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    朱さん

    @nathu_ga_chikai

    ぷらいべったーと、ぽいぴくと、名刺メーカーどれが1番使いやすいかなぁと模索中。
    支部に投げる程じゃないやつを投下していく予定。

    ちなみに敬称つけてる理由は3文字にするための苦肉の策

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    朱さん

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    竜ベルのワンドロお題「秘密」より。
    正直、ワンドロお題要素がほぼない。……ほぼない!!

    竜ベルと言いつつ、恵鈴です。竜もベルもでません。

    #竜ベルワンドロ
    dragonBellwether

    秘密の宝箱 胸の奥に、宝箱がある。
     蓋がきゅぅと弧を描いている、絵にかいたような「宝箱」。
     誰にも見せられない、大事な宝箱。



     「好きだよ、鈴さん」

     夏の日差しは和らぐことを知らなくて、髪の下がじんわりと汗ばむ。頬をつたう程ではないことに感謝しながら、エコバッグ片手に歩いている時だった。
    それまで隣を歩いていたのに、急に立ち止まるものだから、数歩離れた所で鈴も立ち止まる。顔と、右肩だけで少し振り返って、立ち止まった彼を見れば、彼は鈴をまっすぐに見ていた。
     そして紡がれた言葉に、鈴の胸がコトリと音を鳴らす。ひとつ深呼吸をすれば、すぐに胸の奥の音はおさまった。

    「ありがとう」

     まっすぐ、真剣に言ってくれる恵に、鈴はいつものように返す。けれど、その返答を彼は望んでいなかったのだろう。ぎゅぅ、と眉間に深い山脈を築いて、咎めるように鈴を見つめてくる。見ていられなくて、視線を少し下げた。
     少しばかり鋭くなった顎から、存外太い首が続く。ぽこりと膨らんだ喉が、三年前とは違うということを示していた。
     三年。そう、三年も、鈴と恵はこんなやり取りをしている。
     三年の間に、鈴は成人したし、恵はあの時の鈴と同じ年になった。鈴より低かった背丈は、鈴が見上げるほどに大きくなったし、顔立ちだってどんどん大人の男の人に近づいている。
     それなのに、ヘーゼルナッツのような黄色を帯びた薄い茶色の瞳と、その瞳にのせられた熱は変わらない。いや、瞳の熱は前よりもどんどん熱くなったような気もするから、本当に変わっていないのは、彼の瞳の色だけかもしれない。

    「鈴さん。僕、本気で……」
    「うん。……ありがとう」

     体をしっかり恵に向ける。そして彼の唇を見ながら、にこりと笑った。先ほどとは違い、今度はきちんと笑えたと思う。
     だというのに、恵は変わらず苦い顔をしていた。ぎり、と歯をかみしめるような音が聞こえてきそうだった。
     鈴の返事が気に入らないという顔。……本当に、自分の言いたいことが伝わっているのかという顔。この三年で何度も見た顔だった。
     ちゃんと伝わってるよ。油断すれば、ころりと口から零れ落ちそうな言葉を、息を吸い込むと同時に飲み込んだ。

    「ねぇ、恵くん」
    「……なに? 鈴さん」

     初めて会った時、既に恵は変声期を終えていたという。けれども、三年前より少し低くて優しい声が、鈴の名前を宝物のように紡いだ。
     あぁ、好きだな。
     胸の奥でまたコトリと音が鳴り、頭の片隅で鈴はぼんやりと思う。
     夏の日差しの中で、白いワイシャツを纏う彼は、絵にかいたような「高校生」だった。

    「学校、楽しい?」

     恵が、少しだけ息を止める。それまでゆるやかに上下していた肩が、止まるのだ。鈴にはすぐわかったけれど、もしかしたら、彼は気づかれていないと思っているかもしれない。

    「うん。……うん」

     詰めた息を押し出しながら、最初は反射のように。そして、二回目はかみしめるように、彼は肯定した。
     そのことが、鈴には嬉しい。

    「毎日の課題が嫌なくらい、かな」
    「ふふ。課題は嫌だよね。友達は? できた?」

     まるで母親のようだ。
     けれども、恵は鈴の問いかけに嫌な顔することなく、変わらずやわらかい声で答えてくれる。

    「去年の持ち上がりだから、顔ぶれは変わらないけどね。でも、体育で合同になるクラスが変わったから、少しだけ違うメンバーともいるようになったよ」
    「クラスが同じだと、そうそう話すメンバーなんて変わらないよね。私もヒロちゃんばっかりだったな」
    「そうなんだ。……ねぇ、鈴さん」
    「なぁに?」

     改めて名前を呼ばれて、鈴は彼の向こうにある青空へ向いていた視線を、彼に戻す。そしてヘーゼルナッツの瞳と目があって、後悔した。
     あぁ、やってしまった。何のために、正面から向き合わないようにしていたのか。
     自分で自分の努力を泡にかえしてしまったことに、いやになる。ともすれば溜息さえあふれてしまいそうだった。

    「好きだよ」

     まっすぐに、貫いてこようとする瞳だった。事実、鈴の胸の奥ではコトコトと音が鳴り続けて仕方ない。
     けれども、そんな様子をおくびにも出さず、鈴はいつものように返す。

    「ありがとう」

     くしゃりと、彼が泣くのを我慢するように笑った。
     離れていた数歩の距離を、詰められる。

    「好きだよ。本当に、何よりも。鈴さんが、好きだよ」
    「うん」
    「僕と、」
    「ダメだよ」

     その先を言われたくなくて、恵の唇に人差し指をあてる。
     素直に黙ってくれた彼を、じぃっと見つめる。いつもならば、そう、いつもならば、彼は途中で視線を外して、折れるようにして頷いてくれるのに。今日ばかりは、それで黙ってくれなかった。
     唇にあてていた手を、恵の手が握る。そろりと、やわく、竜の時に天使Asーー知くんを包むように優しい手つきだった。鈴の手を握り、彼は祈るようにして自分の額に押し当て、瞳を閉じた。

    「ねぇ、僕は。いつまで、待てばいい?」
    「恵くん」

     そんなことを言ってほしいわけじゃない。

    「待てと言われれば、待つよ。君が望むまで、いつまでも。待つのは得意なんだ」
    「恵くん」

     そんな、身を削るように、我慢してほしいわけじゃない。

    「ただ、待ったその先に、何もないのが一番怖いんだ」

     閉じられていた瞳が、開かれる。
     ヘーゼルナッツの瞳が、かすかに揺れていた。三年前の恵の姿が、今の恵に重なる。
     ぎゅ、と胸が締め付けられる。はくり。どうにか、息をしようとして、握られていない手でブラウスの胸元を握りしめた。
     ひどい。
     それだけが頭に浮かんだ。
     そんな風に、そんなことを言うなんて酷い。抱きしめたくてたまらなくなる。私も好きだよ、と今すぐに返したくてたまらない。
     胸の中で箱がガタガタと音を鳴らして揺れている。ブラウスを握る手に力を込めて、鈴はその衝動を耐えた。何かを握って手が痛くなる、なんて経験は初めてだった。

    「恵くん」
    「……なに」

     恵を呼ぶ声は震えていた。鈴自身、それはわかっていた。
     けれども、彼の言葉に何か一矢報いたくて、小さく息を吐いた後、自分から彼を見上げた。

    「恵くんだけが、待っているわけじゃないよ」

     大人気ないひと言だ。可愛げのない、言葉だった。
     それでも、目を丸くして自分を見下ろす恵の姿に、鈴は胸がすく思いがした。

    「鈴さん」
    「ふふ。さ、ヒロちゃんも知くんも待ってる。行こう」
     くるりと踵を返す。
     鈴が上京してから住みだしたアパートは、坂を上った先にあるのだ。恵に背中を向けて、お気に入りの青空色のスカートを揺らして、鈴は坂道をのぼる。
     坂道をのぼる度に、空が近づくような気がして、気づけば鈴は小さく歌を口ずさんでいた。

    「鈴さん!」
    「恵くん、早く」
    「そうじゃなくて! さっきの!」
    「今日は竜の優勝記念なんだから、おいしいのいっぱい作るよ!」
    「それは楽しみだけど、ねぇ!」
    「恵くん」

     くるり。また半回転。
     鈴のすぐ後ろで、彼女の手を取ろうとしていた恵は、その半端な恰好でぴたりと口を閉ざして固まる。
     だるまさんがころんだ、みたい。
     自分の考えに、また楽しくなりながら、鈴は唇の前で人差し指をたてた。
     そしてとどめに二コリと笑えば、恵が諦めるのを鈴は知っている。
     はぁ、と大きく溜息をついて、横に並んだ恵にエコバッグを奪われ、手持ち無沙汰になりながら鈴は口ずさむ。

     きらきら、きらきら。
     あざやかな青空に、白い雲。セミは夏を象徴するかのように、大合唱している。
     そして隣にいるのは、制服姿の恵。

    「鈴さんのごはん、楽しみ」
    「ヒロちゃんも奮発するって言ってたよ」
    「呑みたいだけじゃないの?」
    「恵くんならまだしも、中学生の知くんがいるのに呑めないよ」

     軽やかなやりとりに、少し心踊る。
     鈴の心に合わせるように、歌が思いつく。それらすべてを、口ずさんで音に変えながら、鈴は恵と並んで自宅への道を歩いた。



     胸の中に、宝箱がある。
     きゅぅ、と弧をかいた蓋をした、宝箱。
     誰にも見せられない、大事な宝箱。

     少しだけ蓋が開きかけた宝箱に、また蓋をする。
     いつか、彼にあげることになる宝箱。
     その時が来るまで、彼にも秘密の宝箱だ。
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