かわいいがいっぱい【石歌】石切丸が「かわいい」と言う時、その視線の先には必ず歌仙兼定がいる。
それに引き換え、歌仙の口から石切丸を「かわいい」という声を聞いた事がない。
「うははは! 気の毒だな、石切丸」
隣の一文字則宗がひょいと見上げてくる。
「そんな事を言って、ちっとも気の毒そうな顔に見えないよ? 則宗さん」
「僕から見れば所詮は他人事だ、面白いもんさ。だがお前さんは自分が片恋だってのになぜそう笑っていられる?」
手にした扇子の骨を指でパチパチ弾きながら
「歌仙さんは本当にかわいいからね。私の片恋かどうかなんて関係ないよ」
「随分な余裕じゃないか」
「今いいかな、石切丸」
歌仙が二振りの前に来て胸元をごそごそ
「これをごらん。さっきお小夜にもらった有平糖だ」
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