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    sb_choc

    @sb_choc

    まほやく/南・東、元主従、元相棒、おさななじみ
    B-PRO/MooNs、カップリング模索中
    A3!/春組、至綴みたいな綴至、オーエイ
    JOJO/2部、JCJ

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    sb_choc

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    帝人がよく泣いてる話です、オタクの部分捏造が多いです。ご注意ください。

    #bプロ
    bpro
    #B-PROJECT
    #MooNs
    #釈村帝人
    theEmperorOfThe釈Village

    号泣★サプライズ ひゅう、と風が強く吹いて足元を抜けていく。帝人の肌の剥き出しになっている部分を乱暴になぞっていき、シャツの裾を少々荒く揺らした。
    午前零時をとうに過ぎた深夜。スタジオを抜けて飛び込んだタクシーに揺られていたせいで外の気温を意識するタイミングがなかったが、ひんやりとしたその風が心地よい。つい先日まで残暑を感じる日差しの強さに嫌気がさしていたというのに、冷たい夜風で一気に季節の移り変わりを感じる。力強い深い緑の街路樹達も、いつの間にか色が移ろい始めていた。
    夏が終わっていくというのは、いつも言い表せない切ない気持ちに駆られる。別段夏という季節に思い入れが深いわけではない。むしろ暑くてジメジメしていて過ごしにくく、身をもって体感する季節感は不快度の高いものが多い。
    しかしながら、夏という季節はどうにもイベント事が多く、浮かれた気分に心が駆け足になるのも特徴だ。レッスン後の水分補給が一段と爽快感を増すし、休日には家でそうめんパーティーで盛り上がるのもまた良い。滑らかでフワフワな氷が作れると評判のかき氷機を百太郎が買ってきた際には、暉が腹痛になるほどおかわりをしてしまい和南から小一時間説教を食らい大惨事、なんてこともあった。何故だか一緒になって龍広まで怒られて正座させられていたのを思い出すと、今でも笑みがこぼれてしまう。メンバー皆で臨んだ夏のバライティ大型特番では、普段はやらない海でのロケで気分はもう夏休み。特に白熱したビーチバレー対決は、ダイコクvsブレイブの笑いあり涙ありの見応えある試合となり、放送日が楽しみでならない。健十だけは日焼けを気にして不満気だったけれど、対照的に休憩時間中に海の家の焼きそばに舌鼓を打っていた倫毘沙は非常に満足げで、誰よりも海ロケを満喫して過ごせただったようだ。
    予想よりも遥かに夏を楽しんでいた。だから少し、季節が去る瞬間は名残惜しくもある。
    静まり返った住宅街の片隅で、帝人は見頃を過ぎてしまって花が疎らになった百日紅の庭木を横目に家路を急いだ。

    今日は帝人にとって特別な日だった。
    日頃から愛を叫んでいる、魔法少女マミリン。帝人の人生を語るには彼女の存在が必要不可欠で、帝人はマミリンに憧れを抱きながら共に並び歩いてきたと言っても過言ではない。尊敬と愛情を注いだ、最愛のアニメキャラクター。その魔法少女マミリンは、この冬めでたくも特別編映画のロードショーが決定したのだ。現在まで地上波アニメと年に数回のファンイベントの展開があったが、映画の全国公開は現在に至るまででもかなり大きなニュースと言えるだろう。彼女の躍進に、帝人は自分の映画出演が決まった時よりも喜びに打ち震えた。
    そう、そのマミリンの、特別な日だった。
    映画の公開が発表されて早数週間。今日はその、映画の情報がたっぷり掲載された月刊アニメ誌『アニマキシム』の発売日前夜。今月号ではこの冬公開の『劇場版魔法少女マミリン~輝くジュエルと魔法の月~』の特集が組まれており、監督や脚本家をはじめとしたスタッフから声優、キャラクターデザイン詳細までかなり豪華な内容が掲載予定となっている。勿論帝人もこのアニメ誌はチェック済み、既に毎月発売日には自宅に配達されるよう予約済みだ。仕事柄チェックする雑誌が多い為サブスク契約していて発売日当日にはタブレットでも確認ができるのだが、やはりデジタル化が進んだこの社会でも「紙」で「推しのアイテム」を手にしするという行為は特別だ。デジタルにはデジタルの良さが。紙には紙の良さがあるのだ。そんな楽しみでならない雑誌の発売日の、前日。
    何が特別なのかというと、実はこのアニメ誌はスペシャルタイアップ店舗というものが存在する。俗に言うアニメグッズの専門店の中でも一部の店でのみ行われているスペシャルタイアップとは、発売日の前日の午後から早売りが開始されどこの誰よりも早く手に入れることができるのだ。
    『絶対に早売りで手に入れてマミリン(雑誌)をこの手で抱きしめたいです!』
    リビングのソファに片足をあげ拳をつきあげながら高らかに宣言し(聞いていたのは百太郎だけだったが)、一生を捧げるかの如く心に誓った筈だった。
    まだまだ外に出れば首筋にじっとりと汗が滲む八月の後半、その宣言が実行するに難しい状況を目の当たりにしたのはその頃だ。週に二度キャスターとして出演している夜のニュース番組が九月から番組編成を変更することになり、帝人の担当する曜日も同じく変更となったのだ。急な変更ではあったが、テレビ局ではこういったスケジュール調整は少なくない。普段の帝人ならば笑顔で承諾し、他の仕事とのスケジュールを組み直す筈だった。
    番組が変更されたその日が、雑誌の発売日でなければ。
    今日は元々MooNsでの仕事が入っており、早朝から県外でのロケの予定だった。朝が早い分帰りは深夜まではかからない。帰りに雑誌を買い、程よく疲れた身体で柔らかなソファにたっぷりと座り込み、お気に入りのコーヒーを傍に雑誌の隅々までじっくり読み込む筈だった。それが、ロケが終わるや否や帝人はトンボ帰りで一人テレビ局に向かい、番組編成変更に伴う打ち合わせと本番放送に臨まなければならなくなったのだ。タイトなタイムスケジュールの所為で、仕事の合間に店舗に寄る余裕はない。翌日には家に届く、ましてや零時を越えればタブレットでも確認できる雑誌をわざわざ人に買いに行ってもらう事は、流石の帝人でも頼めなかった。自分が欲しいものは、自らの足で赴き手にするのが信条だ。帝人はスケジュール表を確認しながら自分に言い聞かせ、泣く泣く、本当に泣きながら早売りの雑誌の入手を諦めたのだった。

    そんな特別な日。特別忙しく、特別悲しい日。
    早朝からの仕事を終えた身体は重く、靴底が地面にへばりつくようで家路へと進む足取りは遅くなる。普段なら自宅マンションの前にタクシーをつけてもらうのだが、流れる車窓を眺めていたら一度は諦めた気持ちが疲れと共にぶり返し、モヤモヤと頭の中で胡座をかいて居座ってくる。沈んだ気持ちではいけない。明日はめでたい映画化の特集なのだからと、気分転換も兼ねて夜道を遠回りして帰る事にしたのだ。
    大通りで降り、ぼんやりと歩く一人の道。見上げると夕方降っていた通り雨の名残なのか、薄ぼんやりと雲がかかったスッキリしない空が広がっていた。

    玄関の扉を開けると、リビングへと続く廊下がパッと明るくなる。同時に目に入るリビングの磨りガラスの扉は暗い。もう午前一時を回る頃だろうか、寝静まるにしては早く思えたが、皆早朝からのロケの疲労で早めに休んだのかもしれない。誰かしらに起きていたら……なんて、僅かに期待を抱いていた分疲労と共に肩にのしかかる重みが増した気がした。
    帝人達はプロのアイドルだ。『体調管理も仕事の内』とバンビ時代から夜叉丸より口を酸っぱくして言われてきている。疲労を翌日に残さないこと、そのために早く休む事は基本中の基本なのだから皆当たり前のことをしただけだ。ましてや自分の趣味の事柄で勝手に落ち込んでいる状態は他のメンバーたちに関係のない事、誰が悪いわけでもない。
    革靴を脱ぎ黄色いスリッパに爪先を入れると、低反発の柔らかなクッションが心地よく包み込んでくれた。
    こんな日は早く寝るに限る。さっさと風呂に入りベッドに潜り込んで、朝一番で届いた雑誌を読みながらたっぷりと癒されよう。明日午後からの仕事のスケジュールを反芻し、スタジオの場所を確認しようとポケットに入っていたスマートフォンを引っ張り出す。ロックを解除する前の画面には、通知のアイコンが並んでいた。どうやらJOINでメッセージを受信していたらしい。スタジオからここまでマミリンへの思いに耽っていた所為で気がつかなかった。
    メッセージはMooNs五人で共有しているトークルームに来ているようだ。
    今日の夕食の残り物のお知らせか、はたまた次回ロケのスケジュール調整か、明日の洗濯当番を交代して欲しいという相談か、ジムへのお誘いか……。道筋を立てて先を予想するのは嫌いじゃない、むしろ矛盾なく物事をつなげられると喜びを感じる性分で、あれやこれやと妄想を巡らせるのもその所為かもしれない。ぐるりと思考を一回転させてから、帝人はJOINのアイコンをタップした。

    『モモタス:すまない帝人、みんな考えていることが一緒だったようだ」
    『ひかるん:机の上見てね!』

    予想とは大分かけ離れたメッセージと、的を得ない内容。帝人は他にも受信できていないメッセージがないかと数回スワイプしてみるが、メッセージは表示されている二件だけらしく、今日以前に暉から送られて履歴で残っていたポップなスタンプが上下に揺れるだけだった。すまない、という百太郎からの一文が特に気になる。理由もなく謝られるわけが無いが、謝られるような事も思い浮かばない。腑に落ちない意味深なメッセージに謎は深まるばかり。
    やはりメンバーたちは皆既に自室へ戻って休んでいるようで、リビングへ足を踏み入れるとそこはしんと静まり返っていた。ダウンライトのみを点けると、温かなオレンジがかった光が無機質なリビングをぼんやりと照らす。人がいないリビングはがらんとしていて、普段よりも断然広く見える。暉の言う机というのは、ソファの前に置かれているローテーブルのことだろうか。日中ならば部屋の中でも一番明るい窓の近くの大画面液晶テレビと、五人どころか十人でも余裕で座ることが出来る広々としたソファ。その間にあるシンプルなローテーブル。
    『個人の私物はリビングに置きっぱなしにしないこと』
    五人で共同生活をする上では最低限のルールが必要で、特にリビングは皆で使う頻度が高く散らかりがちになっている。そんな中で和南が中心となり決めたルールのおかげで、リビングは勿論ローテーブルの上も綺麗に片付いて物が無い状態の方が多い。しかし今日はテーブルの上に何やら薄い物体が鎮座しているようだ。
    帝人はダウンライトの光が届き切らない部屋の奥にあるローテーブルをまじまじと見つめながら数歩足を進めたが、五歩目を踏みしめた所でその物体の正体に気が付いた。
    薄くて平らで。
    薄暗い明りでは良く見えなかったがそれはおそらく夢のようにカラフルで。
    告知サイトで何度も何度も目に焼き付けるほどに見つめていたそのイラストが、表紙に一等大きく掲載されている。
    「……ほあぁっ!?」
    それは今日何度も頭の中で思い出していた『劇場版魔法少女マミリン~輝くジュエルと魔法の月~』のキービジュアルイラストが表紙を飾る、本日発売の雑誌『アニマキシム』だった。眼鏡を雑に上げ目を大げさに擦るが、幻ではなかった。見間違えるはずがないマミリンの満面の笑顔に帝人は肩から掛けていたトートバッグを支える手の力が抜けていき、するりと床へ落ちていくのを見送った。今し方まで抱えていた疲労の重みが両の目から流れていく。まさか、喉から手が出る程に求めていたアニメ雑誌が自宅に用意されているなんて。
    思い当たるのは先ほどのメッセージの送り主たちだ。先日から手に入らないことを悔やみに悔やんで転がり泣いていた帝人のことを見兼ねた二人のどちらかが、代わりに購入して来てくれたのだろう。
    嬉しい、そしてありがたすぎる。神よ……!
    帝人は見えない筈の澄み切った青空を想像して、天井を仰いだ。
    そして喜びが抑えきれないとばかりに、リビングから一番近くの百太郎の部屋へと飛び込んでいく。深夜だと言うことを忘れて声を上げる帝人を、百太郎はお疲れ様、と笑って迎え入れた。

    外には下弦の三日月が顔をのぞかせていた、九月三日の夜のこと。
    そして、五分後に帝人は、ローテーブルに置かれた雑誌が四冊あることに気づき、他のメンバーの部屋にも飛び込むことになるだろう。


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