ループネタ 仕事がずっと忙しくてイライラしていた。
だからあの時あんなひどいことを、思ってもいないことを口にした。
【小エビちゃんなんかに
出会わなければよかった】
そう口にするととても傷ついた今にも泣きそうな表情をしていた小エビちゃん。
「わかりました」と呟くとそのまま家を飛び出していった。またやっちゃった。思ってもいないのにまたやってしまった。何度目だ?もう分からない。小エビちゃんは何も悪くない。いやでももう少しオレをあまやかしてくれてもいいんじゃない?でも明日には謝ろう。そうしようと思っていると急に視界がぶれ始めた。そしてそのまま意識を失った。
目を覚ますとオレはベッドのうえだった。そのまま横に手を伸ばしても暖かいものはなく、あこれ帰ってこなかったやつだと思いながら当たりを見回すと何か違和感を感じる。なんだろう。何かが違う。ベッドから降りて家の中を歩いてみた。たしかにここは自分の家だ。でもなにかがちがうきがする。スマホを何気なくみて着信履歴を見てみるとどこにも小エビの履歴がなかった。履歴どころが連絡帳にも小エビの名前が見当たらない、なんで?家の中を改めて調べてみると一緒にここで卒業してから5年は暮らしていたはずなのに、小エビのものはなにひとつなかった。オレよりも小さい服も、靴も何もかもなくなっていた。
不安になりジェイドに電話をしてみる。
「小エビちゃんがいない!なにもないの!」
「小エビちゃん。あぁ監督生のことですか?それは当たり前では?」
「だって貴方達仲が悪かったじゃないですか」
「え?」
「それに数年前に監督生さんの結婚式にも行ったでしょう。わすれたのですか?」
「…え?」
小エビちゃんと仲が悪かった?
小エビちゃん 結婚したの?
だってずっと…それこそNRCの時からずっと一緒に…いたじゃんか。なのになんで?昨日まで一緒にいたのになんで?なんでなんで?
仕事も楽にできなくなってアズールに休めって言われた。しばらく来なくていい、来るなって。
ジェイドにもオレの言ってることがめちゃくちゃすぎて分からないってそれからオレは家から出れなくなった。大好きな小エビが消えたこの家。大好きな小エビちゃんが元からいなかったこの家に引きこもった。
しばらくして考えても仕方ないと行動することにした。小エビちゃんに会いたい、会って話をしたい。小エビちゃんにごめんなさいしたい。
その思いでカニちゃんやサバちゃん達に電話して今小エビちゃんが住んでいる場所を教えてもらった。その周辺を歩いていると見つけた。
小エビちゃんと小エビちゃんに抱き抱えられた小さな子供と隣を歩く雌を。
それを目の当たりにしてオレはひざからくずれるしかなかった。
「小エビちゃん」
気がついたら声をかけていた。
とても困った顔で「フロイド先輩」と「お久しぶりですね」とその抱える稚魚の頭を撫でながら。
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「今回、もしかしてフロイド先輩記憶残っちゃってるんですか?」
「え?」
「いつもなら何も覚えてないはずなのに。なんで俺のこと探しちゃったんですか」
「どうしても…謝りたくて…そんなこと思ってないのにあの時!小エビちゃんのあんな顔!もう2度とさせたくなくて!」
「なんで【最後】で失敗しちゃったんだろ。」
「…【最後】?」
「フロイド先輩。実はね俺過去に戻るの今回が初めてじゃないんです」
「え?」
「何度も何度も戻ったんですよ。その度に何かを犠牲にしてね。でもどんなに頑張ってもあの日、フロイド先輩に【出会わなければよかった】って言われてしまうんです。気づかなかったでしょ?俺にはもう味覚がないんです。嗅覚もないし耳も目もあまり良くありません。そこまでしてもあの言葉を聞きたくなかった。聞かなくていい、言われない、言わせないルートがあるはずだと何度も繰り返しました。でもダメだったんです。それで最後にあるものを対価に過去に戻りました。手放したくなかったんですけれど、もう不要だなと思ってしまったので、何だと思いますか?」
「…何だったの…?」
「先輩への【恋心】ですよ」
「…」
「先輩への恋心を対価に俺は過去に戻りました。その結果これです。対価にしてしまった以上俺の中にフロイド先輩への想いは何もありません。ただの先輩です。それもあまりいい印象でないね」
「…っ!そんなの!やだ!!やだよ!小エビちゃん!!!悪かった!オレがわるかったから!お願い!!!オレからはなれないで!!」
「そう言われましても俺にはいま家庭があります。フロイド先輩の事は何も思いませんし、何より、」
【自業自得】でしょ?」
この後泣き崩れたままその場から動けなくなったフロイドを置いて小エビは嫁さんのと子供の元へ帰ってしまう。流石にあれかとアズールに連絡して回収してもらう。
なんやかんやありましてフロイドは海の魔女と邂逅。過去に戻ってやり直したいという願いの対価として人魚の寿命を明け渡す。人魚にはなれるけれど人としての寿命しかない。海の魔女の慈悲である。ただ一つ過去に戻れるのは一度きり。私に会えるのも一度きり。
フロイドは監督生が過去に戻る前の一番初めのあの日に戻り、【出会わなければよかった】ではなく【出会えてよかった】と告げる。そうこの日は二人が想いを告げあった記念日であったのだ。
後日二人は籍を入れたそうだ。
実はアズールとジェイドから早くフロイドをしっかり捕まえてやれ。リーチと名乗れと言われ続けていてちょうど記念日だからプロポーズをしようと思っていたらあの言葉。本当に心から監督生は傷ついていたんです。こんなの嫌だ、嘘だと家から飛び出して雨が降る暗闇の中を走り続けていると影に語りかけられる。お前の願いを叶えてやる。そのかわり心か五感を捧げよと。
監督生は悩む事なく嗅覚を差し出した、味覚を差し出した、視覚を、聴覚を、そして元々の目的に最も必要な恋心までも手放した。
本当は死ぬつもりだったが死んでしまってはフロイドに迷惑がかかると思い、心を捨てて学生時代までさかのぼったのだ。