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    アンリ

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    アンリ

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    久々に!あんまり進んではないですが…

    #曦澄

    人間曦×人魚澄⑧「なあ藍曦臣、そろそろ霊力も回復してきたから一旦蓮花湖に戻ろうと思ってるんだ」
    あれから三日後、江澄は話を切り出した。確かに様子を見るに全快と言ってもいいだろう。蓮花湖までの道中も問題なさそうに思える。
    「そうかい。いつ出発するのかはもう決めた?」
    「明日にでもいこうかと」
    「では、明日は空けておくよ」
     その翌日、二人は蓮花湖へ向けて出発した。




    「なんだこれは…。一体どうなってる…!?」
    蓮花湖に着くなり思わず江澄が漏らした呻きも仕方ない。湖というだけあって流れの殆どないはずの底には巨大な水流ができ、大量の水鬼で溢れかえっていた。
    「もしかしたら水行淵かも…」
    「水行淵だと!?ここ数十年蓮花湖で水死者など数えても十人もいないぞ!!それに水鬼が出ようものならすぐさま人魚によって討伐されていた!!」
    「ここに暮らす人魚達がいなくなり、水死者が増加した?にしては水鬼の数がいささか多すぎる気もする…」
    そうこうしているうちに水鬼がこちらに気付いた。二人は身構えたが水鬼達は二人を無視し湖の中心へと向かっていく。すると、そこから水柱が立ち何かが現れた。水飛沫が落ち着き、晴れた視界に映ったのは一言で言えば『水』だった。しかし、巨大な鬼のような形をし、その体内には水行淵のような激しい水流が渦を巻き、無数の水鬼が泳ぎ回っている。
    「アイツだ!アイツが仲間を…!」
    「江澄、落ち着いて。あの邪崇が元凶でいいんだね?」
    「あぁ。気を付けろ。道中で言った通りヤツは水鬼や水流を操ってくる」
    邪崇はこちらに顔を向けると手を水につけた。すると、体内から水鬼が泳ぎ出て、こちらに向かって来た。
    「曦臣!水鬼は俺が何とかする!貴方はこれ以上水鬼が増えないようにできるか!?」
    「分かったよ、江澄も気をつけて」
    藍曦臣が言うと同時に江澄は右手を掲げた。
    「三毒!!」
    短く名前を呼ぶと、江澄の手に水が集まってくる。不定形なそれは次第に形を持ち、剣となった。三毒とは恐らく、彼の剣の銘なのだろう。元は水の筈なのにそれは金属質の輝きを放っていた。
    江澄は剣を手にし、矢のように泳ぎだした。水鬼とすれ違う刹那、剣は体を貫き、貫いた箇所から発生した水の刃がそのまま体をバラバラに引き裂く。
    流れるように剣は形を変え、江澄と同じくらいの長さを持つ槍となる。長大なそれをものともせずに横に一閃し、水鬼達を二つに切り裂いていく。細かく旋回しながら剣へと再び姿を変え、水鬼の群れの隙間を縫うように次々と撃破していく様はまるで、舞でも見ているかの様だった。
    思わず見惚れながらも藍曦臣は裂氷を用いた破障音で邪崇と湖面の接続を絶つ。そのまま術で中の水鬼の邪気を払い、邪崇の弱体化を謀るもそう上手くいく訳が無く、邪崇が動きだした。邪崇の形が崩れ、水行淵の様になるとそのまま湖の中へ潜ってしまった。暫しの沈黙の後、湖の中心に巨大な渦が発生する。そして、その中心にあの邪崇が待ち構えているのが見えた。もし、吸い込まれたらいくら水に生きる人魚とはいえ、命が危ないだろう。江澄が水鬼と共に流され始めているのを見て、そちらへと向かう。
    「江澄!こっちへ!」
    水鬼に邪魔されないギリギリまで高度を下げる。チラリと確認した江澄は一度潜り、流れに乗って勢いよく水から跳ね上がった。落ちてくるその身を布越しに抱きとめる。
    「一度撤退しよう。少しの間耐えていて欲しい」
    「別に呼吸自体は陸でもできる。だから、安全圏に退避することを優先してくれればいい」
    激しい水音をあげながら渦を巻く水流の中心、邪崇がいる辺から呪詛が放たれる。朔月を転身させ、簡易的に封印を施した。長期間持つことは無いが一時しのぎには十分な筈。恐らく、あの呪詛が江澄の傷の回復を妨げ、記憶を一時的にうばったのだろう。我ら修士とは異なるものの術を使う為の霊力を持つ彼があそこまで衰弱したのだ。一般の人々が触れたら命が危うい。封じられている内に解決策を練らなければならない。
    だがその前に、江澄を水に戻さなければならない。いくら本人が平気とは言っても心配なことは心配だ。藍曦臣は朔月に霊力を込め、グッと速度をあげた。
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     その日は各々の牀榻で休んだ。
     締め切った帳子の向こう、衝立のさらに向こう側で藍曦臣は眠っている。
     暗闇の中で江澄は何度も寝返りを打った。
     いつかの夜も、藍曦臣が隣にいてくれればいいのに、と思った。せっかく同じ部屋に泊まっているのに、今晩も同じことを思う。
     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
     行儀は悪いが誰かが見ているわけではない。
     牀榻の支柱に頭を預けて耳をすませば、藍曦臣の気配を感じ取れた。
     明日別れれば、清談会が終わるまで会うことは叶わないだろう。藍宗主は多忙を極めるだろうし、そこまでとはいかずとも江宗主としての自分も、常よりは忙しくなる。
     江澄は己の肩を両手で抱きしめた。
     夏の夜だ。寒いわけではない。
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     差し込まれた舌に、自分の舌をからませる。
     いつも翻弄されてばかりだが、今日はそれでは足りない。自然に体が動いていた。
     藍曦臣の腕に力がこもる。
     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
     とん、と背中に壁が触れた。そういえばここは戸口であった。
    「んんっ」
     気を削ぐな、とでも言うように舌を吸われた。
     全身で壁に押し付けられて動けない。
    「ら、藍渙」
    「江澄、あなたに触れたい」
     藍曦臣は返事を待たずに江澄の耳に唇をつけた。耳殻の溝にそって舌が這う。
     江澄が身をすくませても、衣を引っ張っても、彼はやめようとはしない。
     そのうちに舌は首筋を下りて、鎖骨に至る。
     江澄は「待ってくれ」の一言が言えずに歯を食いしばった。
     止めれば止まってくれるだろう。しかし、二度目だ。落胆させるに決まっている。しかし、止めなければ胸を開かれる。そうしたら傷が明らかになる。
     選べなかった。どちらにしても悪い結果にしかならない。
     ところが、藍曦臣は喉元に顔をうめたまま、そこで止まった。
    1437

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    PROGRESS長編曦澄17
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     江澄は目を剥いた。
     視線の先には牀榻に身を起こす、藍曦臣がいた。彼は背中を強打し、一昼夜寝たきりだったのに。
    「何をしている!」
     江澄は鋭い声を飛ばした。ずかずかと房室に入り、傍の小円卓に水差しを置いた。
    「晩吟……」
    「あなたは怪我人なんだぞ、勝手に動くな」
     かくいう江澄もまだ左手を吊ったままだ。負傷した者は他にもいたが、大怪我を負ったのは藍曦臣と江澄だけである。
     魏無羨と藍忘機は、二人を宿の二階から動かさないことを決めた。各世家の総意でもある。
     今も、江澄がただ水を取りに行っただけで、早く戻れと追い立てられた。
    「とりあえず、水を」
     藍曦臣の手が江澄の腕をつかんだ。なにごとかと振り返ると、藍曦臣は涙を浮かべていた。
    「ど、どうした」
    「怪我はありませんでしたか」
    「見ての通りだ。もう左腕も痛みはない」
     江澄は呆れた。どう見ても藍曦臣のほうがひどい怪我だというのに、真っ先に尋ねることがそれか。
    「よかった、あなたをお守りできて」
     藍曦臣は目を細めた。その拍子に目尻から涙が流れ落ちる。
     江澄は眉間にしわを寄せた。
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     だというのに。
     江澄は隣に立つ男を見た。
     藍曦臣は「どこに行きたい」と尋ねた江澄に、ここを希望したのである。
     冬になる前には、と言っていたもののそれは叶わず、藍曦臣の訪問は結局、冬の訪れを待ってからになった。
     猾猿が及ぼした影響は深く、姑蘇の地は冬支度がなかなか終わらなかった。
     それでも季節は移る。冬になってしまえばできることは少ない。宗主としての仕事が一段落すれば、正月までは特別な行事もない。
     そうして、今回、藍曦臣は三日の間、蓮花塢に逗留することになった。
    「あちらに見えるのが涼亭ですね」
    「そうだが」
    「あなたに蓮の実をいただいたのを思い出します」
     江澄に視線を移して、藍曦臣は笑う。
     なにがそんなに楽しいのだろう。江澄はまじまじと見返した。
    「どうしました?」
    「こんな、なにもない湖を見て、そんなに楽しそうにできるのはあなたぐらいだ」
    「そうでしょうか」
     風が吹く。北からの冷たい風が二人の背中をなでる。
    「きっと、あなたと一緒だからですね」
     江澄 1152