を垂れた。
     彼らが贅を凝らして作るであろう工芸品は見事であろう。まったく楽しみなことであるが。

    「で、その塙麒はいづこに」
    「いまは寝台で休ませていただいております」
    「血の穢れか」

     なにせ塙王が登極して五年。巧国はいまだ荒れ果てている。呪詛の声はいまだたかく、麒麟を苦しませる原因となる。

    「禊は済んでおります」
    「つまりこの範国でひと月あまり麒麟を保護せよということだな」

     塙王はにっこり笑う。

    「貸しは十倍にして返せよ」
    「治世三百年の賢王たる氾王がそんな高利貸しのようなことは言いますまい」

     まったく一筋縄ではいかぬ、したたかな王である。 



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