買い出しでも 買い出しは基本的にいつも一人でいくのだが、荷物が多い日やシンジの食いたいものがあるという日等は二人で行く事もある。今日は原稿に詰まったから気分転換に一緒に行きたいと言うので連れて行くことにした。本当は買い出しの時間すら惜しいのに、すがるような目で見つめられるとつい行くことを承諾してしまうのは、自分がシンジに甘いという証拠なのだろうか。
二人して徒歩十分もかからない近場のスーパーに向かう。
「ねえ、今日の晩御飯のご予定は?」
「今日は……湯豆腐にほうれん草ともやしのナムル、それからアジの塩焼きだ」
「美味しそう、楽しみだな」
「別に特別な料理でもないぞ」
何の変哲もない献立だというのにシンジはうきうきといった様子だった。
「特別であろうとなかろうと僕はいつも辻田さんの料理を楽しみにしているよ。食べれることがとっても幸せ」
にこにことしたシンジにそう言われれば機嫌がよくなる。そんな自分は単純なのだなと内心ため息が出てしまう。まあ俺としてもシンジが俺の作った料理を食べて喜んでいるのを見るのを楽しみにはしているが。
スーパーに着いて籠を持とうとすれば、シンジがカートを持ってきて籠を乗せる。そこまで量を買う予定はないのでカートはいらないかと思ったが、シンジが持ってきてくれたのだからとカートを使うことにした。
「さてとまずは豆腐……」
目当てのものを求め歩き出すとその後ろをカートを押したシンジが続く。
「あ……辻田さん!」
呼び止められて振り向くと菓子コーナーの前でシンジの足が止まっていた。
「どうした?」
「これ欲しいな」
シンジが手に取った箱にはドーナッツの写真に『つくってたべよう!』と書かれていた箱。おそらく子供向けの知育菓子である事は分かった。たまに面白そうだと買う事があるのだ。
「……だめ?」
首をかしげてねだる姿ぐっときてしまうのを悔しく思いながら、シンジの手から菓子を取って籠に入れた。
「へへ、ありがとう」
「とっとと行くぞ」
歩き出すとまたシンジが後ろからついてくる。
「はーい」
顔を見ずとも楽しそうにしているのが声からも分かった。きっとあの知育菓子を作るのに付き合わされるのだろうなと思うと、溜息よりも楽しいかもなと言う感情が先だったことに少しだけ笑った。
買い物を終えて会計を済ませてサッカー台に買ったものを置く。
「こっちに買ったものを入れろ」
「うん」
シンジにエコバッグを渡すと買ったものを入れていく。俺ももう一つのエコバッグを取り出して買ったものを入れる。
「後寄ってく所はある?」
「いや、このまま帰る」
「わかった」
買ったものを入れ終わって、それぞれエコバッグを持つとスーパーから出た。
「息抜きにはなったか?」
帰ればすぐに原稿だからなと言う前に、わかりやすくシンジのテンションが下がっていくのが分かった。
「うう……えっと、もうちょっと遠回りして帰りませんか?」
空いている手を伸ばして同じように俺の空いている手に触れる。そうすればどちらからともなく指を絡めて手のひらがぴったりとくっついて恋人繋ぎとなる。
「いかがですか?」
伺いを立ててくるが、俺が断らないだろうと確信している目をしている。仕方ない。俺が手を繋ぐのが好きだという事はバレているのだから。
「……少しだけだからな」
結局シンジの望む答えを出してしまう。
「うん! ふふ、デートデート」
「ただの買い出しだろ」
「デートだと言ったら些細な事でもデートだとなんだよ」
「そういうものか」
「そうそう」
エコバッグに入った日常の重み、繋がった手のぬくもり、微笑むシンジ。些細なことに幸せを感じながら、少しだけ遠回りして家へと帰っていった。