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    misuri_pkmn

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    misuri_pkmn

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    ヒトモシとアブソルの話
    相変わらずタイトルが思い浮かばねえのよ

    ヒトモシとアブソルの話 ぽつり。空から落ちた小さな水滴が一つ地面に落ちて、じわりと地面に広がった。次に少し離れたところにまた一つ。一つ二つ、少しずつ地面を濃く濃く染めていく。叩きつける音の間隔が短くなるまでにそう時間はかからなかった。
     そのヒトモシは雨が降り出す前から洞穴の中にいた。周りには他に誰もいない。薄暗い洞穴を好むズバットも、冷たい地面が好きなディグダもいない。静けさの中、ただの一匹だけで洞穴の中で過ごしていた。外に出なかったのに理由は無かった。強いて挙げるなら、洞穴の入口で感じた空気は少しだけ重たくて、なんとなく自分の動きが鈍くなったような感覚があったから、だった。
     ヒトモシがその違和に気付いたのは、洞穴の中にはぽうぽうと増えた小さな炎。続けてたたっ、たたっと走るような、弾けるような音だった。そこでヒトモシは先程の予見が当たっていたことに思い至る。雨音だ。外の雨は少しずつ勢いを増しているのか、呼応するようにゆらゆら、青い炎が多数揺らめく。
     その青い炎がヒトモシはどうしたって好きだった。自分と同じ種族だからなのか、見ているとあたたかくなって、頼もしくなる。しかしヒトモシはその青い炎達を遠巻きに見つめることしかしない。同じ種族であっても、仲間とは限らない。ヒトモシに仲間はいない、生まれた時からいなかった。それが普通の筈なのに、その事実がふわふわと浮かび上がる度に、頭のてっぺんの炎も小さくなった気がした。ふるふる、炎を振るって、いやな考えも取り払う。仲間がいなくても何も変わらない。自分がその青い炎が好きなことだって変わらない。
     妖しい光が揺蕩う中、たったった、と雨の音とは明確に違う、質量を持った音が洞穴に近付いてくる。小さな足音、軽い足音。複数の足音が近付いてきて、洞穴の入口に姿を見せた。ひとが一人、側には白い大きな獣のようなポケモン。ヒトモシ達は突然現れた来訪者に驚き、小さな炎をひらひらと揺らしながら洞穴の奥の方まで逃げるように移動する。
    「いきなりだったなぁ…大丈夫か、アブソル?」
     洞穴の入口から飛び込んだその人は側の白いポケモンに問いかける。問いかけられた側は全身を振るって返事代わりに水滴を飛ばした。飛ばされた水滴に苦笑いしてその人はこちらに気付いたようだった。
    「わ、ヒトモシ…!ごめんな、おまえたちの巣だったんだな…」
     片手を挙げて申し訳なさそうに「少しだけ雨宿りさせてくれな」と言うその人から、ヒトモシの集団は距離を取った。ただ一匹を除いて。
    「おれ達邪魔かな…ごめんな、みんなのとこ行きたいよな」
     その人は、集団から離れたその一匹が通りやすいように離れる。ヒトモシとは違って頭のてっぺんが赤の混じった真っ黒に包まれたその人は入口の方、もう二歩踏み出せば雨の中に入ってしまうようなところまで行ってしまう。寄り添う白いポケモンはこちらを一瞥した後、その人の側まで軽やかに歩み寄る。ヒトモシはその人が気になった。なぜかはわからないけど、纏う空気が、大好きな炎みたいに優しかったからかもしれない。
     入口まで進んだその人は、外を見上げて、ヒトモシもその人に倣って、洞穴の入り口の隙間から見える小さな外を眺める。雨は先程のようなリズミカルな音は立てておらず、絶え間なく降っているようだった。
    「まだしばらく止まなさそうだな…」
     そうだ、とその人は小さく呟いて、赤いボールを手に取ると、ポケモンが二匹飛び出してきた。
    「エースバーン、インテレオン、手伝ってくれる?」
     飛び出てきた二匹はお互い顔を見合わせた後、嬉しそうに声をあげた。
    「ルッキィ!」
    「ははっサルノリもよろしくな、アブソルは周囲の警戒しててくれ」
    洞穴の入口に一番近いところにいる白いポケモンはこくりと頷いて外をみる。
     その人とポケモン達。姿形は全然違うのに、洞穴の奥の方にいるヒトモシの集まりみたいに一つみたいだった。そのかたまりの奥、洞穴の入口付近からは白いポケモンがヒトモシに注目しているのがわかった。それはとても鋭い眼光で、ヒトモシはほんの少し小さくなる。ちがう、決して危害を加えようなんて思っていない。慌てて目を逸らすけれど、あの人やポケモン達がやっていることがどうしても気になってそぉっと目線を戻す。目線の奥の方で白いポケモンは外を見ているみたいで、目は合わなかった。
     その人の指示に沿って、何かの上にピンク、黄色、いろんな色の何かを乗せていく。ヒトモシにはそれらが何かはわからなかったが、その人とその肩にいるポケモンと先ほど飛び出てきた二匹、洞穴の入口付近から見つめる白いポケモンすらもみんな楽しそうで、その様子を眺めていたヒトモシは自分の小さな体を見下ろした。何もない。ひのこでもかかったのかと見下ろしたが、何もない。確かにからだの真ん中はぽわぽわと温かくなったのに。なんだったのかと疑問に思う間もなく、その人は明るい声を出した。
    「野菜サンド、かんせ〜!!」
     その人は、顔の高さで大きな白い耳のポケモンと手を合わせる。水色のポケモンとも高らかに手を合わせ、その肩にいる緑のポケモンも飛び上がった。彼らの表情を見上げると、皆やっぱり嬉しそうで、その人たちの向こうに見える外は雨降りなのに、そこだけぴかぴかとしているようだった。なぜだかヒトモシも目を細めて、自分もぴかぴかしたような気がした。
    「お前達にも」
     その人は少し遠く離れたヒトモシの集団に小さく切ったその茶色くて良い匂いがするものを置いた。集団のヒトモシ達がおずおずと近寄って、口に入れるの見て、あれは食べるものなのかと気が付く。
    「ほら、お前にも」
     その人は一匹ぽつんと離れたヒトモシにも分け隔てなく与えてくれた。一匹で食べるには十分すぎる量を与えてくれて、その瞬間、白い何かが飛び込んできた。
    「うわっなんだよアブソル!」
     先ほど鋭い眼光を放っていた白いポケモンがヒトモシとその人の合間に割り込んで、その人の服の裾に噛み付く。怒らせてしまったのだろうか、ヒトモシはその小さな体の奥から震えるような思いだった。しかしヒトモシには目もくれず、白いポケモンはその人の服の裾を噛んで地面の方に近付けようと引っ張っていた。
    「えっと…ここに座れってこと?」
     その人の顔が歪になってそう言うと、白いポケモンは服の裾から口を離した。その人はほぅと小さい息をつくと、その人のてっぺん、赤混じりの黒が随分と高いところにいたはずなのに、ぐんと近づいて来る。目も離せないまま、その人の大きな目はこちらを覗き込んだ。
    「…座っても良い?」
     なんとしたらいいのか分からず、ヒトモシは固まった。すると、白いポケモンはヒトモシの隣、少しだけ間を開けて、腰を落とした。その人はその姿を見て、口元を上げると、そのポケモンに倣うように座る。
    「一緒に食べよ。野菜がいっぱい入ってておいしそうだろ?」
     その人は大きな口を開けてそのたべものを放り込む。ぎゅむ、しゃき、もぐ、もぐ。ヒトモシはなんだかわからないけれど、小さく切られたものを口に入れた。
     衝撃が走った。
     食べ物を食べないわけじゃない。お腹が空いたらきのみを食べたりもしている。でも、ヒトモシは何かを食べてこんな気持ちになるのは初めてだった。もっと、もっと食べたい。そうか、これがさっきこの人が言っていた「おいしそう」!ヒトモシが食べやすいサイズに切られたものがひとつ、ふたつ消えていく。
    「一緒に食べると美味しいよな!な、アブソル」
     名前を呼ばれたそのポケモンは、ヒトモシが食べているものと同じものを口に運ぶ途中で、その人をチラリと見るもののすぐに食べ物に目を移して口に入れた。その人はその様子を見て、息を漏らして笑った。そして目をヒトモシに向けると、ヒトモシの炎をじぃと見つめる。その人の様子に戸惑う間もなく、今度はその人が身を乗り出す。
    「おまえ…色違いかぁ!」
     他の皆が紅色がかった空色の炎を灯す中、澄んだ水のような炎を灯したそのヒトモシに、その人は名前をつけてくれた。
    「うわーっかっこいいなぁ!瞳は優しい緑なんだなぁ…」
     その人の肩に乗ったままの緑のポケモンはルキッルキ!と主張する。その人も「うん、うん!サルノリにもそっくりだよなっ!」と肩のバウンドに負けないほど弾んだ声で返した。
     『イロチガイ』。それが正確に何を意味するのか、そのヒトモシは知らない。それでもそのヒトモシは名前をつけてもらえた気がした。他の個体に稀有な瞳で見られる理由をつけてもらったような気がした。
     先ほどその人と一緒にやさいさんどを作っていた水色のポケモンが入り口付近から戻ってくる。首を振った様子にその人はうーん、と唸った。
    「雨止んでないかぁ…今日はここで一晩過ごすか。ごめんな、ヒトモシ達。おれ達あっちの方にいるから」
     その人達は自分から離れて、隅の方に行ってしまう。またひとりぼっち。でも仕方が無いのだ、自分はあの人達の仲間ではない。あんな風にお互いがお互いを尊重するような相手はヒトモシにはいない。あの人達から目を逸らすと、自分の隣にはまだ白いポケモンがいて、頭を地面に預けて寝ていた。
    「アブソル?…ま、いいか」
     あの人が隅の方から名前を呼ぶが、白いポケモンは身体を起こすことないままだった。あの人は笑って、おやすみ、と小さい声を向けた。もしかして、隣にいてくれるのだろうか。ヒトモシは身体の中から紫の炎をふわりと放つ。白いポケモンは頭を地面に預けたままちらりと目線だけ動かした。炎の二つを白いポケモンと自分の間に、残りをあの人達の方に。やさしくてあたたかい人たちが冷えたりしないように。


      *


     翌朝、ゴウはスバメの小さな鳴き声に目を開けて、洞穴の外へ向かう。外はしっかり明るくて雨も止んでいて、ぐぐぐ、と背筋を伸ばす。雨上がり独特の澄んだ空気が心地よかった。
    不意に飛び込んだ洞穴だったが良い出会いもあった。お日様の下でもう一度あの瞳を見たいな、なんて思ってしまう。本来、活動時間帯が夜のヒトモシなのだから、陽の下で見ることなんて殆ど有り得ないのに。
     洞穴に戻るとそのヒトモシは慌てたように目を開けた。そばにいるアブソルも昨晩最後に見た時から場所も姿勢も変わらないままそこにいて、まだ目を伏せていた。
    「おはよ、ヒトモシ」
     こちらの顔を見ても逃げないヒトモシの前にしゃがみ込む。昨晩寝る前につけてくれた紫炎を思い出す。少しだけ驚いたがすぐに敵意が無いことには気付いた。
    「おにび、ありがとな。あったかかったよ」
     小さな皿に入れたポケモンフードを置く。見上げるヒトモシの横で、立ち上がったアブソルがそのフードを食べ出した。多分ヒトモシに食べ物だと教えているのだろう。
    (アブソル、このヒトモシを気に掛けてたなぁ)
     アブソルが食べるのをやめてヒトモシをチラリと見ると、ヒトモシもおずおずと食べ始めた。その様子をしゃがんだまま膝を抱え込んで見つめる。アブソルはヒトモシの動向をじっと見つめ、座り直した。食べるつもりはない意志の表れなんだろうか。
    「それじゃ、おれ達そろそろ行くな」
     次の街まで少し距離がある。サンドイッチで多少回復はしたが、次も屋根のある場所に泊まれる保証も無く、早いうちに次の街を目指すつもりだった。アブソルも落としていた腰を上げたが、そのアブソルの前足にはヒトモシの手が小さく添えられていた。
     アブソルはその足元を凝視して、あからさまに表情を変化させた。喜んでるとは言えない、どちらかと言うと迷惑そうな。対するヒトモシは勇気を振り絞ったのがありありと見て取れた。どうしたものかと思案するゴウの両肩にそれぞれ手が添えられる。隣に立つエースバーンの表情もインテレオンの表情も、慈しむような、懐かしむようなものを感じ取る。
    「アブソル迷惑がってない?」
     二匹に耳打ちすると、二匹とも快活な笑みを返した。曰く、『大丈夫!』。ゴウはポケットの中に小さいボールが入ってることを指で触って確認して、ヒトモシに近寄る。

     気持ちのいい風が吹く中、ゴウは手に持っていたスマホロトムで迷うことなく相手を呼び出す。
    『もしもしゴウ?』
     数コールで応答したいつも通りのその声にゴウは被せるような声をロトム越しに伝える。
    「聞いてくれよサトシ!おれ達の新しい仲間の話をさ!」
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