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    misuri_pkmn

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    misuri_pkmn

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    HQの黒研

    高校三年の一月、春高で烏野に敗れた時、研磨が言った言葉。その言葉は、八歳から一緒だった気持ちへの区切りをつけてくれ、そして卒業まであと二ヶ月というそんな時に、俺は幼馴染が幼馴染には見えなくなる呪いにかかった。

    八歳に出会ってから、隣にいることが常だった。学年こそ違えど、学年の隔たりが邪魔しないシーンではよく隣にいた。バレーボールの面白さにのめり込んでいって、研磨にも一緒にいて欲しかった。可能ならば、この面白さを共感したかった。

    (でも、この面白さを実感させられたのは結局俺ではなくて、日向だった)

    それを、悔しいと思わない自分がいたことにも驚いた。
    ずっと研磨のそばにいたが、自分では研磨のライバルにはなれないことをどこかで悟っていた。例えば別のチームだったら違うだろうか?…いや、このたらればには意味がない。同じチームだからこそ、一緒にいたからこそ、バレーに直向きになれたから。研磨と組むことでチームプレイの面白さに気付いて、夢中になって、無我夢中になって。きっと俺だけではない、多分、少なからず研磨も。
    自分という土台があって、日向という好敵手であり、友達に出会えた。猫又監督から教えてもらったバレーの面白さは研磨に繋ぐことができて、結果日向翔陽という友達まで繋げた。孤爪研磨にとって、影響を与えた人物ということだけは間違い無いのだ。

    (こんなに、研磨の人生に入り込んでおいて、今更何でもないわけ、確かにないか)

    そうだ、俺は研磨のことをずっと気にかけていた。
    この地にまだ馴染めない幼少期は、唯一の友達として。少し成長して他に友達ができた時は、幼馴染として。中学、高校と、共に音駒で過ごした時は、友達として、幼馴染として、チームメイトとして、その頭脳を、そのプレーを信頼できる相棒として。その全てが大切で、どれか一つを欠くなんて、まして欠く可能性のある行動を取ることなんてとても出来なかった。
    有体に言って、好きだなんて言えるわけが無かった。友達であり、幼馴染であることを捨てることなんて出来なかった。人生の半分を捧げてきたのだ。(意識していたか否かは別として)

    「研磨」

    研磨の部屋をノックする。小さい頃なんかはノックなんてせずにすぐに開け放っていたけど、歳を取るにつれて、そうすることはなくなった。扉の向こうから「ん」と返事が返ってきたのを聞いて扉を開けると、研磨は数日前に買ったゲームに夢中になっていた。それでも返事があるところを見ると、恐らくとりあえず一通りはクリアして、今はトロフィー集めをしているところだろう。
    いつも通りベッドの脇に座ろうとして、何となく研磨の隣に座った。自分の重みで研磨が少しだけ傾き、肩が触れる。ほんの少し触れただけでも、研磨が気を許しているのがわかってしまった。
    研磨のナワバリは決して広くない。高校に入って、山本と衝突をして、あの辺りから少しだけ広がったものの、やはり広くはなくて、ナワバリの中心にいる研磨の隣に、黒尾も入ることを許してもらえている。
    もっと、他にも気の許せる間柄を作って欲しいと、少し前までは思っていた。実際思ってたし、今でも思ってはいる。ただ『隣は自分以外には渡したくない』という気持ちが今は強い。

    膝に肘をついて、頬杖をつく。隣の研磨は画面に釘付けになっていて、横顔は髪に隠れていた。髪に触れて、耳にかけるが、研磨は微動だにしない。髪に隠れていた横顔はまだ画面を見続けていて、その線の細さに目を細めた。
    知っての通り、俺は男で、研磨も男だ。確かに元々研磨は体力も少なめで周りと比べても小柄な方だ。だけどそれを可愛いなんて全く考えもしなかったのに、自覚するっていうのは意外と厄介なものだ。

    じっと見つめ続けていたことに気付いていたらしい研磨が眉を真ん中に寄せて「…なに」と聞いた。

    「そんな嫌そうな顔しなくても」
    「クロがそういう風に見てくる時ロクなこと考えてない気がする」
    「僕のことを何だと思ってるんですかね」

    年齢が上というだけで先輩ぶるつもりはないが、月島といい、日向といい、自分のことを詐欺師とでも思っているのだろうか。研磨の頭に手を乗せてぽふりと叩く。

    「研磨くんの隣にもいつか他の誰かが来るのかなって思ってですね」
    「は?いないでしょ」
    「何でよあり得るでしょ」

    研磨は子供扱いされたことには対して疑念を抱かないのか、されるままで、顔には『やっばりロクでもない』と書いてあった。

    「隣はクロがいるでしょ」

    取るに足らない、といった様子で言い放って研磨はまた画面に目を向ける。思わず呆気に取られた。

    「そ、れは光栄だけど、反対側だってあるでしょ」

    動揺が言葉に表れてしまった。無理矢理にでも隠していつもを気取る。

    「…翔陽とか?」
    「そうじゃなくてさ、ホラ、女の子とか」

    考えたように話す研磨に諭すように言うと、さっきと同じように嫌そうな顔をする。

    「だからクロがいるじゃん」
    「へ?」
    「クロ、やっと気付いたでしょ」
    「あ?」
    「おれのこと、好きでしょクロ」
    「んん??!!」
    「おれはクロのことずっと好きだよ」
    「はい?!?!?!?!」

    畳み掛けられるように、衝撃。もう言葉らしい言葉が何も出ず、まるで烏野戦のあの言葉の後のようだった。そんな黒尾の顔を見て研磨がふ、と笑う。

    「変な顔」
    「待て待て、どっから突っ込めばいい!?」
    「どっからって何が」
    「まず研磨くんはコントローラー置きなさい!」

    しっかと掴んで離さないコントローラーを指差すと研磨は眉を顰めて、黒尾の言うことに渋々従った。

    「俺が研磨を、好き?」
    「うん、多分クロは自覚してないけど結構前からだよ。中学…?」
    「何で俺が自覚してないのに、本人が先に知ってんの!?」
    「おれがクロのこと好きだからじゃない?」
    「もうホンットお前なんなの!?」

    淡々と、淡々と述べてくる研磨に頭を抱える。これは告白なのか?どっちが、どっちに?この気持ちを自覚した時には、一生秘めることになるかもしれないと覚悟したのにもかかわらず、まさか相手から自分の気持ちについて言われることになるとは。さすが研磨と賞賛したらいいのかどうなのか。

    「おれはクロのこと好きだから、隣にいてもらわなきゃ困るんだけど」

    こんな時だけ、こんな時ばかり、画面ではなく黒尾の表情を見つめる。研磨は一見するとそうでもないが、その実、表情を読み取りやすい。表情の裏に隠れた感情をおそらく正確に読み取って、黒尾は研磨の肩に手を伸ばす。

    「…多分離してやれないけど、いいか?」

    身体ごとぎゅうと両手で包み込むと、研磨の身体から僅かに力が抜けるのがわかる。平気そうなふりをしていたけど、本当は緊張していて、不安。

    「十年一緒にいるんだし、今更離れらんないでしょ」
    「それもそうだな」

    研磨は手を回してこないが、頭を預けてくる。まったく猫みたいだと口の中で笑う。

    「じゃ、キスしていい?」
    「は!?いいわけないじゃん!」
    「なんで!?」

    恋人さながらの所作をしてくる研磨に聞くと思っても見ない反応。思わず肩を掴んで顔を覗き込むと、目線は合わず、林檎みたいに真っ赤だった。

    「そんなの、っ、わかるでしょ」

    そんな研磨の顔を見たら身体が勝手に動いていて、唇で触れてしまった。お世辞にも柔らかくはない、カサついた唇。衝動。ずっと隣にいて、いろんなことを知っていたつもりだったけど、身体だけでなく唇も薄いなんて知らなかった。堪能する間もなく、研磨が勢いよく離れる。

    「いいって言ってない!」
    「ごめん、研磨」

    それでもまだ腕の中に囚われたままで、振り解いたりはしないのがやっぱり猫みたいだ。

    「研磨、好きだ」
    「知ってるし」

    ふい、と腕の中で目を逸らした研磨が愛おしくて、そのつむじに口付けを行った。研磨にその意図が伝わったかわからないが、研磨は小さな声で、好きにしなよと呟いた。
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