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    563snake

    @563snake

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    563snake

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    堂島夫妻の出会いから別れまで。を書きたかったけど、宗兵が『どこまでもクズ』か『家庭人としてはそれなりに優しさがあった』のかで悩んで断念。続きを書けるかはわからないから、このまま頓挫するかも……。推敲も何もしていないので、読み難さはご容赦ください。

    #腐が如く
    #堂島家
    dojimaFamily

    華を手折る 没落華族。少女が生まれ落ちた時には既に何も無かった。しかし、過去に囚われたままの両親は贅を尽くした。そして、負債を積み重ねていく。
     一家の一人娘は見目麗しい少女。母親は少女を更に磨き上げた。見た目だけでなく、内面も。茶道、華道、日本舞踊……。父親もその為の財を惜しまなかった。
    『全てはお前の為』
     礼儀作法について、厳し過ぎる部分もあった。父親に顔を殴られた時には、母親がすぐに止めに入った。
    「傷でも残ったら大変でしょう!」
    一度きりだった。厳しくするのも自身への思いやり。そう思っていた。


     少女の暮らしはとても裕福だった。しかし、それは作られたものだった。物心がつくと、多少の違和感を覚えるようになる。周囲の目。自宅に出入りする野蛮な男達。疑問を両親にぶつけた事がある。
    「お前には関係のない事だ!それよりも今日、すべき事は済んだのかさっさと良家に──」
    母親が制する。長くなる説教を止めてくれたのだと思っていた。
     可憐な蕾は華麗な女性へと開花しかけていた。女性も職に就くようになってきた時代。少女は優秀な成績を収めていた。教師からは進学を目指す道もあると言われた。
    「女は勉強などできなくとも、器量良くあればいい。お前は花嫁修業に励め」
    夢を生みだす事すら許されなかった。
     十八歳の夏。少女はこの日、華道のお稽古に出ていた。着物で過ごす事に慣れた身体は軽く汗ばむ程度であったが、すれ違う同じ年頃の少女達の軽やかな装いが目に入る。蝉の声に紛れて聞こえる楽しそうな笑い声。自分には無縁なものだと家路を急ぐ。
     自宅前には見慣れた黒塗りの車。毎度、持ち主は異なる様ではあるが。少し暗い心持ちでお勝手口へと向かう。車を横切ろうとしたその時。
    「これ以上は待たねぇ」
    「そこを何とか!もう少しすれば纏まった金が用意できますから!」
    「その話は聞き飽きた。それとも、なんだ?手前らの内臓でも売るってのか?」
    「娘の見合い話が纏まれば金ができるんです!」
    明らかな極道者の男に縋る両親。その口から飛び出した言葉に、少女は愕然とした。
     この所、立て続けに見合いをしていた。
    『良家の子女ともなれば、結婚は早くて当然である』
    母親も同じ年の頃に父と結ばれたと言う。そういうものだと思い込んでいた。事実、そういった事もあるだろう。しかし、実情は全く異なっていた。

     “身売り”

    信じたくはなかった。


     呆然とやり取りを眺めていた。すると、男と目が合った。サングラスで瞳は見えない。にも関わらず、目が光ったように見えた。
    「お前は家に入っていなさい!」
    父親の怒鳴り声。その瞬間、男が舌舐めずりをした。
    「ほう、随分と綺麗なお嬢さんじゃねぇか。しかし、見合いが纏まらねぇってのはアンタらが足を引っ張ってるんじゃねぇのか?」
    「なんだと」
    「娘を売ろうって魂胆が丸見えなんだよ」
    「そんな訳ないでしょ!」
    母親の金切り声がする。
    「そんな血走った眼じゃ、良いとこの坊っちゃんは逃げて行っちまう。そこでだ。一つ提案がある」
    「……なん、でしょう?」
    「借金の肩代わりとして俺の所に寄越すってのはどうだ?」
     少女は願った。確かに金銭面で困っているのだろう。だが、流石にこのガマガエルのような男に差し出されるはずなど無い。年齢だって両親の方が近いくらいだろう。
    「いや、しかし娘には良縁の話も来ていて……」
    「そいつは纏まりそうなのか?」
    「それは……」
    「まどろっこしいな。それなら、これでどうだ?他の借金も全て肩代わりしてやる」
    どんな条件だろうとも大切に育てた娘をこんな薄汚い考えの極道になど……
    「それは本当だな?」
    「あなた!そんな事したら、あの子は──」
    「このままじゃ一家心中だ!こんなに良い話に乗らない訳には……」
    その先は何も耳に入ってこなかった。目に映ったのは汚らわしい大人達の顔だった。


     話はトントン拍子に進んでいく。
    『全てはお前に掛かっているんだ。間違っても変な気など起こさないように』
    『本当はこんな事はしたくないのよ。でもね、私達がみんな無事に生きていく為には必要なの。わかってくれるでしょう?』
    両親の言葉。幼き頃から厳しすぎる程の所謂、花嫁修業。父親の暴力から守ってくれた母親の優しさ。一体、誰の為だったというのだろう?火を見るよりも明らかだが。
     結納が済み、輿入れの準備が整った。本来であれば嫁ぐ側が用意するはずの嫁入り道具は、不要であると言われた。また、挙式の費用も同様であると。何故、こんなにも尽くしてくれるのか?疑問をぶつけようにも、本人には会えないまま式当日を迎える。
     白無垢に身を包み、文金高島田に髪を結い上げる。まだあどけなさの残る花嫁。その隣に立つ母親は言う。
    「あなたの幸せがみんなの幸せなのよ。これで良かったの」
    最後の一言は誰に向けて言った言葉なんだろう。静かに頷(うなず)いた。全ての準備が整い、父親と顔を合わせた。
    「生業はどうであれ、悪い男ではないな。これからは誠心誠意、彼に尽くしていくんだぞ。いいな、弥生」


     こうして始まった堂島宗兵との生活。組の切り盛りをするには色々と付き合いもある。今は直系に上がれるかどうかの瀬戸際だ。そう言って毎回異なる香水の匂いを纏い、帰宅する。それならばまだ良い。数日、帰らない事もしばしば。自分は本当に結婚したのだろうか?実はこのまま他の誰かに売られる為の身請けだったのでは?そんな思いで押し潰されそうになっていた。
     挙式から二ヶ月程経った頃。初めて夜を共に過ごした。言いたい事、聞きたい事は山程あった。しかし、それを口にして機嫌を損ねさせる訳にはいかなかった。独りの時よりも静かに感じる夕食。洗い物をしている合間に入浴へと向かった宗兵は、そのまま寝室へ向かったようだ。弥生も入浴し、寝室へと向かう。
     今までもそうだった。宗兵の帰宅を待ち、彼の後に入浴する。そして向かった寝室では、すでに大きな鼾(いびき)をかいて眠る男が一人。何を期待しているでもなかった。好きでもない男と強引に結婚させられた時点で、弥生の人生には絶望しかない。愛だ、恋だと色めく事は今後もないだろう。それでも、夫婦となったからにはそれなりの事もあると覚悟していた。しかし、それすらもない。それどころか、他の女の影が丸見えである。自分の存在意義とは何なのだろう?
     音を立てないよう、静かに襖を開ける。すっかりと身に付いていた。
    「遅かったじゃねぇか」
    びくりと身体を震わせる。
    「起こしてしまいましたか?申し訳ございません」
    「いいから早く来い」
    ドスの利いた声に足が竦(すく)みそうになる。いや、それだけではない。その先の事が思い浮かんだ。覚悟を決めて宗兵の元へと向かい、布団の横に膝を付く。
    「震えてるな。怖いか?それとも、こんなオヤジが初めてなんて真っ平だとでも思ってるのか?」
    自嘲するような笑いを浮かべながら言う。
    「そういう訳では……」
    「なんだ?生娘じゃないのか?」
    「そんな事はありません!」
    顔が熱い。何を自ら曝け出しているのだろう。
    「それなら不安で当たり前だろ。だから慣れるまで待った。だが、もうこれまでだ」
    布団に引き込まれた。
     気遣いなんてものはなかった。宗兵の思うがまま、好き勝手に抱かれた。比較対象などないが、弥生にとって性行為とは苦痛が伴うものと認識された。他の女性達も同じような痛みを感じている。そう思った途端に冷たい涙が溢れてきた。身体的なものではなく、精神的な痛み。宗兵はそんな事には一ミリも気付きはしなかった。


     その後も以前と変わらず、宗兵をただひたすらに待ち続ける夜を過ごす。ただ、以前より多少は帰る日も増えた。そんな夜には望むままに身を預けた。苦痛にも慣れてきた。無心で果てるのを待てばいい。幸か不幸か、さほど時間の掛かる行為ではなかった。一つだけ慣れないのは、心にチクリと刺さる棘だけだった。
     それからしばらく経った、ある日のこと。そろそろ夕飯の支度でも、と席を立った時だった。世界が回った。咄嗟に机に手を着いたことで倒れこそしなかったが、床に座り込んでしまった。次に訪れたのは、抑えようのない吐き気。半ば這う様に台所へと向かう。
     実はこの日、弥生は朝から何度も訪れる吐き気と格闘していた。食事も受け付けない。しかし、腹を下してはいないので、悪い物に中った
    訳では無さそうだった。できる限り周りに迷惑を掛けぬよう、細心の注意を払ってきた。だが、どうにも思ったように動けずにいると、一人の使用人が声を掛けた。
    「失礼を承知で伺います。奥様、最後に月のものが来たのはいつでしょう?」
    何故、そんな事を聞くのだろう?疑問が顔に出ていたのだろう。
    「ひょっとしてご懐妊では?」
     全く思い至らなかった。当然だが身に覚えはある。だが、年若い弥生にとって未知の世界であった。動揺する弥生を手洗い場へと誘導しつつ、使用人は言う。
    「まだ周りの者には話さずにおきます。奥様は頑張り過ぎです。もっと私達を頼ってください」
    結婚してから初めて人の優しさに触れた。頬を伝う涙は温かかった。


     周囲には黙っておくとしても、夫である宗兵には伝えなければならない。それは、まだ人の形も成していない命を守る為には必須である。そして何より、喜びを共感したかった。帰るともわからぬ夫の帰りをひたすらに待った。生理的に怠く眠い。
     日付を跨ぐ頃に宗兵は帰った。疲れを労い、意を決して伝える。貴方の子を宿した、と。
    「そうか。じゃあ、ヤれねぇな」
    この男は今、何と言った?聞き間違いか?
    「明日からしばらくは帰らねぇ。寝る」
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