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    はるのぶ

    なにかをかきます

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    はるのぶ

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    薫晃 年末のはなし
    今年もよろしくお願いします

    #薫晃

    混ざりたいほど、愛おしい暇なら来れば、と晃牙くんが言ったので俺はまんまとその言葉の通りに彼の住むアパートへ行った。だって、暇だったし。
    「本当に来た」
     玄関で俺を受け入れていつもと同じに俺のコートをハンガーに掛けながら晃牙くんは笑った。
    「来ていいって言うから」
    「言った。いいよ」
     実家から遠く離れて暮らしている彼はてっきり長期休暇に入ったら帰省するのだと思っていた。だけど今回は年末に仕事が入り、アパートにいる方が現場から近いし何かと便利だからここで年を越すことにしたらしい。
    「蕎麦食べるか?カップ麺だけど」
     小さなワンルームの小さな台所の戸棚から晃牙くんがガサゴソと出してきて、こたつにいる俺に見せる。CMでよく目にする緑色のパッケージを見て、俺はうん、と頷いた。「食べたことない。美味しい?」
    「普通。店のやつの方がうまいと思う」
    「それは…、求める方が悪いんじゃない?」
    「それはそう」
     ケラケラとまた笑った。かなり上機嫌だな。多分今日の撮影がとてもうまく行ったとか、朔間さんに褒められたとかそんな感じの理由だろう。
    「いいことあった?」
    「うん?」
    「すごく機嫌いいなと思って」
    「あ…。ふふ、うん」
    「なに?」
     くすくす、と少しだけ1人で秘密の話をした後のように俺の顔を見て笑う。何か変なことを言っただろうか。「なに、なんかあったっけ?」
    「あった。あった」
     晃牙くんがやかんに水を入れる。火にかけると、こっちと手招きする。その通りに俺は彼の隣に近づいた。
     少しだけ背の低い彼のつむじが見える。じっとやかんを見つめて、そしてぽつりと「せんぱいが」と言った。
    「はかぜせんぱいが、いるから」
     ぺり、とカップ麺の蓋を開けながら彼はそう言った。
    「わっ。あぶね」
     気づいたら彼のことを抱きしめていた。それは確かに、俺の欲しかった言葉だったし、彼の本心からの言葉で。「俺も、ここに来たよかった」
     もし俺が来なかったら、彼は1人で寂しくこれを食べたのだろうか。それともいつもと同じように規則正しい時間に眠ったのだろうか。どこかに自分の気持ちを置いて。
    「ありがとな」
     晃牙くんの俺よりも高い体温の手が俺の背中に回る。ぎゅっと抱きしめて、肩に顔を寄せた。ゆっくり彼の頭を抱くと、その肩口で彼が笑うのがわかった。
    「な、来年もこうしてたい」
     晃牙くんが言わなかったら、俺が同じことを言っていたと思う。まぶたを閉じて、うん、と俺が頷いてのを聞いてから、晃牙くんがやっぱり笑った。
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