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    misuri_pkmn

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    misuri_pkmn

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    最終回後に自覚したサトシがゴウに再会する話。

    切り取ったカケラの先でまた会いましょう「じゃ、またな」
    「あぁ!」
     スマホロトムが小さい電子音を鳴らして終了した通話と共に自然と頭に浮かび出た言葉。好きだなぁ。
    (ん?)
     反芻する。スキダナァ?自分の頭の中に今度は疑問符を並べる。好き?そうだ、自分はゴウのことが勿論好きだ。友達として。それ以外に何があるって言うんだ?時計を見るといつも寝る時間よりもっとずっと遅くなってしまっていた。ゴウとの会話が楽しかったせいだ、なんて責任転嫁をして布団に入り込んですぐに意識を落とす。
     朝、いつもと同じ朝。…同じはずの朝は、胸の内からじわじわと何かを溢れさせる。それは昨日僅かによぎった可能性を、わざと見ないフリをした気持ちを誤魔化させてはくれないと物語っていた。
    (オレは、ゴウのことが好きなんだ)
     ぽつん、と小さな雫が落ちて、波紋が少しずつ大きくなった。いつからかは覚えてないけれど、多分この気持ちの最初は小さな小さな一つだったんだと思う。一緒に過ごすうちにそれが一つ、また一つと重なって、気付いたら大きな大きな気持ちになっていた。その気持ちを伝えたいか。その答えは「はい」でも「いいえ」でもあった。伝えたい気持ちが全くなかったとは言い切れなかった。でもサトシがよく知っているゴウは、姿も形もわからないほど遠いけれど、確実に光っている未来を、キラキラした瞳で見ている。今はそばにいないし、言葉は聞いていないが、理解してしまった。長くなくとも濃い時間を共に過ごしてきたからかもしれないし、自覚した気持ちからかもしれないけれど、確かに理解してしまった。ーゴウは先に進みたいのだと。伝えたところでゴウにとって良い結果になるかわからなかったから、サトシは心の奥底、ちょっとやそっとでは取り出せないような場所に、この気持ちをぎゅうと押し込んだ。決して鍵のかかった宝箱のような綺麗なものではない。どちらかというとこのまま仕舞い込んだまま二度と取り出さない、仕舞い込んだことすら忘れるつもりで、過ごすことにした。
     ただ、自覚してしまった気持ちを伏せられるほど、自分は器用ではないことを知っている。だからサトシは、ゴウと距離を取り出した。いきなり距離を取るとゴウを傷付けるかもしれない、と少しずつ、少しずつ。



     一人で旅に出てからゴウとも、コハルとも会わないまま、もう何年が過ぎたんだろうか。あの時から背丈は随分と伸びたと思う。多分、お互いに。
     意識的にカントー地方を避けたし、近くに行っても、サクラギ研究所には寄れなかった。ゴウへの気持ちを再度自覚したら、二度と友達には戻れないと思ったからだ。こうやって距離さえ保てていたら、多分いつかまた友達に戻れる。そう信じながら数年を過ごしている。
     今サトシはガラル地方に来ていた。キョダイマックスポケモンが出ている噂を聞きつけてやってきたはいいが、着いた頃にはどうやらあの紫の暗雲は晴れてしまったようだった。
     バトルを目的に来たサトシは元より、バトルする予定だったルカリオすらも肩透かしを食らってガッカリしてしまっていた。しかしいくら肩を落としても、いないものはいないのだし、時刻はもう夕刻、腹の虫がぐぅと「腹が減ってはバトルも出来ぬ」と警告を鳴らした。気持ちを切り替えて、今日は夕飯何食べようか、ポケモンセンターに泊まって考えようか、肩に乗るピカチュウと前を歩くルカリオに話しかけながら街を歩く。この街のレストランは何処にあったか、どんな名物だろうか、屋台は…。周りを見渡しながら街を歩いていると、ルカリオが突然何かに気付いたようにぴたりと足を止め、明後日の方向を勢いよく向いた。
    「どうした、ルカリオ?」
     顔を覗き込むとルカリオはその赤い瞳を閉じた。あぁこれは、何かの波導を感じ取ろうとしているのか、とサトシが頭に浮かべると同時にルカリオは駆け出した。
    「ルカリオ!」
    「ピカ!?」
     突然駆け出してしまったルカリオの後ろ姿を見てピカチュウが驚いたような声をあげる。サトシは咄嗟に、肩の相棒と目を合わせると、相棒は軽やかに地面に飛び降りる。相棒の言いたいことはわかる。『一緒に行こう!』だ。その表情はまるでサトシを写したかのように、ワクワクしていた。ルカリオの駆ける先に何があるのか、サトシは心を踊らせながら、ルカリオの後を追った。

     ざぁざぁと草木の分かれ目をルカリオは縫うように走る。ルカリオの後を寸分違わず追えば、サトシも障害物にぶつかることはない。気持ちがいい、まるで木が自ら避けてくれているようですらある。木の根をぴょんと飛び越えたところで、突然、ルカリオの感じるものがサトシにも届いた。
    (あたたかい…熱い?)
     熱を帯びたその波導がなんだか、検討をつける間も無く、さぁっと視界が広がった瞬間。
    「へっ?」
     聞き間違うわけがない。よく知った声が聞こえた。続けて「バァス!!」と、トレーナーでなくともわかるような弾んだ声に、目の前に現れた、人物の姿を明確に捉える。
     その姿は、その声は。
    「…ゴウ?」
    「サトシぃ!?」
     その端正な驚いた顔が目に入って、顔、身体、そして手元に目がいった途端、お腹が大きな音でぐぅうと鳴いた。
    「でっけー音!!」
     大きな声で笑うその姿は、ずっと、ずっと大好きな、でも大好きと思ってはいけなくて、離れざるを得なかった人だった。



    「いつの間にガラルにいたんだ?」
     ゴウの作っていたカレーを途中から手伝って、手を合わせていただきますと声を合わせて元気良く挨拶。皿と口の間を何往復かさせたスプーンで、カレーを掬ったものの一旦皿に戻して聞くゴウに、スプーンの手を止めないまま、サトシは返す。
    「ゴウこそ!」
    「おれは…」
    「「キョダイマックスポケモンが出たって聞いたから!」」
     二人で顔を見合わせて同じタイミングで息を吹き出して笑う。
    (良かった、オレとゴウは友達だ)
     笑う内容も笑うタイミングも一緒で、改めて気の合う友達だと認識した。恋愛対象ではない、友達としての好きだと。その間に潜む違いには気が付かない。
    「サトシはバトル目的?」
    「もちろん!ゴウはもちろん?」
    「ゲット!…だけど着いたらいなくなっちゃってたんだよなぁ」
    「オレも!…戦いたかったなぁ」
    「「キョダイマックスインテレオン!」」
     先ほどのサトシのように、サトシの言葉にゴウが重ねて、にまりと笑った。その笑顔が別れた頃と少しも変わらなくて、サトシもどこか安心して笑った。
     気付いたあの時のような苦しさはなかった。ゴウの笑顔も何もかも触れたくて、愛おしくて、でも手に入れられなくて辛くて。そばにいなくても、ゴウと話すのはすごく楽しかった。でも、その楽しい気持ちを何処かで卑しい気持ちが上回ってしまって、少しずつちぎっていったのは、他でもないサトシ自身だった。気持ちの片鱗に触れかけた時、美味しいはずのカレーが、突然味が変わってしまったように感じて、サトシは慌ててカレーをかきこんだ。
    「ルカリオが戦うつもりだったのか?」
     カレーを流し込むように食べるサトシを見て、その真意には当然気付かないまま、サトシに問いかけてスプーンを口に運んだ。
    「ルカリオ、今も武者修行中だからさ、強い敵と闘いたいみたいだ」
     ゴウが息を漏らしてルカリオらしい、と笑った。
    「ゴウは?」
    「ふっふ…おれはなんと!」
     ゴウがスプーンを膝の上の皿に置いたまま、昂然と左腕を差し出してくる。その色、細さ、概ね記憶にあるものと変わらない腕。自分が愛用するものと同じリストバンド。記憶と違うのはそのリストバンドがゴウの手首に巻かれていることだった。
    「ダイマックスバンド?」
    「そして!」
     ゴウがポケットからボールを取り出して宙に投げる。少しだけ山なりに投げられたボールから赤い光と共にするりと長身の身体が飛び出した。
    「おれのインテレオン、キョダイマックスできるようになったんだ!」
    「おぉーっ!すっげぇ!!」
     インテレオンはゴウに身を寄せた。その様子はどこか誇らしげだった。ゴウとの絆が為せる技で、その絆の具現化した形に目を細める想いと、以前より更に強く育まれたその隙間を知らないことに一抹の寂しさを覚える。知らないでいようとしたのはサトシ自身なのはわかっている。インテレオンがサトシを見る目線に、どこか挑発的なものを感じたが、多分それは自分が勝手に感じている負い目なのだろう。
    「かっこいいだろ、おれのインテレオン!」
    「おうっ!」
     自慢げなゴウに笑いかける。もやもや、ほんの少しの暗雲が立ち込める胸中は勘付かせない。離れている間にこんなに器用なことができるようになっていた。自分のことなのに改めて驚いてしまう。
     インテレオンはゴウの元を離れると、エースバーンのところへ向かい、近くにいたルカリオに会釈していた。ゴウはその様子を見守った後、インテレオンがキョダイマックスできるようになるまでの話を続けた。最初は一人で頑張ろうと思ったが、ダイスープの作り方もわからないから、オニオンに頼ったこと。ダイキノコを採取する途中、前のようなトラブルには見舞われなくて拍子抜けだったこと。オニオンとラジオの話で少し盛り上がったこと。ジムでサイトウに再会してサトシとダンデの戦いや、サトシのバトルについて沢山話したこと。ゴウの話は知った名前もたくさん出てきて楽しく、サトシはカレーを食べ終えてもゴウの話に耳を傾けて、一緒に笑った。そのうちに二人とも皿が空になり、ゴウがスプーンを皿に戻して両手を合わせて頭を小さく下げて、ごちそうさま、と呟くのが聞こえて、サトシも慌ててゴウに倣うと、ゴウはどういたしまして、と笑った。
    「おれ達今日ここにテント張るんだ。サトシも一緒に泊まってけよ!」
     な!と朗らかに誘われる。断る理由も何も見つからず、何よりもゴウとまだ一緒にいたかったし、ゴウのことを友達に見ることができている、その自負が「じゃあそーする!」と返事をした。


    「ほんと久しぶりだよな。サトシ全然連絡くれないんだもんな」
     焚火台の側で椅子をそれぞれ出して座って、火を眺めてゴウが笑う。
    「ごめんって。でもゴウだって連絡してこないじゃん!」
    「おれは…、サトシが出る大会のタイミング見計らってるとなかなか連絡できなくて…」
     夕陽はとっくに地平線の向こうに沈んでいるのに、まだ空は薄ぼんやり明るくて、それでも宵闇がじわりじわりと橙を追い込んでいく。ぱち、焚き火台の上で薪が静かなひび割れを音で示す。
    「大会、見てくれてんの?」
    「たまに!たまにな!タイミングが良かったら!」
    「そっか、ありがとな」
     顔を見て話すことができない。あの頃は顔を合わせないことなどないほど密接で、顔を見ない理由なんて見つからないほどまっすぐだったのに。
    「この前…えっと、みっつ前?の大会、みんなすっげー強くて、かっこよかったよ!優勝おめでと!」
    「サンキュー!」
     また、ぱち、と音が鳴る。小さな音に紛れてサトシはゴウの顔を盗み見るが、ゴウは薪から放たれる煌々とした橙に視線を縫い付けていて、サトシと目は合わなかった。ゴウの空色の瞳が炎を反射して、沈む直前の太陽みたいな、やわらかいあたたかさを含んだ。困難があっても決して諦めない鈍く鋭い光を宿した瞳。前を、そのまた前を、もっともっと前を、ずっとずっと前をただひたすらに見つめて追いかけようとする探究心に溢れた瞳。その全てが全部この空色に詰まっていた。空みたいに広くて、水みたいに自由で、そんなゴウの瞳のことが、
    「…ゴウは?どうしてた?」
     頭の中によぎりかけた言葉を無理やりゴウに問いかけることで打ち消す。ゴウに悟られないように、するりと滑るような優しい声で。
    「そりゃもちろん、おれはゲットっしょ!」
     サトシの違和に気付かなかったのか、ゴウは焚き火からサトシに視線を向ける。焚き火に照らされた頬はやさしい炎に照らされていつもより明るく色付く。
    「この前のプロジェクトミュウの事前調査、シゲルが一緒でさ、あと一歩!てとこで調査対象のポケモンに逃げられちゃったら、アイツ間髪入れずに「やれやれゴウくんは」だぜ。ほんと嫌味ったらしいのはちっとも変わらないよ」
    「シゲルも変わらないなぁ」
     相変わらずの幼馴染の様子に苦笑いを浮かべる。それでも初めて会った時より距離が縮まっているのがわかった。怒った風のゴウは、出会ったばかりの頃のように怒りにあふれておらず、どちらかといえば『全く仕方ないやつ』と呆れたような空気を含んでいたからだ。証拠に、話しながらも笑顔のままだった。
     突然、胸の奥が突かれたような気がした。バタフリーと別れた時のような、張り裂けるような痛みではない。どくばりで深く突き刺されたような、細い痛みだけれどじわじわと広がる痛み。また、木の中の水分が爆ぜる音。サトシの胸の奥にもぱち、と何かが爆ぜたような気がした。
    「コハルと3人でキャンプした日のこと、思い出すな」
    「あぁ」
    「おれ、あの日、サトシがルギアの上で励ましてくれたから、今まで頑張ってこれたんだと思うんだ」
     ゴウがサトシをじっと見ている。いつの間にか薪に目線を移してしまっていたサトシは、観念したようにゴウと目を合わせた。空色が炎に照らされて茜色に少し染まっている。外はもう紫紺色に染まっていて、ゴウの瞳だけが夕焼けみたいで綺麗だった。
    「サトシ、おれと出会ってくれて、ほんとありがとう」
     別れたあの日と同じセリフを述べるゴウが、あの日とは違って少し大人びて見えた。
    (いやだ)
     離れた時からわかっていたはずだった。離れることでサトシが知らないゴウがどんどん増えていって、そして、ゴウの中でサトシが薄れていく。それで良かったはずだったのに、自分が薄れてしまうのも、ゴウがどんどん知らない人になっていってしまうのも、寂しくて、嫌だった。一緒にいた頃は楽しいことも寂しいことも一緒に感じられた、それが楽しくて心地良かった。
    「ゴウ。オレ、ゴウのことが好きだ」
    「なんだよ急に!おれもサトシのこと好きだぜ!」
    「オレはずっと…」
    「だっておれ達友達だもんな!」
     サトシの言葉の途中でゴウが笑って言う。ゴウはまるで聞こえていなくて被せてしまった様子にも見えた。だが、わざと遮ったように、サトシには感じた。その真意はわからない。
    「オレは、そうじゃない。…ゴウ、ずっと、好きだった。今も」
     一際大きな風が吹いて、ざぁっと草が大きく騒ぐ。焚火は新たに薪を入れられていないせいか、先ほどより少し炎が弱まっているようだった。風に少し揺らぐ。

     好きだった。
       ーー諦めたかった。
     一緒にいたかった。
       ーー苦しかった。
     伝えたかった。
       ーー伝えてしまえば、優しいゴウは心を砕かざるを得ないだろう。
     だからゴウのために離れた。
       ーーでも、心のどこかでは本当は、伝えるのが少し怖かった。
     それでも…、ゴウが欲しかった。

    「なんで…いまさら…」
     薪ももう音を鳴らさないほど、静まり返った中、風に吹かれて消えてしまいそうなほど小さな声でゴウが呟く。
    「おれ、あの頃、一人で旅に出るってサトシに言われて、あぁ、おれの気持ちに気付かれたんだと思ってて、やっと、やっと友達として見られると思ったのに、今更!」
    「ゴ…」
    「大体なんで突然出てくんだよっ!やっと友達として見られるようになったかなって考えてたら、いきなり飛び出てきて!心の準備もできないだろ!」
     囁くような声から少しずつ激昂していったのか、最後には大きくなった声量で、殆ど八つ当たりのようなことを言われ、面食らう。
    「それはルカリオが走ってったから…!…ってそれってゴウがオレのこと強く考えてたからじゃないのか?!」
    「ちがっ…」
    「オレに会いたいって思ったんじゃないのか!?」
    「ちが、」
    「ゴウ」
     サトシはゴウをじっと見据える。もしかしたら勘違いかもしれない、だけどもう構うものか。自分の気持ちに気づいてしまった。どうこうあっても自分はゴウが欲しかった、ゴウの隣を自分のものにしたかった。今更後には引けない、引く気なんかさらさら無い。
     火は小さくなっていた。薪はこのまま炎を小さくしていくだけだろう。周りの闇に同化してしまいそうな程度の明るさの中、ゴウがぽつりと呟く。
    「…サトシのこと、諦めようってずっと思ってたんだ。でもお前…でっかい大会は必ずいるし、見ちゃうし、見たらかっこいいし、そんなんで諦められる訳ないだろ…」
    「、ふっ」
    「何笑ってんだよ…」
    「っごめ、確かに、と思って…」
     サトシが堪えきれないといった様子で息を短く吐き出したところをゴウが咎める。笑ってはいけない場面なのはわかっているのに、人間、そういう時こそ笑いの沸点が低くなってしまうものだった。
     確かに、サトシもゴウを忘れるために、大小問わずいろんな大会にエントリーしていた。一度大会が始まってしまえば戦いに集中し、決勝まで進むこともままあったし、中には全国中継される規模の大会だってあった。ポケモンの道に進んでいれば耳にすることも多々あったろう。サトシにとっては忘れるための手段が、皮肉にも、ゴウにとっては忘れられないきっかけになってしまっていた。そのあべこべさに笑いが堪えきれず、息が漏れてしまった。サトシの謝罪を聞いて、ゴウも、息を短く吐き出して、それを聞いたらもうお互い堪えることなど出来はせず、二人で顔を見合わせて大声で笑う。声も出ないほど笑った。言葉足らずで始まったすれ違いだったからこそ、言葉で補わなければならないのは理解していたが、言葉の代わりにお互いの目から滲み出る涙が、何もかも理解したように溢れたような気がした。
     ひとしきり笑い終わった頃、サトシは近場にあった小さな薪を焚き火に放り込んだ。今にも消えそうだった炎は、燃料を入れられて、また少しずつ熱を、灯りを広げていった。まだ、まだゴウの顔をしっかり見たかった。想いを告げて、受け入れてもらえて、やっとしっかり見れる。
    「おれも、サトシのことずっと好きだった。今も」
     薪に残り火が移って、少しだけ炎が広がると、ゴウもサトシと同じく笑顔で、さっきはあの頃と違うなんて思ったけれど、やっぱりゴウはゴウだった。
    「うん、やっぱオレのゴウだ」
    「いつお前のになったんだよ」
    「いや、ゴウはゴウのだな」
    「なに一人で納得してんだよ」
     笑い合って、拳をぶつけ合う。

     焚き火の側で二人、拳をぶつけ合った後に、お互いの身体を抱き締める様子を横目に、ルカリオは大きくため息をついた。サトシがゴウのことを好きなのはもうずっと前から気付いていた。下手したら本人より先に。幼かった頃に感じ取った時は全くわからなかったけれど、隣にいたラビフットは理解していたのを思い出す。ところが今はどうだ。隣にいるエースバーンはサトシとゴウを見てもいつもと同じようにニコニコしているだけでわかっているのかどうか。ルカリオはもう一度小さくため息をつくと、それを聞いたのか、エースバーンはルカリオの肩を組んだ。なんだ、と思う間も無くエースバーンから波導が伝わる。曰く、『やっと一緒になったな』。隣のエースバーンの顔を見ると、いつも通りの能天気そうな笑顔で、幼い頃から読めないやつだ、とルカリオは今度は口角を上げた。エースバーンはルカリオから離れて、足取り軽く進んでいく。多分このままゴウにまた抱きついたりするのだろう。それもいいか、とエースバーンに続くと、ふとまだリオルだった頃にラビフットの後ろをついて行っていたことを思い出して苦笑いした。
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