ヒペリカム(仮)その日、いつものように訪れた集会所は何やら緊迫感が漂っていて。
「お待ちしておりました。」
集会所受付のミノトの表情も普段より心持ち固い様子が見られる。ただ事ではないようだ。
佇まいを直したロイに彼女は願いを託すように言葉を口にのせた。
「百竜夜行が確認されました。ロイさん…力をお貸しください。」
里のハンターは百竜夜行の元凶であるモンスターの所に赴いているらしく、現存ハンターはロイだけということになる。何度かは参加したことはあったがそれは彼と連携して行っていたため、矢面で受けるのは初めてだ。
ギルド先遣隊の情報では遠目ではあるが率いているのはリオレウスだろうという。
この里はハンターだけではなく里の人たちも里守として皆戦いに出向く。一人ひとり自分の持ち場を確認し、武具の補充をし、そして声を掛け合っていく。調子はどう?ちゃんと飯食べたのかよ?そんな日常の言葉をお互いに肩を叩き合いながら、握手をしながら戦場で交わしていく。それはまるで生きろと、終わったらまた同じように会話をする日々に一緒に戻ろうと心を託しあっているようにみえた。
彼らは外部から来たロイにでさえ同じように声を掛け受け入れてくれる。自分にも心を託してくれるこのカムラの皆はなんと優しく強く逞しい人達なのか。ハンターとして、仲間として、百竜夜行からこの里を守らなければ。
砦の配置に着き、静かに時を待つ。
遠くから先遣隊のガルクの遠吠えが聞こえた。
合図だ。始まる。迎撃用意。戦闘、開始。
順調に進んでいた。
里守達がアケノシルムを落とし、同じ場所に追い込んでいたオロミドロと共に撃破する。雷鳴を落とすジンオウガには双剣でロイが攻撃し、里守たちに被害が及ばないよう討伐していく。
門も突破される様子もない。第一陣も第二陣もそれぞれ率いていた群れの頭モンスターも狩り、濁流のように押し寄せてきていたモンスター達もいまや水滴のような量だ。
このまま押し切れば終わりは近い。そう思った矢先だった。
耳をつんざく激音。体の奥底まで抉りとるような衝撃が駆け抜ける。
思わず竦んだロイがはっと立て直し、見上げた先に羽の影が場を覆い隠すほどの怪物がそこにいた。
「ヌシ・リオレウス…!?」
怪物の影がチカチカと幾度も瞬く。警告音が頭に響いた。
瞬間、おびただしいほどの火球が降り注ぐ。
直撃だ。守らなくては。
咄嗟に後ろに居る里守が乗る大砲の降下レバーを叩いた。下がる彼女を目の端に移し、翔蟲を飛ばしながら順に近場の里守達のレバーを下げていく。護らなくては、まだ、まだ間に合う。
最後の一人のレバーを叩き、無人のバリスタの陰へと身を隠す。辺りに大量の花火がてんででたらめに爆発したような眩さと衝撃が飛び散った。肌を灼く熱風がわっと吹き抜けると辺りに焼け焦げた臭いが充満する。もうもうと立ち上る黒煙の先、ロイが通過した場所は燃え上がる瓦礫場と化していた。
大丈夫だ、設備が破壊されただけだ。彼らは、里守達は無事だ。そう確認したロイは気を許してしまった。その一瞬だって見逃す怪物じゃないとわかっていたはずなのに。
左肩から背中中腹まで。耐え難い熱さが自分を襲う。あげそうになった悲鳴を気力で噛み殺した。危機を告げる本能のまま捻ってはみたがそうみすみすと防げるものではなかった。
振り返ったその先には袈裟懸けに爪で抉ってきたヌシ・リオレウスが悠然と羽ばたく。燃眼に自分が映るのが見えた気がした。ヌシの口内にまたチカチカと瞬く紅が膨れ上がっていく。翔蟲で逃げ切れるか…それともこのまま、俺は。
瞬間、ガコン、と音が響いた。続いて左後方からヒュッと一直線に飛んでいく物体、ぎゃうっ、と鳴き飛び退る怪物。
後ろから伸びてきた手に腰をぐいっと引っ張られると共に「降下!」と聞き馴染みある…しかし耳慣れない切羽詰まった声が背中越しに響いた。