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    sumitikan

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    sumitikan

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    無惨戦後の実弥の回想、全年齢。

    #鬼滅の刃
    DemonSlayer
    #さねひめ
    goddessOfSpring

    初恋蝶屋敷は久々で、そう言えば何度もここには来ているのに、客としては片手で数えられる回数しか来ていない。実弥は右手の薬指と親指を使って線香を立てた。指のない利き手の不自由を味わいながら手を合わせて南無阿弥陀仏を唱え、大きな男の面影を思い出す。蝶屋敷の主になった姉妹を助けたのは彼で、その姉妹の助けた娘が今の主となっている。

    「風柱様。こちらにどうぞ」

    おさげの少女が声を掛けてきた。

    「俺ァもう風柱じゃねェよ。鬼殺隊は解散したんだァ」

    答えながら、実弥は招かれた先に向かった。蝶屋敷は医師の少女が、元隊士を相手の医業で生計を立てている。診察室ではなく居間に招かれ、立派な座卓に準備された座布団に座るように促された。

    この屋敷は人の気配が薄かった。実弥はもう、鬼殺隊の頃のように己の感覚を研ぎ澄ませて尖ることもなかった。凡々とした暮らしに戸惑いながら、最近やっと少し日々に馴染んで、どこか居心地の悪い夜を味わっていた。

    実弥をそんな気持ちにしたのは、竈門からの手紙だった。彼が綴る日々に混ざり書かれている玄弥との思い出話を読み、それからやっと産屋敷の地所にある、同じ柱だった仲間の墓に参りに行った。
    墓参り先で輝利哉に会い、会釈すると笑顔で言われた。

    「実弥。最近はどうしているの?」
    「は。それなりに……」
    「今度ぜひ産屋敷家に遊びに来てほしい。うちはやっと住所ができた。もう隠れて住まなくても良くなったから、堂々と尋ねておいで。電気と言うものは便利だね。電話も引こうと話している所だよ」
    「……」
    「気が向いたらでいいから、そのうち来てね」

    輝利哉は笑顔で実弥に対し、父の耀哉によく似た声音で、実弥は懐かしいような思いを抱いた。輝利哉は溌溂として、妹たちと一緒に小学校に通っていることを話した。

    「……輝利哉様。岩屋敷はどうしてますか」
    「あそこは、そのままになっているよ。蛇屋敷や恋屋敷、霞屋敷もいずれ片付けることになる。行冥についていた隠も今ならまだいるから、会いに行ってあげてもいいかもね」
    「まだァ?」
    「うん。産屋敷家の持っている会社の方で、あの隠を欲しいという声が幾つかあるんだ。でも本人はかたくなな所があって……行冥の一周忌までは岩屋敷に居たいと言っている。その願いを聞いてあげようと思っているよ」

    悲鳴嶼から文字を教わった。いや、教えたのはあの隠だ。どんな時でも、本に書いてある文字と前後の文章を読んで、その言葉の表す音や意味を丁寧に教えてくれた。良い教師だった。そうあることを悲鳴嶼に頼まれてすぐ請け負った、そういう男だった。

    あの隠に何か礼物を持って行かなければならない気がしていた。いずれ岩屋敷に向かおうと思った。あの隠の名も知らないが、彼は確かに実弥の恩人だった。

    輝利哉の顔をじっと見る。父に似た微笑含みで、実弥を真正面からじっと優しく見上げてくる。首をかしげて聞いて来た。

    「風屋敷を出たいのかい」
    「いえ。まだそこまで考えてはいませんが……」
    「考えるのはゆっくりでいいよ。お金も沢山ある。実弥のしたいことが見つかるまで、いや、良ければずっと居てもいいからね」

    そんなことを輝利哉と話した。誘われた産屋敷家に行く気には、まだなれなかった。そのかわり蝶屋敷に来ているのは、丁度彼岸で、作ったおはぎを誰かと食べるにもその当てがなく、惰性で流れ着いたような気がする。

    ほどなくして、廊下を歩む足音がした。細い気配が盆を持ち、実弥の前に、実弥の作ったおはぎと茶を置いて微笑んだ。

    「もう少しお待ちください。カナヲさんは診察中なんです」
    「ああ。構わねえ」
    「先日は冨岡さんが来られました」
    「ああ」
    「あの人はなんだかいつもより口数が多くて、笑って、明るくなりました。鬼を倒して変わったようだと皆で話しました」
    「ふぅん」
    「今日はもしかしたら後で宇髄さんが来るかもしれません」
    「ああ」

    この娘の姿を見ていると錯覚しそうになる、この屋敷の主の名を。実弥が知っていたのはカナエ、その後でしのぶ。今はカナヲが蝶屋敷の主だった。彼女の今後はこの蝶屋敷で、隊士の後遺症の面倒を見ながらの、終の棲家とするのだろうと何となく思っていた。

    おさげの娘は、中原すみと言ったのだったか。三人とも素朴な顔立ちでくるくるとよく立ち働いた。今もそうしてカナヲの手伝いをするのだろう。

    「他の三人はァ」
    「カナヲさんと診察室です。お待たせしてごめんなさい」
    「いや。俺も来たのが急だったから、準備するどころじゃなかっただろォ。それで冨岡はなんて言ってたァ?」
    「普段の暮らしについてお話しでしたよ。よく宇髄さんと会われるそうです。先日、一緒に温泉に行って、奥さんたちが分け隔てないのにびっくりしたと困っていました」

    この娘とこんな風に話すのは初めてだった。血まみれになって蝶屋敷に来て、長々と傷を縫われているのに倦んで、早くしろォと言った時、鬼はもう退治したでしょとしのぶに返され、その場に膿盆を持って立っていたすみも見ていたはずだ。そんな事を蝶屋敷で繰り返していたから、実弥がどんな男かを知っている筈だった。

    血鬼術に掛けられた後遺症で、日向で呆然と過ごすしかなかった様も、血が足りなくてふらつきながら悪態をつく、格好悪くて粗暴な実弥を蝶屋敷の娘たちは知っていた。

    「この頃は近所の人も診察に来るようになって、この前はコレラの子を診て欲しいと頼まれて、それでカナヲさんが専門外の勉強をするようになってきました」
    「専門ねェ、確かになァ。鬼殺隊は切った張ったの荒事ばかりだったから、外科の先生だって話かァ。今度やるのは何になるんだァ?」
    「内科の勉強をするそうです」
    「はァ」
    「赤痢やチフスを診れるようにするそうです」
    「はァ」

    茶を飲む。蝶屋敷で何度も喫んできた味を、初めてうまいと思った。いつもと変わらない淹れ方をしているはずで、それはつまり実弥の方が変わったからだ。鬼を倒して掴んだ明日を生きている実感はまだなかった。わかるのは緊張の糸が切れていることだけだった。

    鬼殺隊を解散する。今まで一つに纏まっていた組織を解体する時、様々な別れがある。風屋敷の隠に今後どうするのか聞いてみたが、返ってきたのは沈黙だけで、逆に困った。そういえば彼の名も知らないことに今更気付いて、戸惑った。

    自分の身の回りの事も何も知らずとも良かったこと。己の全てを鬼殺の為に捧げ切って生還し、身の回りのことをする隠の名も聞かなかったのがまずく思えた。世話をして貰ったら感謝することくらい知っていて、今まで隠に感謝の一言も言わなかった。鬼殺の道に入った時に人の常識が二の次になり、それでここまで来てしまっていた。

    蝶屋敷に来たのも自分を取り戻すための一つの手続きで、そのことに実弥は戸惑っていた。うまく行く気がしなかった。

    「中原さんはァ、これからも蝶屋敷にいるのかァ」
    「はい」
    「でもよォ、あと数年もしたら結婚する年頃だろォ。どうすんだァ?産屋敷家が放っておくとは思えねェがァ」

    実弥の言葉を聞いてすみは笑った。

    「蝶屋敷でずっと勤めてもいいと言う人の所に行きます」
    「そんなんでいいのかァ?」
    「はい。不死川さんはこれからどうなさいますか?」

    すみが笑顔で聞いてくる。まさに、そこに実弥は困っていた。鬼殺を手放し、荒事から引き離されて、何も手につかない無趣味の野人がそこにいるだけになった。こういう時、あの目の見えない石仏の、長火鉢の側で清い顔をしていた姿が思われた。あの男なら何かの答えを持っていたと思う。

    実弥が困惑したのを見て、すみは話題を変えた。

    「産屋敷家の御館様が菩提を弔うのによいお香を送ってくださったので、皆で仏壇に手向ける度によい香りがします。それが私は嬉しいんです。しのぶさんも、カナエさんも喜んでくれていると言う気がします」
    「そうかァ」
    「不死川さんは隊士になってから、蝶屋敷によく来ましたね。血まみれになって運び込まれてきて、もう助からないと何度思ったか知れません」
    「そんな心配させてたのかァ。済まねェな。俺は鬼殺にだけ向き合ってたからァ。不愛想で嫌な奴だったろォ」
    「そんなことはありません。一生懸命、皆を助けるために前に出たから、傷を沢山負うのだとカナエさんもしのぶさんも言っていました。不死川さんの傷は、人助けをした証です。皆を守った名誉の負傷だと思います」

    そんなことを真正面から言われ、照れてすみから視線を外した。あの二人の女の柱が、自分の事をそんな風に教えていたとは。不愛想で殺気立つままに行動している自覚があったから、予想外の評価だった。


    実弥の捧げた線香の香りが居間に漂ってきていた。蝶屋敷の庭に萩が見え、風鈴が晩夏に涼しい音を微かに立てた。実弥は左手に楊枝を持って、自分で作ったおはぎを切った。そのくらいなら慣れて来ていた。

    のんびり食べて、何度作って食べても亡き母の作ってくれた味にならない。男の武骨な手で作るからだろうか。家の隠にも二つばかりやって来た。なんだか感激しているようだった。

    緊張の糸が切れ、人との関わり方が変わって戸惑っていた。関わった人の数も一晩でごっそりと少なくなった。冨岡とは偶に会い、なんだか時候の挨拶をして、他に話すような事柄などないから、うなぎを食べに行ったり、牛皿だったり、何だかんだと食べていた。箸の使い方が会う度に上達していた。

    「遅いですね」
    「そうかァ?」
    「ちょっと私、見てきます」

    そう言って、すみが立って居間を出て廊下を右に折れて行った。そちらに診察室があるのだろう。実弥は楊枝で切った残りのおはぎを全部食べた。

    静かな家だった。蝶屋敷に怪我人が来なくなったのは柱稽古の頃からで、その後の最後の決戦で一気に怪我人が押し寄せた。その波も引いてしまうと、がらんとした中に、広い家の佇まいがただ静かに、線香の香りがふくよかだった。

    一緒におはぎを食べようと言う相手がまだ来ない。実弥は席を立って、すみが先ほど向かった廊下を右に折れて歩いて行った。歩いて程なく見覚えのある廊下になった。

    鬼殺隊士の頃からよく見慣れた辺りに足を踏み入れた時、荒々しい声が聞こえた。

    「おう!姉ちゃんの薬が効かねえと言ってるんだよ!!」

    大声に唱和する恫喝の声も聞いた。どうやら、質の悪いのが何人か、患者のふりをして場所代を奪いに来ている。カナヲは上弦の弐を倒したほどの腕前だ。何を手間取っているのかと、実弥は診察室の扉を開けた。

    「何やってんだァ。てめえらァ」

    診察室をひと睨みする。前に来た時と変わっていなかった。きよ、すみ、なほが怯えて隅に固まって、数人いる男の一人が泣き顔の葵を両手に抱えるようにしていた。カナヲはそれを前に何も出来ずにいるようだった。

    青褪めた少女は困った顔をしていた。こうした荒事は得意ではないのは分かるが、このままではこの先やっていけない。

    「……呼吸の使い手は、その手に枝一本持っているだけで一般人を凌駕するだろうがァ。人を待たせるのもいい加減にしやがれェ、栗花落」

    実弥の言葉が終わるが早いか、カナヲは動いて葵を助け出していた。すみ達のいる所に葵を下ろし、男たちに向き直った。あまりに素早くて何が起きたか、彼らは分かっていなかった。

    「診察は終わりです。お帰り下さい」

    はじめてカナヲが声を出した。艶のあるはっきりとした、有無を言わせない声だった。実弥は診察室の中に入って、戸を開け放していた。手伝う気はなかった。そうしなくてはならないような時期はとうに過ぎていた。

    カナヲは細身の娘なのに、彼女が一歩前に出ると、この診察室から男たちは出口に下がった。そうした理由が本人たちにもよく分からないと言う顔をしていた。女から威圧されたのは初めてで戸惑いながら、敵う相手ではない事だけが分かっている。

    驚き惑いながら、やくざ者たちは診察室を出て行った。カナヲが彼らを見送る視線が定まらず、あやふやだ。ほとんど見えなくなったことは聞いていた。やくざが玄関を出て行った様子を聞いて、女の子たちがわっと泣き出した。女が泣くのを聞いて実弥は早々に診察室を逃げ出した。

    廊下を元の居間に戻りながら、やくざ者達が来た理由を思い浮かべる。隠がいなくなり、腰に刀を差した鬼殺隊士も出入りしなくなった。女所帯を甘く見て、地元のやくざが目を付けた。そんな所だ。

    居間に戻って、冷めた茶を飲んだ。部屋の中は仏間から漂う線香の香りがまだ色濃く残っていた。女だけの家の中に訪問してきて、放っておかれていた。

    女の事は得意ではなかった。女は、粂野匡近に妓楼に連れて行かれた先で覚えた。優しく抱かれて導かれ、男女のことを教わった。少し気に入っていたあの妓女がどうしているか、年季は明けたか。まだいるか。いるとしても、差し向かいで飲むくらいのことで、抱きたいと言う気持ちはなかった。

    女と言えば、前に娘を買った事がある。鬼殺の帰り道で悲鳴嶼が下取りしてくれた。娘は元は隠をしていた夫婦の所にすぐ貰われて行った。娘は義理の親と共に年賀の挨拶に毎年晴れ着で、角樽の酒を持って、義理堅かった。来られる度に面映ゆい思いがした。これが蝶屋敷ならもっとうまくやったのだろうと胡蝶姉妹を思ってしまう。

    胡蝶カナエのことを知ったのは隊士になって程なくしてのことだった。女神のような女の柱がいると言う噂だった。強く美しい女の姿を蝶屋敷で見たのは一般隊士の時で、鬼の攻撃で弾けたようになった胸肌の傷を消毒して縫われたのが始まりだった。

    蝶屋敷でくるくる働く女の子たちは皆カナエが拾ったのだと聞いて、変わった女だと思った。彼女は医師として振る舞い、血鬼術に掛かり己を喪失した隊士の面倒をよく見ていた。そこに粂野匡近の顔と、怒りん坊のしのぶの顔を足せば、柱になる前の実弥の暮らしの半分ほどの蝶屋敷の場面になる。鬼殺で送る青春だったと今は分かっていた。その頃を知っている者は実弥一人だけになってしまい、蝶屋敷に来ても語る相手もいなかった。

    しのぶを思う。姉が死んでから彼女は変わった。ほんの十四で蝶屋敷の主になり、姉の遺志をそのまま継いで、まるきり医者の行いをしていた。はじめて蝶屋敷の仏壇に焼香に行き、悲しんでいる筈なのに、どこか微笑含みの少女にかけた言葉は拙いものだった。

    「元気かァ」

    他に言いようがなかった。お館様へ対する敬語と態度は、しのぶへ対して不適当だと感じていた。それ以外に実弥にあるのは、粗暴で殺気立った鬼殺の剣士ではない自分とは何かと言えば、まともな気遣いすらろくに出ない不器用な言葉しかない。

    しのぶは微笑んだ。苦笑だった、姉に似た顔立ちを小作りに、白い顔が花のようだった。姉の羽織の血抜きも済んで、それを身に付けている。

    「……ええ、元気です」

    カナエが死んでから、幾度となくそんなやり取りをした。その後に、風屋敷に持ち帰る傷薬や包帯や服用する薬についての事務的な話をした。

    たまに青白い顔色のこともあったが、返事はいつも決まっていて、姉によく似た微笑を浮かべていた。けれどカナエと違っていたのは、多分しのぶは心の底でとても怒っていた。姉の生きている頃はよく怒った口調でいた。怒りと悲しさが、しのぶを優しく変えていた。

    しのぶが怒りん坊だった頃、カナエはよく無邪気に微笑んでいた。一般隊士の階級分けも気にしない隔てのない優しい態度に、崇拝が彼女を取り巻いていた。マリア観音のようだという話を聞いた。マリアが何か実弥は知らない。外国の女神になぞらえるほど、カナエはできた美しい女だと言いたいのだろうと察した。確かに、あれほど強く美しい女を他に知らない。

    カナエを思うと、実弥は花を見たくなる。庭の萩を見た。萩と言うよりは春に満開に咲く桜が似合い、命が短かい。鬼殺隊士の頃は捨てていた琴線に触れる心の爪先が、胸の中に哀しい音を立てていた。

    実弥は、自分の気持ちがここに来てやっと分かった。大怪我から回復して風屋敷の中に呆然としていられず、人がましく柱の墓を見舞い、蝶屋敷に彼岸のおはぎを持って来る。誰かと一緒に悼みたかった。輝利哉はその誘いを実弥にした。冨岡は、他にそうする相手がいた。

    「お待たせしました、不死川さん」

    そう言って、すみが部屋に入ってきた。後にカナヲが続いていた。どこか緊張した顔でいたのは、先ほどの診察室でのことがあるからだろう。

    「そんな顔すんなァ。俺ァただ、思い出話をしに来ただけだァ」


    やって来た宇髄が実弥を見て「辛気臭い顔してんなあ」と評したのには納得がある。鬼殺をしていた頃の自分は、殺伐さが派手に見えていただろう。全て終われば、殺伐さも用が無くなる。

    「つまらん男になったな。お前、もっと派手にやれねえ?」
    「うるせェ。俺はこれでいいんだァ」

    宇髄の手土産は饅頭だった。まず仏壇に供え、また皆で鈴を鳴らした。宇髄が線香を捧げた。ここの線香の香りは産屋敷家でも気を使っているのが分かる優しさだった。

    実弥は墓に香華を手向けたことを、玄弥がそちらに行き、不甲斐ない兄ちゃんですまねえと心の中で謝ったのを思い出していた。
    玄弥のことを悔いて悔いて仕方なかった。実弥の強情と玄弥の強情がぶつかり合って和解できずに、心を通わせることが出来たのは戦いのほんの一瞬の間のことだった。

    玄弥は女を知ってただろうか。悲鳴嶼さんの所でうまく知っていてくれていたなら、ああ、あの男は疎かった。知っているこの俺が一緒に連れて行ってやれば良かったのに。

    情けない。悔いても悔いても取り戻せない。弟を奪った鬼をこの手で倒した実感と、あの時に見た夢に、玄弥は皆と一緒にいるのが分かっている。そこは不思議な安堵があった。

    居間に戻り、カナエとしのぶの話をした。実弥は二人のことをそれほどよく知ってはいないが、柱の中では一番あの二人に体を繕われていると宇髄がからかいぎみに言って来た。カナエとしのぶの話をする宇髄と実弥を見て、カナヲがほっと嬉しそうな顔をしていた。

    甘露寺のことを話した。普通の感性の女が鬼殺隊に付いて来れたのが不思議だと宇髄は感心していた。カナヲがぽつりと、彼女のことをお姉さんの一人のように好きだったと話した。

    甘露寺の死に様の話になった。伊黒の羽織に包まれて、伊黒に抱かれてこと切れていた。伊黒も彼女を抱いて亡くなった。二人が両想いであることは明らかで、生前よく親交があったのは皆知っていた。

    伊黒について話した。鬼の虜に生まれ付くという変わった生い立ちを苦にしていた、彼のことを宇髄は結構気に入っていた。実弥も彼といるのは過ごしやすくて、共に過ごすのも気楽な間柄だった。

    時透の討ち死にについて、実弥が物語った。恐らく一番先に上弦の壱の元に辿り着いていて、戦って死ぬ気でいた。上弦の壱は実弥の腕では互角には渡り合えずに、あやうく斬り殺される所だった。玄弥も入れて三人ともに死ぬところだったのを、悲鳴嶼が救ったこと。

    「ああ、あの悲鳴嶼って男は俺にはついに分からず仕舞だ。とにかく得体が知れなかった。当たり前の顔して最強の座についていて、裏が見えない男だったな。まさかあいつが死ぬとはね。不死川は岩柱をどう思ってた?」
    「……俺ァあの人には恩があるからァ」

    半ば強いるようにして文字を教えられたことは、今でも恩に感じていた。情を交わした日のことを思い出す、実弥の力など跳ね除けられるのにそうしなかった。振る舞いを許すばかりか、恥ずかしそうに慕う言葉を口にのぼせて。

    竈門からの手紙には悲鳴嶼の過去も書いてあった。宇髄はそれを読んでいない。話して聞かせてやると、納得したような顔をしていた。

    「ああ、からっぽになった仏の座にお館様がいたわけか。凄い忠誠心だと思っていたけど、元は寺だろ。どういう訳か分からなかった。あれは元は信仰だったのか。なるほど……」
    「俺ァあの人に子供扱いされててよォ。優しいけどくすぐったくてェ。お前くらいじゃねェか、まともな大人扱いされてたのはァ」
    「お前、くすぐったいくらいで済ませたの?」
    「ええ?」
    「あの風柱が怒らないのは珍しい」
    「……そんなに俺は怒ってたかァ?」

    そう聞くと場の全員が頷いたので、きまりが悪かった。宇髄が笑い、カナヲも微笑んだ。実弥のおはぎは皆の腹に収まって、まんじゅうを食べた。思い出話を沢山にした。

    カナヲが少しずつ自分の思い出を話した。カナエとしのぶの姉妹は、産屋敷家の助けを得て医術開業試験を通った。カナヲは同じ姉妹として扱われたいという憧れがもとで勉強して試験を通った。それと同じようにして、藤襲山の試練も通過した。

    それについて聞きながら、まるきり遠い世界の話を聞くような気がした。胡蝶姉妹と不死川兄弟では元の出来が違うと感じられた。蝶屋敷の女同士の連帯については全く他人事だった。蝶屋敷では患者として扱われていて、彼らと客として対等になれたのは、カナエが死んではじめて蝶屋敷の弔問客になったのが始まりだった。

    カナエのことを思うと、匡近も同時に思い出す。自分たちは蝶屋敷の常連だった。主に実弥に付き合って匡近がついて来て、なんだかんだと待合室や担架の上で言い合いをした。

    怪我の治る間もなく次の怪我をして、無精して抜糸も自分の手でやって、そのせいで血が滲むのを軟膏を塗って誤魔化した。蝶屋敷の薬はよく効いた。

    あまり頻繁に顔を出すから、しのぶが言った。「姉さんに会いたくて怪我をしてるの?」疑り深い目に、目を丸くして見返して「はァ?」と言い、匡近が横で噴き出した。「違う、違う。実弥は自分を守るのに無精なだけで、そこを直せと俺は言ってて……」そんな光景が蝶屋敷には確かにあった。しのぶは匡近の言う事を容易に信じようとしなかった。カナエの美しい事は妹の目にも余所目にも確かな事だった。彼女は女神のように優しかった。惚れたとしのぶが判断したのを覆すのに匡近は骨を折り、実弥は憮然としていた。そこに「あら、楽しそう。何の話をしているの?姉さんも仲間に入れて」とカナエが来る。笑顔が優しそうだった。彼女が来ると実弥は何も言えなくなった。いつも藤の香りがしていた。女にしては背が高くて、ふわりとした動きをしていた。

    一度、彼女の盛装を見た事がある。髪を結いあげた振袖袴、緋の端切れの蝶々結び、銀に珊瑚玉の古風なかんざし。眩しいものを見る思いがした。切なくて焦れたような、言葉にならない思いがあった。あの時は自分はもう柱になって、その場に確か悲鳴嶼もいた。彼はカナエの懐の匂い袋について何か言い、帰り道に予想外のことを聞いて来た。

    「妻を持とうと思ったことは?」

    あの頃の実弥の頭の中は鬼殺だけで一杯だった。いや、親兄弟が死んでからつい最近、鬼の首魁を倒すまで、実弥の頭の中は常にそうだった。偶に悲鳴嶼に情をぶつけて、そういう気を許した相手から予想外のことを言われて戸惑った。妻も何も、鬼殺で一生を終える気でいて、家庭を持つ気は全くなかった。

    「俺ァいいです。弟が多分、所帯を持つと思うからァ」

    とんちんかんな返事をした。悲鳴嶼はそれだけ聞いて頷いて、見えない目でじっと実弥を見つめていた。あの唐突な質問が何だったのか、蝶屋敷の帰り道の事だった。カナエの匂い袋がいつもと違う配合であることに気が付くなんて、盲人は鋭いなと思った。その日は一緒に屋台で温かい蕎麦を手繰った。

    悲鳴嶼と情を通じていたことは、彼が本当の石仏になってしまった今となっては、誰に言う事が出来る。カナエの美しさを悲鳴嶼は知らず、己の手で守った蝶屋敷の主の生存と成長を喜び、その死を悲しみ。彼は常に超然としていて、それが宇髄の目からは不可解だった。悲鳴嶼は全ての隊士が鬼殺に散るのを仏の視座から見ていたと思う。そして、それは己の命に対しても同じだったのではないだろうか。彼の上から目線の物言いが癪に障らなかったのは、それが理由の一つだった。

    実弥は宇髄と蝶屋敷を辞した。帰り道、宇髄は何か持て余すようにして歩きながら聞いて来た。

    「お前さ」
    「ああ」
    「なんで悲鳴嶼さんに懐いたの?」
    「……柱になったばかりの頃ォ、半年かけて礼儀から叩き直されて、それからだァ。怒れなくなったァ」
    「ああ、アレね。俺も怒ったな、お前が柱になった時の。アレからか、悲鳴嶼さんに敬語使うようになったのは」
    「ああ」
    「あの頃はカナエもいたな。綺麗な娘だった」
    「……」
    「そういやお前、あんまり妓楼にも行かなかったよな……いや、別に調べた訳じゃないけど、分かるんだよ。元忍びだから。と言って恋人を作るって感じでもないし。隠相手か?」
    「そういうんじゃねえよォ、俺はよォ」
    「冨岡は分かりやすいが、不死川は隠す質か?」
    「あいつとそういう話はしねェよォ。会って飯食って……宇髄よォ、お前なんだって藪から棒にそんなこと聞きたがるんだァ?」
    「見合いがあるんだ」

    唐突に言われて、何のことか分からなかった。風が土埃を巻き上げた。

    「お前と冨岡に所帯を持たせようとお館様は考えている。家があれば心が休まるだろうと言うお心遣いだ。煉獄からそれとなく伝えるよう言われてて。お前、受けるか?」
    「……わからねェ」
    「女遊びするなら今のうちに遊んでおけよ、って忠告なんだが。女に興味ないのかよ?」
    「今はそういう気持ちじゃねェんだ。放っておけよォ」


    岩屋敷で隠が応対してくれた。この恩ある隠への手土産など思いつくものもなく、実弥が頭を深く下げたのを受け、その隠はひどく戸惑い、顔を上げてくれるように頼み込むのが、悲鳴嶼の態度を想起させた。

    悲鳴嶼の部屋に白木の位牌と線香立てが真新しい白木の卓上にあって、線香の香りが蝶屋敷とは違って清々しかった。

    隠と悲鳴嶼の話をした。遺物は大きな生活用具がそれだった。私物は極端に少なく、日常使いの数珠がいくつかあった。彼は手持ち無沙汰な時はよく隠に何かの本を読んでくれとせがみ、遠野物語はお気に入りの一冊だった。たまに実弥がいた頃の話をして、楽しかったと言っていた。

    玄弥についても隠は話した。はじめ悲鳴嶼の任務の帰りに付いて来たのを受け入れて、戸惑いながら相手をした。あの通りの癇癪ですから、と言われて実弥も苦笑した。悲鳴嶼は明らかに玄弥に対して隔意があったが、玄弥はそこを踏み越えて親しんだ。

    「あいつ、恐いもの知らずな所があるからなァ」
    「それは御兄弟でよく似ておいでですね」
    「はァ?」
    「鬼でも柱相手でも物怖じしない所が、よく似ておいでですよ」

    改めてはっきり言われて、嬉しさがあった。兄弟で鬼を倒したことを、あちらで玄弥が誇りにしているのが分かっていた。

    悲鳴嶼は子供に対して隔意があったが、玄弥を許すのは早かった。面倒をよく見て、優しく、ものを教えるのが下手ながら導こうと懸命だった。一緒に滝に打たれ、一緒に猫を弄って笑った。毎日のことを隠はよく見ていた。

    鬼殺を終えて夜に戻る玄弥の様子がおかしいことが増えているのを隠は見ていた。体は普通なのに衣類がぼろぼろで、暗いからよく分からなかったが、目の色も違っていたのを彼は不審がっていた。こうした玄弥の様子について悲鳴嶼は何も言わなかったと言う。実弥も何も言わないことにした。どういうことか竈門の手紙から分かっていた。玄弥の鬼食いを、親しく付き合いのあった隠に言う事でもないだろう。この隠には玄弥の闘死を人として悲しんで欲しかった。

    玄弥は岩屋敷でこの隠と悲鳴嶼と、物を教わって幸せに笑って過ごした。あの岩魚を玄弥も食べ、悲鳴嶼と膳を囲んだ。隠は玄弥に写経の指導をしていた。実弥は形見に玄弥の写経を貰い受けた。よく書けていた。

    岩屋敷の実弥が使っていた部屋に行くと、前に読みかけた和歌集がまだしおりと共に置いてあった。それと悲鳴嶼の数珠を貰うことにした。実弥はこの日は岩屋敷に泊り、別に夢も見なかった。夜に寝ることに未だに慣れない思いがして、そわそわした夜だった。

    朝に山を下りながら、悲鳴嶼に抱いた情を思っていた。岩屋敷の長火鉢の側がぽっかりと空しくなって、あの日抱いた熱い劣情が遠くに行った。

    たびたび彼から誘われて、世間から見えない所で体温を分け合う暇のひと時に、どんな思いで実弥の前に体を開いた。いつも涙に濡れてぐしゃぐしゃで、悲鳴嶼に抱いていた情を恋と呼ぶ気がしなかった。恋はもっと一途なものだと伊黒が見せた。恋の訪れを実弥は知らなかった。

    悲鳴嶼の事でひとつ謎があった。いつか彼が問いかけた「妻を持とうと思ったことは?」と。まるで妻を持てと勧めているように聞こえる。なぜ、あの時に。実弥と情を共にするのだから、普通は妻を持つのを嫌がるのではないのだろうか。

    嫉妬を悲鳴嶼は知らなかったと実弥は思う。そういう所が浮世離れした男だった。その彼が実弥に妻を持たないかと聞いた。松の中を帰りながら、懐に弟の写経と情人の数珠を温め、物思いが深かった。

    盛装のカナエを見た後に言われた。いつもより優しい口調で嬉しそうだった。子供を見る目で俺を見るのかと思って、実弥は少し腹の底で拗ねていた。あの後に続けて悲鳴嶼は何か言っていた。

    「妻を持とうと思ったことは?」
    「俺ァいいです。弟が多分、所帯を持つと思うからァ」
    「藤のいい香りが、桜のように微かだったな。梅もまだだ。桜はもっと先になるが……」
    「あそこはいつも藤の匂いがするでしょォ」

    香りはカナエのことを言っていた。妻の話題の後で藤の香りの、カナエを妻に持てばどうかと実弥に暗に言っていた。あの時は少しも気が付かなかった。けれど何故そんなことを悲鳴嶼が言ったのか。

    実弥は思い返した。あの日、実弥は蝶屋敷で盛装のカナエを見ていた。大輪の花の振袖に緋の袴で、髪を上げていてうなじが見えていたのに胸がどきどきした。袴と同じ緋の布で髪を留め、銀と珊瑚の簪をして。隊士としてではない用件で産屋敷家から帰った姿で、実弥にいつもの薬を渡そうとして何か話した気がするが、上の空だった。

    悲鳴嶼に呼ばれて彼を見て、またカナエを見つめた。この美しい女の前に醜い傷跡を晒して悪態をつき、荒ぶっていたのかと思った。多分その時だ、カナエに抱いていた好感を悲鳴嶼は鋭く察し、帰りがけに妻にしろと実弥に言った。

    「ったく、馬鹿だァ」

    思わず呟いていた。悲鳴嶼の俗な発想、それに答えたあさっての自分の返事も、どちらも馬鹿だと実弥は思った。カナエのことは、まるで空に淡雪と溶けていくような憧れだった。もっと何か話せればよかったと思うが、もう行ってしまった。粂野も実弥は失くしていた。弟も悲鳴嶼も仏に去った。残っているのは自分自身と、思い出くらいのものだった。

    カナエへの気持ちを悲鳴嶼に聞けば恋と答えた。自覚する前に消えてしまった、大輪に咲く花の生き生きとした女を見た。強い美しい女で、その手に傷を養われた。実弥は十分報われていた。

    そのことに満足しながら、悲鳴嶼の恋はどこかと気になった。そんな相手がいたのだろうか、実弥以外に。そこは独占していた自覚があった。悲鳴嶼と重ねた逢瀬を思い返し、カナエに恋した自分の気持ちが不実だろうか。それを悲鳴嶼が許さなければ妻にしろ等と、どうして彼の口から出てくるのか。

    悲鳴嶼の中には嫉妬もなかった。実弥を好きなのは本当だ。さもなければ、鬼殺隊最強の男があんな真似を許すはずがない。実弥を好きで、好きな実弥の恋を応援するのが悲鳴嶼の心なら、清くて可憐だと実弥は思った。大きな男の初恋を摘み取って、いじらしかった。

    風屋敷に戻ったのは夕刻だった。遺品をそれぞれ紙に包んで箪笥に仕舞った。夕食の席で実弥は隠に話しかけた。

    「岩屋敷の隠は一年喪に服すんだとォ」
    「……」
    「あの男は引く手数多って話だがァ。お前もそういう話があるなら、そっちィ行っていいからなァ」
    「はい。ですがまだ、暫くは風屋敷のお世話になります」

    隠は行儀よくお櫃の側に頷いた。彼がここで実弥の世話を焼く理由について、はっきりと分かっていた。彼は実弥に女がないのを心配して離れなかった。

    「暫くか。どのくらい掛かると思う?」
    「は……」
    「まぁ、そこまで手前に迷惑を掛ける気はねェよ」

    翌朝、実弥は爽籟を呼んだ。久々の要件で嬉しそうな鎹鴉を産屋敷家に飛ばした。そういえば絶佳はどうしているだろうか。鎹鴉の巣のある山に帰ったのだろうか。

    晴れ着は正月用ばかり枚数を重ね、この季節に丁度いいものを見繕うのに手こずっていると、爽籟が戻ってきた。

    「サネミ サネミ オヤカタサマ 待ッテルッテ!」
    「おう、分かった。ご苦労様」

    爽籟の案内で産屋敷家に行く。住所の話をしても鴉は分からず、産屋敷家に行くなら自分も行くというだけのことだった。

    産屋敷家は山の中に迷い家のように突如現れる。そういう所は前と変わっていなかった。まだ無惨と戦わなくてはならない場合に備えての地理だというのは分かっていた。その家の門の側に、真新しい電柱が立っていた。

    門に入る。以前は隠があちこちにいたが、雇人がいた。実弥の来るのを見て腰を低くするなら、元は隠のようだった。

    「風柱様。ようこそ」
    「柱はやめたァ。テメェの名はァ?」

    実弥が聞くと、その雇人はひどく驚いた顔をした。名を聞き、家の中に案内される。五つ子の妹の一人が、式台の所で実弥を待っていた。

    「どうぞ、いらっしゃいませ。不死川様」
    「お久しぶりです。失礼ですが、お嬢様の名は」
    「くいなです。輝利哉が奥で待っています」
    「はい。くいな様、今後ともよろしくお願いします」

    実弥が答えた言葉に、くいなは少し表情を動かしたけれど、それ以上の言葉を発することはなかった。鬼殺隊は解散し、産屋敷家も変わって行く。家の作りは元の産屋敷家をそっくりそのまま写し取ったかのようだった。初めて来る家なのに、家の中の構造がよく分かった。

    「お館様。風柱……不死川様です」

    くいなは鬼殺隊が終わったことにまだ慣れていないようだった。座して襖を開き、実弥に礼をした。実弥も廊下に正座して、そこで輝利哉に一礼した。

    「実弥、よく来たね」
    「はい」
    「そこだと話しにくいから、こっちに入るといい」

    それで上座の輝利哉の前に座り、一礼し、彼と顔を合わせる。微笑みを浮かべる口元が父親によく似ていた。じっと見合って、輝利哉の目が笑みに細くなった。

    「そうか、天元から話を聞いたんだね」
    「はい」
    「実弥はどう思ってる?」
    「はい。良い話だと思いました」
    「そう」

    輝利哉はじっと実弥の顔の隅々まで見つめた。

    「実弥は誰か、好きな人はいないの?」

    問われて実弥は微かに笑んだ。それについての気持ちを片付けてきたばかりだった。

    「そういう相手はおりません」
    「そう。良ければ、好きな人と幸せになって貰おうと思っていたんだ。いないなら、こちらでこのまま話を進めてもいいのかな?」
    「はい」
    「必ず実弥が幸せになれる人を選ぶからね」
    「はい。よろしくお願いします」
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