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    リビルディング/❄の話。ばじふゆ風味。

    #来世兄弟
    brothersInTheAfterlife
    #リビルディング
    rebuilding

    来世兄弟5 かつての仲間、今の家族と暮らす生活は心底心地よいものだと思っている。それは間違いようのない事実。
     ただどうしてか何かが足りない気がしてくる。こう思ってしまうのは、親不孝ならぬ兄弟不孝だろうか。

     かつて場地さんと生きた世界があった。かつて場地さんが死んだ世界があった。恐らくそれは自分と家族の記憶上にしかないけれど現実に違いなかった。相棒兼双子の兄弟である武道にとっては当たり前の現実の一つだったけれど。
     そして辿り着いたのは身内がほぼ死んでいなくて、みんなが幸せだと言える世界。誰もが楽しそうに生きていて多少の悩み事はあれど、昔ほど深刻ではない悩み。誰もが悩むようなこと。そんな当たり前のことがただただ幸せだった。
     オレは大学まで進ませてもらって馬鹿みたいなことをして。場地さんも一虎くんもいて。武道も居て。何でもないことが幸せで仕方がなくて。タイムリープのことは聞いていたから横で笑う相棒を見て、本当に頑張ったなって。お前が掴み取った未来は幸せなものだ、と抱き着いて言ったこともある。
     オレの幸せな未来の記憶はそこで途切れているけれど。
     まあ、死んだんだよな。あとから知ったことっていうか、また小さくなって生まれ直したときからなんとなく分かっていたことではあるし。
     1人じゃなかっただけ本当に良かった。1人何も知らない世界に急に放り込まれたら、なんて考えるだけ背筋が凍る。
     ちゃんと自分が死んでいることを突きつけられたときはもう、内心ヤバかったけれど。どうにか顔には出さずに済んで。
     でも正直ちょっと分からなかった。なんで兄弟たちはすんなり受け入れることが出来たんだろう。普通結構動揺しないか? 自分が死んでいるという事実に。
     しかもなんか、かつての仲間たちはオレたちのことを昇華してるし。十数年経ってるとは言ってもさ。なんで割り切れるんだろうって。オレは絶対無理だよ。場地さんがあのハロウィンで死んだ時、場地さんが死んだ未来はずっと引き摺ってた。表面上はそう見えなくても場地さんのことは残ってた。
     なあ、なんで?
     黒川イザナと鶴蝶と出会った時、武道はなんで装うことができたんだ? 幼馴染なんだろ、鶴蝶は。オレだったら詰め寄る。どうしてオレたちのことを昇華できたのかって。
     せい兄もどうして普通にココくんと会った、とだけで済ませられる? その時の状況を知らないけれど、そんな簡単に割り切れる関係じゃなかっただろ。
     たか兄は……分からないけれど。少なくともオレは無理だ。場地さんとか、一虎くんに会ったら詰め寄ってしまうと思う。というか今でも聞きたくて仕方がない。オレたちが死んでどうだったんですか、って。
     ……こんなこと考えてしまう自分が嫌になる。
     分かってる。今はもう転生なんてして来世を歩いている。死んだ人間は戻ってこない、ずっと引き摺っていても仕方がない。割り切ってしまった方が良い、なんて。そんなことは分かりきっているんだ。
     たか兄が言ってた。あいつらはあいつらの人生を。オレたちはオレたちの新しい人生を歩んでいこうって。
     正論だ。当然のことだ。
     だから表には出さなかった。せい兄もたか兄もオレたちのことを思って生活を切り詰めようとしているのも知っている。学校も公立を選んだことを知っている。双子にやりたいことをやらせてくれている。
     だから表面には出さない。空手教室のことは、実はそれの表れだったりするけれど。内緒な。
     そんな平和な来世だけれど、やっぱりオレには何かが欠けている気がして仕方がなかった。

     今日も今日とて武道と空手教室へいく。空手教室はマイキーくんの実家。だからいつかひょっこり現れて居合わせることがあるかもしれないとオレが行きたいと言い出した。武道はオレが行くなら行く、って感じで乗ってきた。2人の兄は何も言ってこなかったけれど、もしかして見破られてた可能性はちょっとある。お兄ちゃんってのは侮れない、ということを前世一人っ子だったオレは今回の人生でようやく知った。
     空手教室では今の所知り合いに遭遇したことはない。場地さんも通ってたって言ってたからOBみたいな感じで来たりすんのかな、って思ってたからちょっと期待外れ。……まあ、いま専務やってるって書いてあったし、普通に忙しいか。
     今は黒川イザナたちに出会ってから1ヶ月経っていた。あれから会ったことはない。あんとき名前聞いてきて、次会えたら言うっていう話だった。なのに会いに来ねえってなんだろうな。……忙しいのか、やっぱり。
     黒川イザナたちから辿ってどうにかなんねえかなって思ってたときもある。ただどうしても大人と子供の生活 リズムは違う。どうしようもないズレがある。
     だから時間が空くと考える時間ができてしまう。オレがやろうとしていることは、兄弟たちの平穏を崩す可能性があるのかもしれないって。
     でもどうしても聞きたかった。オレたちが死んだときどうだったんですか、って。オレは場地さん死んだ時めちゃくちゃ引きずった記憶もありますよって。最低だな。残酷だ。ヒトデナシって言われるかも。
     自分でもやべえことしようとしてるってのは分かってる。だからこういうことはあと1ヶ月にしようと決めた。夏が来る頃にはもう辞める。そうして過去は捨てて、場地さんたちのことはさっぱり忘れて、今をちゃんと生きようって。
    「千冬さあ」
    「なんだよ」
    「何か考え事してるのは良いんだけど、何かあったら言えよ。そっちのが楽になるんだったら」
     そう武道に言われたときはビビった。
     訂正するわ、兄だけじゃなくて双子も侮れない。

    「千冬〜」
    「なにー?」
     自分が決めた期限まで残り2週間と言う時、たか兄に呼び止められる。
     たか兄の手元には猫が写ってる雑誌。珍しい、大体ファッション雑誌が多いのに。
     手招きされたのでそのまま擦り寄った。
     そこには里親募集のページ。
    「……飼うの?」
     たか兄がこういうのを見ているのが新鮮で少し反応が遅れる。写っている子たちは全員どの子も可愛くて、思わず頬が緩む。そういえばペケJはどうなったんだろう。もう寿命で亡くなってしまっているだろうから知ることはできないけれど。
     ……あ、ペケに似てる子いる。艶やかな黒毛の子。
    「……顔緩んでるぞ〜」
    「あ」
     右頬を指でツンツンと触られた。
     たか兄はニヤニヤと笑っている。わっるい顔。
    「猫、飼うか」
    「え」
     なんで? どうして今。っていうか。
    「生活、苦しくなるじゃん」
     両親が残してくれた金は沢山ある。それは知っている。でも有限だから、せい兄もたか兄も切り詰めて節約している。この前たまたま聞いた。せい兄が制服合わなくなっても使えるからって、たか兄が同じ公立高校に行こうとしていること。中学校からしか入ることができない中高一貫の学校で、服飾にとんでもなく強い学校が存在する。そこに行きたそうにしていたのは誰もが知っていた。高校からは入ることができない学校。
     猫は生きているから食べ物を食べるし、専用のベッドやトイレだっている。言い方はアレだけれど維持費がかかる。
    「ここ最近、千冬の元気がなかったからさ」
     思わず目を見開いた。悩んでたのは事実。ここ数ヶ月ずっと。
    「金のことは気にすんな。あと3年耐えればバイトできるし」
     歯を見せて笑う。青宗もバイトする気満々だしな! って。なんで、どうして。
     オレの兄たちは出来すぎていないか。人間が。オレと全然年齢変わらないのに。同世代であるのに。どうして。
     今の家族のことを考えていてくれていて。自分よりオレたち双子のことばっかり。
    「ごめん」
     ごめんなさい。
     どうしても謝りたくなってしまった。オレはさ、どうしても前に囚われていて。今でも前のことをよく考えてしまっていて。
     横に家族がいるのに。兄弟が居るのに。居るって認識はしていたのに。考えるのはどうしても前のことだけで。
    「ごめん」
    「ごめんなさい」
     大好きな家族たちを壊すような、壊れそうなことをしようとしていて。今までの自分が本当に、嫌で仕方がなくなるような。
     目からぼろぼろと溢れて止まらない。止めなきゃ。たか兄が心配してるんだ。止めなければ。
    「いーっぱい泣け、な?」
     瞬間、包まれる。あったかいたか兄の腕の中。
    「悩んだら悩めばいいし、泣きたいときは泣けばいい。言えなくても良いからさ」
     吃逆し始めたオレの背中をぽんぽんと叩く。ああ、本当に。
     今までの自分が急に嫌になる。何を考えていたんだ。最悪この家族を壊すところだった、って。
     最後に決めた期限まではまだ時間があった。けど、その前に気付けて良かったかもしれない。
     オレはたか兄の腕の中で沢山泣いた。2人しかいないリビングで。自分が嫌で、情けなくて、どうしようもなくて。

     落ち着いてから、猫の話は一旦保留にしてもらった。やっぱり実際問題金が掛かるしオレたち全員義務教育中の身だ。日中誰も家にいない。それに、里親パターンだと審査が恐らく通らないからだ。結構厳しいんだよな、あれ。
     でもたか兄に示された猫を飼うという選択肢。ちょっと興味はある。どの人生でもペケJは居たし、ペットショップ経営してたりして猫とは関わりのある人生を送ってきていたから。記憶上でも。
     だから見るだけとか、費用とかある程度知るためにペットショップに通っていた。見にくる小学生の子たちは結構居た記憶はあるから大丈夫だろう。何も買っていかないけれど。ごめん、と内心思う。
     今日も都内のショップを回っていた。
     やっぱり動物は良いなと思う。ペットショップは場地さんの夢だったからやっていた、場地さんだったら一虎くんを放っておかないだろう、とかそんな気持ちからやっていたけれど、段々と自分でもちゃんと好きになっていった。猫は元から好きだったし。
     猫のケージに近付く。その前にはガラスがある。
     あー可愛い……どうしても黒猫を目で追ってしまう。猫のいる生活って良いよな。どうしても金銭面がチラつくけれど。
     しばらくその子を眺めていた。
    「そいつ可愛いよな」
     横から聞こえてきた声に意識を戻される。反射でその方に顔をむけた。
    「――ッ」
     声を、出さなかった。偉い、偉いよオレ。肩が揺れたけれど、あからさまな反応をしなかっただけ及第点。
     目は見開いてしまったけれど、驚いただけと分かってくれるだろう。その程度。
    「わりぃ、驚かせたか?」
     そこに居たのは正真正銘、場地さん本人だった。あの頃よりかは髪は短いけれど、一般男性よりかは長めの艶やかな髪。少し歳は取ったなっていうのは分かるけれど、間違いなく場地さん本人だった。
    「コイツ最近来た子でさぁ、でも中々人の方見てくれなくてよ」
     オレの視線に合うように屈んで黒猫を見る。オレが千冬だとは分からないだろう。だって今は初めて会った頃より幼いし、この軸では一度も見せなかった黒髪。
    「かわいい、ですね」
     返事もしないのも不自然だ。場地さんにむけていた視線を黒猫に戻す。黒猫はさっきからオレにアピールしていた。なに? オレのこと好き? 可愛いなお前。ガラスに阻まれるけれど、つんつんと指を当てた。
    「コイツがこんなに反応を示すのは初めてだ」
     場地さんが笑う。
    「そうなんですか?」
    「そうなんだよなァ。ずーっとそっぽ向いてよ。オレの方なんてちっとも見ねえの」
     そんな様子は見て取れないけれど。オレの方向いてずっと喉を鳴らしている。
    「お兄さん、このお店の人?」
     なんで急に場地さんと出会ったのか、この店で再会となったのか知りたかったから聞く。偶然なのだとしたら、この辺りが場地さんの行動範囲だと知れるから。
    「そ、此処オレの店」
     オレの店、場地さんの店。……つまりオーナー。
     場地さん、夢叶えたんだ。自分のペットショップを持つという夢を。大学生だった頃にうっすらと聞いていたけれど実現できたんだ。
    「猫飼いてえの?」
     飼いたいか飼いたくないか、って言われたらそりゃあ、飼いたいけれど。
    「……父さんと母さん、居ないから」
    「ッ、わりい!」
     そうやって直ぐに謝る言葉が出てくる、場地さんは本当に良い男だよ。心配させたくて、そういう気持ちで言いたくて言ったわけじゃないからすぐに笑顔を作る。
    「全然気にしないで! 今楽しいし。お兄ちゃんたちが居るから大丈夫だよ」
     本当だから。2人の兄と武道が居るから今は楽しいんだ。そう心から思えるようになったのは最近だけれど。
    「じゃあさ」
     しゃがんだまま、オレに目線を合わせてくれる。そのままニカッとした笑顔で、前と変わらない笑顔でこう言った。
    「コイツのこと、偶にでいいから見に来てくれよ。ここまで懐いてるの初めて見たからさ」
     その問いに素直にわかった、とは言えない。言えないけれど。
    「……うん!」
     場地さんのなんの含みもない問いには応えたかった。偶に、偶にね。
     その日はそのまま帰った。互いに名前も言わずに。



    「今の子、千冬に似てたな……」
    「オマエが懐くなんて、本当に千冬だったり、……ねぇな」
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    PROGRESSリビルディング12話/久々更新で申し訳。🈁🐶につなげたい話。ちゃんと終わらせたいので少し駆け足気味になります。
    来世兄弟12「た、だいまっ!」
    「うお、おかえり」
     夕食の準備をしていたら青宗が勢いよくドアを開けて飛び込んできた。肩を思いっきり上下させて呼吸を整えている。全力疾走してきたということか。けれど青宗がこうなるってことは何かがあったんだろう。
     菜箸を置いて青宗の方へ近寄り片手を差し出した。
    「どうしたんだよ」
     青宗は素直に右手を乗せて顔を上げる。その顔は汗で塗れていた。白い肌のせいか一層赤く見える。少しだけその体勢のまま息を整えて口を開けた。
    「いや、……ココが」
    「あー」
     成程な。大体を理解した。
     青宗はオレたち兄弟の中で一番旧友たちと関わりたくないと思っている人間だろう。だから色々と慎重に考えていたのはなんだかんだ青宗だし、オレが考えて導いても最終決定権は青宗だった。特にココくんに対しては、青宗自身のことを完全に忘れて欲しいようでチラつかせるようなこともしない。すれ違うことも許さない。あの業務用スーパーで出会ったのも偶然からきた割とやばいハプニングだったけれど、どうにか切り抜けたし。
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