その姿はまさにその生き物は宙に浮いてそこにいた。
いや、正確には浮いているように見えた。目を凝らすと薄い糸が円を描くように張り巡らされ、中心の点になるようにその生き物が鎮座している。
「蜘蛛だ。」
レオナルドは呟いた。
蜘蛛が珍しいわけではない。この大都市ではよく見かけるし、我が家と呼んでいる下水道にだって幾つもの巣がはびこり姿を現す。この蜘蛛だって、何の変哲もない、どこにでもいる普通の蜘蛛だ。それなのにレオナルドは偶々目に着いたその生き物にどういう訳か魅入っていた。 ゴミ捨て場の陰に腰を下ろし、息を殺して蜘蛛を見守る。悪戯心に軽く息を吹きかけてみても糸を張っている元を揺らしても蜘蛛はぴくりとも動かない。死んでいるのかと手を伸ばせば距離をとってきたので、生きてはいるようだ。
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