ココに告白されたイヌピー「俺、イヌピーのことが好きなんだけど」
ふいに言われた言葉に、オレは言葉を失った。
オレの横に並ぶ顔も何も変わらない、なんてことのない帰り道。いつも通りの日常…のはずだった。
ココが不意に口にした言葉は、確かにオレの耳に聞こえてはいたけどその意味を理解するのに時間がかかった。
オレ、イヌピーノコトガスキナンダケド
ココってば、急に何を言っているんだ?
オレのことを好き?
ココが…?
好き?
───好きってなんだ?
足を止めて立ち尽くすオレにココが振り返り視線が交わった。
何故かココも驚いたような表情をしていたのだけれど、それでも視線だけは外すことはなかった。
意味が分からなかった。
好きって、愛とか恋とかの好きってことか?ココがオレのことを好きってそういうことなのか?
いや、でもそんなことあるハズがない。
つ、と背中に嫌な汗が流れたのが分かった。
冷静でいられない。
どうしてこうなった。いつも通りココの話をオレが聞きながら帰る。ついさっきまでは、いつもと何も変わらない帰り道だっただろ。
今日は数学の授業がつまらなかったとかそんなありきたりな話をしていたはずで、どんな流れでそんな言葉が出てきたのか全く分からない。
分からないけれど目の前のココを見れば、今の言葉は聞き間違いとかじゃないことは分かった。
「オレ、イヌピーことが好きだよ。だから──」
ココがさっきと同じ言葉をオレに告げてきて、何か続きを言おうとした瞬間───
「……っ!!」
これ以上続きを聞きたくなかったオレはその場を逃げ出していた。
***
あの場を全力逃げ出したオレは、無我夢中走り続け、視界に入った公園の前で足を止めた。
心臓が壊れそうにバクバクしている。
異常なまでに上がった心拍数は走ったからなんかじゃない。
───ココがオレを、好き??
さっきからオレの頭の中で、それだけが延々を繰り返されている。
どうしたらいいのか分からない。
だって、ずっと好きだった。
好きなのはオレの方だ。
整った顔立ちも、ふわふわとした柔らかい髪も、ちょっと意地悪だけど本当は優しいところも、全部が好きだ。
ココの初恋はオレの姉、赤音だった。
いつだったか、赤音に告白して振られたとオレに報告してきたことがあった。
その時のココはオレの前で声を出さないように泣いていて、振られたけど好きだって…諦められないと苦しそうに言った。
その時に自分の恋心を自覚した。
自覚した瞬間、間接的にフラれたんだと思った。
ココの心にはいつだって赤音がいる。
赤音とオレは似てるってよく周りから言われるが、だからと言ってオレが赤音になれるわけではない。昔ならまだ代わりになったかもしれないが、今はココより身長もあるし体重も重い。
元より叶うとは思っていない恋心。
何度も捨てては拾い上げる救われることのないこの想い。
捨てても戻ってくるならとオレが選んだ道は、恋の成就ではなく、ココの一番近いところにいられる人間だった。