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    t0mic0x0shi

    トミコです。まほやくのファ右

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    4周年イベストもよかった〜〜!と思いつつ2部からまだ帰ってこれてないので、2部の治療くらいのフィとファです
    ラブしてないです

    #腐向け
    Rot
    #フィガファウ
    Figafau

    【フィファ】光射す部屋の真ん中で光射す部屋の真ん中で

     薄いレースのカーテン越しに窓から差し込む太陽の光。
     それが柔らかく照らす部屋の調度品は、白と赤を基調とし、輝く装飾の色は金。派手なようでいてしかし、価値の確かな品はフィガロ自身の好みからはかけ離れてはいるのだけれど、悪くない趣味だとは感じている。
     その部屋の中央には、ヘッドボードを腰窓に付けるようにして置かれたベッドがあった。
     治療しやすいように普段彼が眠る際に身につけている、外界の全てから自身を守るような寝間着ではなく、ボタンによる前開きの、フィガロが魔法舎にて眠る際に身につけている寝間着にもにたデザインのそれのボタンを全て外し、背中をあらわにするように肩から落とし、フィガロに背を向けるようにして横たわったファウストの背から傷を覆うガーゼを剥がせば、傷よりも先に目に付くのは、彼の左の肩甲骨から肩にかけての黒い百合の紋章だ。
     己の右胸の下にあるそれよりも大きく、まるで誰かの手形がベッタリとついているようにも見える。未だ彼の中で友人という枠で語られる人間のことが頭の中にあるからだろうか。
     その紋章の端に届きそうなほどに広範囲に広がっているのが、ガーゼによって覆われていた傷だ。一時は致命傷であったそれは、未だ軽傷と呼べるものではないものの命を脅かすほどのものではなくなっている。おそらくまだ、じくじくと痛んでいるはずだ。
     攻撃は、鋭どく一閃する光線だったと聞いていた。それに貫かれるのではなく、肉を抉りとりながら背中の肉を焼かれたのだと。そこまでに留めたのは、直撃ではなく身代わりであったからと、ファウストのあらかじめ張った防護魔法が競り勝つには至らないまでも、その役目を果たしたからだ。
     彼の脚に残っているものとは異なり、まだ湿度を残すその傷に触れるか触れないかの距離で手のひらをかざす。指先に触れた滑らかな感触は、目算を誤って直接触れた彼の肌かそれとも集めた精霊の気配だろうか。
     傷の様子を診て、包帯とガーゼを替える、ただそれだけだ。
     艶めいた気配など何もない。医者としての、治療を任されたものとしての責務を果たす。早く良くなって欲しいと願う、賢者含めファウストを取り巻く子供達、そして己のため。はるか昔から、そして昨今は中央の国の魔法舎で慣れ親しんだ己の仕事。ただの治療。
     集中している間にも同時進行で意識をあちこちに飛ばし思考するのはフィガロの得意とするところである。そうしなければ、それができなければ、それなりに力は強いとはいえ弟弟子ほどの圧倒的な力を持たないフィガロが北の大地でゆうに二千年近くも生き抜くことはできなかった。そもそも育ての親が双子なのだ。ひとりに集中しているともうひとりからなにかしらのアクションというには物騒な、攻撃というには害意の薄い、ちょっかいをかけられるのだ。
     ひとつのことに全ての集中力を割いたのは、つい最近、まだその苦さが鮮やかで、ふれるには深い傷とも認めたくないが事実であるあの、精霊に声が届かなかった吹雪の中。なすすべもなく吹雪に身を凍らされるばかりであったあのとき。そんな自分の腕の中に託されたファウストの重みに、なにがなんでも精霊を従えなければならないと、従うべきものが従わない絶望が、怒りに転じた時だった。
     一瞬魔法がわずかに安定を欠いた。いけない、この回想は心を揺らめかせる。というかまあ、いやなことは後で考えるとしていまは思い出さないでおこう。
     外界に向けた警戒は常に。治療に向ける意識への集中に意識の割合を大きく割いて、あまったところはとりとめのない、緩やかな思考だ。
     信頼を持って無防備に向けられている裸の背中。肉付きが薄く骨の浮いた、けれども筋肉もそれなりについているから貧相とも感じない。この身体を綺麗だなと思うことは、彼がまだ人間の中で生きていた頃からあった。
     色々な意味で芸術的であったりだとか、美の黄金比であったりとか、そういう部分でも、あるいは性的魅力に溢れているというわけでもないのに、ふと、修行の合間、治療の折目にするたびに眩しさを感じていた。
     ただ可能性の一つとして、いま無防備に向けられているこの背中に、艶めいた情を纏わせた指先で触れたならどうなるのだろうと考える。
     意識のないファウストの夢が外に溢れないための結界。意識があっても治療中の来訪者を一度阻む結界。清潔で快適な室内環境を保つためと、そして治療の際に使う力。フィガロの魔力に満ちたこの中で、彼の顎を掴んでこちらを向かせて、驚愕に見開かれた紫紺の瞳にこの身を映し、深いところまで入り込み、快楽をもって彼を籠絡しようと試みたなら。
     それはどういう結果を生むのだろうか。
     思惑通りにこの手に堕ち、かつて尊敬と憧憬の光を宿していた瞳が、潤んで熱を孕むのか。それとも、殺すだなんだと険悪な表情を作りながらも全く本気ではなかったあの瞳に、本当の憎しみが浮かぶのだろうか。
     どちらもあまり喜ばしい結果とはいえなかった。だからというわけでもないのだけれど、やはりフィガロはただ治療だけを施すためだけに、かれの素肌間近に翳した指先でそのようにファウストに触れることはしない。
     まだこれからも賢者の魔法使いとして過ごさなければならない。共に戦い世界を守らなければならない。まもなく尽きるであろう己の命の終わりまで、最低でも、良好とはいえずとも、再び繋がった関係を壊してしまうようなことはしたくない。
     つまらない結果を生むようなことを短絡的に行なったりしない。望まぬ結果を生む可能性が高いことは待てば状況が変わることもある。思いつきで、戯れに、簡単に、勢いで、動く必要はない。
     そういえば、性的な欲を最近感じたのはいつだったろうか。ものすごく若い頃にはそれに振り回されたこともあったような気がする。所謂恋というような、相手に執着するような執着されたいような、色鮮やかな感情を誰かに抱いたり。そんなことがあったのはもう随分と前のことだった。
     いつの間にか、ありとあらゆる情熱的で心を燃やすようなことはどこか遠く、フィガロではない誰かの中にだけあるようなものになってしまっていた。当事者になることはなく、部外者として眺めるだけのもの。少しだけ目を細めたくなる眩しさをもつもの。若さと無知、そのどちらかか、その両方か、持ち合わせているものの眩しさ。
     まばたきひとつののち、意識を移す。
     傷に関しての経過は良好、自己治癒力の活性化を促し、すこしだけ痛みを弱める魔法をかけた。痛みをすべて取り除いてしまうことはしない。痛みは、無理に動かすなという身体からの信号なのだ。無理して動く状況でもない。
     傷薬を塗った新しいガーゼをあて、包帯を巻きなおしていく。もう間も無く、治癒魔法の補助は必要なくなるだろう。ということはそろそろ自分もお役御免かもしれない。
     ガーゼを替え、決められた薬を決められたように塗り、包帯を巻きなおすだけならば、レノックスに頼むことができる。ルチルにももちろんできるのだけれど、うつらうつらしているファウストがいつ夢を見るともわからない状況で、彼の奇妙な厄災の傷のことも過去もなにも知らないルチルに託すことは選択肢に入らなかった。それに、彼に関することならば、あの男が当たり前のように手を出すことは予想するまでもなかった。
     それに抵抗する明確な理由がない。ファウストの他にも重症の患者を抱えるフィガロとしては、誰かにこの場を譲ることが自然かつ効率的だと理解していた。理解しているのに、理解していることは納得できるのに、納得できたことは行動に移せるはずなのに、そうしてきたはずなのに、そう、したくないと思う。以前よりおのれが扱いにくくなったような気がする。
     これが老いならばいやだな、と思いながら、そんなことを考えているとは少しも漏らさず包帯を巻き終え、上着を肩まであげてやればぎゅっと寄っていたファウストの肩甲骨からゆっくりと力抜けた。
    「寒かった? すこし部屋の中を温めようか」
    「大丈夫……だ」
    「そう? 無理はしないでね」
     大丈夫だといわれたけれどすこしだけ室温を温める。肌寒さは感じているのだろう。発熱もしているのだし。我慢強いのはいいことだけれど、いらぬ我慢は回復の妨げにしかならない。心地よく心穏やかであれること、快適であることが魔法使いの治療には第一だ。
     そう思うとやはり、自分よりもレノックスに、ファウストのそばにいてもらうほうが、彼のためなのだった。
    「背中の傷は綺麗になるよ」
     ファウストのことだから、そんな心配少しもしていないだろうけれど。
     なければないで気にならない会話が、発生してしまえば言葉のない空白に耐えきれずに、毒にも薬にもならないことを言った。そういう言葉は得てして彼の機嫌を損ねてしまうきらいにあるから、口にしてからはっとする。出てしまったものはもう戻せないのだけれど。
     けれど、立ち上がったフィガロに背を向けたまま、前のボタンを閉め俯いたファウストからはいつもの言葉は発せられなかった。
    「残っても別に気にしないけれど……火傷の痕には慣れてるし」
    「は?」
     彼の得意を奪ったのはフィガロだった。いまなんて? 掛け布団の下にあるであろう彼の脚に思わず目を向け、それからフィガロはまたファウストの背中を見る。
     どういうつもりでそんなことを言ったのか。彼なりの嫌味だろうか。けれどそんなことのために脚の傷のことを持ち出すとは思えなかった。いや、嫌味だからこそ、持ち出したのかもしれない。
     どう答えるのが正解なのか。俺ならその脚だって綺麗にできるよ。とかだろうか。慣れさせてごめんね? 謝られたいのか? なにに。そんな遠回しに相手を責めるような性格ではない。だから生きづらそうなのだ。もっと楽に、といつも思う。
     フィガロが答えを探している沈黙を、ファウストがどう捉えたのか。あの、と昨今の彼らしくない前置きと共に、肩越しに紫紺の瞳がフィガロを見た。
    「その、冗談だ」
    「じょう、だん」
    「そう」
     ゆっくりと背中をシーツにつけて仰向けになったファウストが、一瞬痛みに身を固くして、それからうまく体勢を整えるのを見ているだけのフィガロに、気まずそうに小さく笑う。
     治癒の反作用で体が熱を発している。微熱程度だろうが、うっすら額にかいた汗で、前髪が張り付いていた。指先でそれを払ってやれば、触れたフィガロの指先の温度が心地よかったのか気持ちよさそうに目を細める。
    「この間レノと話した時に」
     ファウストの口から出た他者の名に拳を握ったのは無意識だった。
     死地からファウストを掬い上げ、繋ぎ止め、任された、そのことに少しだけ浮かれて熱を持っていた心が静かに冷めていく。
     レノ、レノックス。ファウストを追いかけて四百年、歩き続け、進み続けた男。フィガロがいつの間にかなくしてしまった眩しさを、いつまでも持ち続けている男。そうして、ファウストからの拒絶すら、溶かしてしまった男。
     愚かだと思うのに、すこしだけ羨ましくて、羨ましいと思うことが悔しい。
     ファウストの世話はやはり彼に頼もう。そのほうが、自分がそうするよりもきっと、ファウストも、表に出さなくても、表面上は僕の世話などするなと言いながらも、けれどきっと嬉しいだろうから。
    「笑えるか笑えないかぎりぎりの冗談を、彼が言ったから」
     ちょっとやってみようかと思った。ファウストが再び瞼を開く前に、自然と己を立て直すと、フィガロが伸ばしていた指を引いて、己の手首を掴んだ。
    「それで冗談を?」
     少しも動揺していない、そんな風に、いつものように鷹揚に笑ってみせる。
     ファウストは熱ですこしぼんやりしているのか、そう、と素直に頷いた。
     悪戯を失敗した子供のように、掛け布団で口元を隠してフィガロを見る、重なる視線をまだ外したくない。けれども外したい。まだここにいたいけれど、いたくない。
    「何を言い出したのかと思った」
     視界の端に映った治療道具。それらを片付ける、という理由を己に思い出させ、彼から視線を外す。べつに見なくたって、指先一つ振れば片付くものを手ずから集め、魔法で引き寄せた盆に乗せた。
     次の患者が待っている、そろそろいくね。そう言って白衣を翻せば完了だ。ひとつ小さく吐いて、そう言葉にしよう時だった。
    「こういうの、おまえが好きなのかと思って」
     ふたたび、ファウストの方を見れば、彼はまだ恥ずかしげに顔の下半分を隠したまま、けれどもフィガロを見ている。再開してからはみたことのなかった、呪い屋という冠をかぶる前の、それこそ四百年前、ふたりきりで北の国、修行に明け暮れてた頃のような幼げな様相で。
    「ふたりとも、よく話して笑っていたから」
    「え?」
    「思い返せば、よく僕にとっては笑えない冗談も言ってきていたし」
    「それで、真似してみたの?」
    「まあ……」
     うまくいかなかったみたいだが。と、言いながら、ファウストの目がねむたそうにゆったりと閉じたり開いたりを繰り返す。
    「きみがそんな冗談を言うとは思わなかった」
    「どうせ僕はつまらない」
    「そんなこと言ってないでしょう。それより、眠たいなら眠りなさい。身体がそれを欲しているということだよ。はやく動けるようになりたいだろう?」
     言って、また指先で額を、そして開こうを強がる瞼をそっと撫でた。紫紺が隠されるのは惜しくて、けれども今度は心から、ゆっくり休んでほしいと思う。
     瞼を閉じたファウストの唇から、言葉の代わりに規則正しい呼吸が漏れ始めたのはそれからすぐだった。指先で鼻筋を、指の背で頬をなぞり、そうしてフィガロは名残惜しくも彼からそっと離れた。
     音を立てないようにゆっくりと部屋の出入り口へと向かう。ドアを開け、振り返り、最後に結界の具合を確認してから、ひとつ祝福の魔法を寝入ったファウストに向けて。
     俺とレノックスが楽しそうに話していた? いつだ。いつそんな、彼が自分達を見ていたのか。いや、レノックスを見ていただけか。それにだいたい、あの男の際どい冗談は大抵半分本気なのだ。笑って見せてもいつか思い知らせてやる、と思っていることだってある。
     けれど、だけど、気にしていたのか。レノックスのことだけかもしれないけれど、でも、それをフィガロが好きそうで、だからやってみよう思ったと言うのは事実で。
     フィガロが好きそうだからやってみて、それで、それで。
     楽しく、話したかったのだろうか。
     動揺して楽しく話すという彼の希望を叶えてやれなかった。今度はちゃんと話をしよう。彼が快復したら。動けるようになったら、酒も飲めるようになったらなら。眠れぬ夜にゆっくりと、際どい冗談がべつに好きなわけではないことも含めて。
     それまでに、語るべき言葉を形にしておかなければ。
     腹の底からわいてくる、ふわふわとした感情は、嬉しい、と感じているもの。嬉しいのか、俺は。嬉しい。
     次の部屋に向けて廊下を進む、フィガロの足取りは軽やかだった。
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    t0mic0x0shi

    DOODLE書きたいとこだけ!
    ハウルパロです。
    【フィファ】フィガロの動く城(書きたいとこだけ)フィガロの動く城(書きたいとこだけ)

    「ああ、いたいた。探したよ」
     どこからか、この場ににつかわしくない滑らかで穏やかな声が聞こえると同時に、死角から伸びてきた腕がファウストの眼前で揺れる。鮮やかな緑の上等そうな服の袖、金の繊細な装飾品で飾られた手首、その先にある節ばった手がゆらり。人差し指の根元にはめられたこれまた金の指輪の石の赤さが印象的だった。
    「さあ、行こうか」
     いまにもこちらの腕を掴まんとしていた衛兵もどきとファウストの間に身を滑り込ませてきた存在が、不思議な力か、それともただ突然現れることで与えた驚愕からかで彼らの動きを止める。
     風もないのに柔らかく揺れる薄群青の髪。身長はファウストよりも高く、すこしだけ見上げる格好になる。踊るように男がファウストに向かって振り返ると、服の裾が緩やかに広がった。曇り空のような無彩色の中に若葉色の煌めきを持った不思議な色合いの目を細め、これまた場に似つかわしくない笑みを浮かべた彼は、衛兵のことなどどうでもいいことのように、ファウストだけを見て、手を差し伸べてくる。
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    t0mic0x0shi

    DOODLEアレクはなぜファを火刑にした?ということに悶々として得たひとつの妄想。カプ要素ない。
    アレクはもっと賢いよー!と思いつつ…なんかなんとか無理やり辻褄合わせる方法ないかな!?

    あとこの世界では、ファとレの不在時にフィは離脱してて、その時に軍にいた者たちから自分の記憶を奪ってる設定です
    ファは一年、特定の人ではなく、修行の旅に出て強くなって帰ってきた!と思われてるような感じ
    【アレクの話】碧落に願う碧落に願う

     この戦いの日々が、いつの間にやら革命と言われたこれが終わったら、お前は何がしたい?

     ”大いなる厄災”と呼ばれる大きな月が闇を連れて太陽の代わりに空を飾る頃、焚き火ゆらめくいつかの夜。親友とそんな話をした。
     それは一度だけではない。これから戦いに向かう夜、あるいは命からがら一つの戦いを終えた後。しょっちゅう、というほどではなかったけれど、時折、思い出したように。
     人間と魔法使いと、同じ軍にいても部隊や役割が違っていて、規模が大きくなるにつれいつも仲間の誰かが周りにいた。宴や軍議が終わればそれぞれ個々に別の仕事が待っている。そんな中で不意に、時にはどちらかが意図を持って二人きりになった時。
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    DOODLE昨日のイベストの熱が冷めずに書き殴りました。
    正しい相手に贈らないと戻ってきてしまう花束を押しつけられたフィガロの話。
    カプ未満くらいの絵本のような優しい話を目指しましたが、実際どうかは分かりません。
    ネロ、ラスティカ、シャイロックが友情出演します。
    押しつけられた花束を持て余すフィガロの話 花束をもらった。
     正しくは、中央の国の市場にある花屋で人間の花売りに強引に押しつけられた。
     薬の調合に使う材料や包帯を買い足そうと市場を歩いていたら、その花屋のワゴンの前で微かな魔力に反応して目線を向けてしまった。すると見計らったかのように店主が現れて、「これはあなたが持って帰って。気に入ったみたいなの、お代は要らないから」と花束を押しつけてきた。早々に厄介払いがしたかったのだろう。花束にかけられていた魔法は呪いの類いでは無いけれど、商品としては欠陥品だ。
     つまりは、正しい人が正しい人に渡さないと元の場所に戻ってきてしまう。そういう面倒な魔法がかけられていた。難しい魔法では無い、条件を満たせば良いのだ。けれど人間には持て余してしまっただろう。どうしてその花束が人間が営む花屋にあったのかも謎だが、自分がその正しい人の片方に選ばれてしまった理由も謎だ。
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