フリの成人お祝い温い夏の夜風が吹き抜ける。すっかり陽の落ちた庭先は暗く、フリスクは足元に気をつけながらベンチに腰掛けた。白いペンキの塗られたそれは、この家に引っ越してきたばかりの時にアズゴアと一緒に作った物だ。
地上での新しい暮らしのために借りた古い家はこじんまりした二階建て。悪い魔女が住んでいそうな汚れた壁と荒れ放題の庭。外装も内装も全て好きにして良いとオーナーからの許しを得て、トリエルと二人で毎日張り切って素人が出来る範囲のリフォームをした。
剥げたペンキを塗り直し、壁紙を変え、カーテンを選んだ。庭の草を刈り、季節ごとの花を植えた。ちょっとした茂みのようになっている低木の白い花は夏に咲くフリスクのお気に入りだ。星のような形で、甘い香りを漂わせる。暗い中で見ると花が月の明かりを受けて薄ぼんやりと光って見える。すぐそばに星があるようだった。
この家を離れる日が来るなんて、あの頃は考えもしなかった。
フリスクはそっと、カーテンの閉じられた窓を見上げた。明るい音楽と暖かな光が隙間から漏れている。まだまだ、パーティーは盛況なようだ。
今日でフリスクは人間の制度でいうところの「成人」を迎えた。昨日までは禁止だったものも今日からは解禁だなんておかしな気分になる。
これを機に、フリスクはここよりも少し都会の、学生が多い街に居を移すことになった。
少し手狭だけれどセキュリティのしっかりしたマンションはもう契約済みで、引越しは来週の週末に仲間たちが協力してくれる。
お祝いと、お別れ。トリエルや仲間たちが準備してくれたパーティーはそれは賑やかだった。
リビングやキッチンから、あげくにお風呂まで、ところ構わずバルーンや色とりどりのリボンや花が飾られ、朝起きたその瞬間からまるきりお祭り騒ぎだった。
次から次へとオリーブの乗った大きなピザやら、皿いっぱいのホットドッグやら、くり抜いたスイカに盛られたフルーツポンチやらが運ばれて、テーブルはあっという間にいっぱいになった。MTTブランドの高級合成肉の塊でケバブまで始まり、真っ昼間からビールが振る舞われ、歌をうたい、ゲームをした。
陽が落ちてから多少落ち着いたかと思えば、さっき新しくワインのボトルが開けられたようだ。ピアノが調子の良い曲を奏で始め、一際大きなトリエルの笑う声が聞こえる。
フリスクはふふふと小さな声で笑った。主役が抜け出してもわからないくらい、壁の向こうは盛り上がっている。ここを離れる寂しさと、きっと大丈夫というどこかホッとした気持ちで、少しだけ涙が出た。