法師藍忘機×モス羨①静謐で満たされている森の中、ひらりと舞う小さな影がひとつ。
暗闇でも、月光に照らされて翅は七色に輝き、キラキラと眩い光を淡く放つ。星の瞬きのような幻想的な光景は、人の目に触れれば注目の的であろう。しかし、この奥深い山中には、その翅の持ち主と一人の魔法使いしかいなかった。
「魏嬰」
名を呼ばれ、光源はふわりと声の方へと近寄る。
「藍湛!」
よく通る声で光源――妖蛾である魏嬰は、黒衣を纏った男の名を呼び返した。
「目的の薬草はもう見つかったのか?」
「うん」
「じゃあ、家に帰ろう。すっかり日が落ちてきて、おまえも手元が暗くて難儀してないかと思ったけど、要らない気遣いだったな」
「そんなことはない」
美しい顔貌が、僅かながらに柔らかくなる。その変化は、数年の付き合いのある魏嬰だから判別できる程度の微かなものだ。
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