寒い、と呟く唇を尖らせて、その人は不機嫌そうに僕を見た。あたためてよ、と求める声は身勝手そのものなのに無碍にさせてはくれない。
極寒の雪山、視界は荒れ狂う白。一呼吸するたび喉が痛んだ。事の重大さをわかっているのかいないのか、いつもの調子を崩さないテラさんを半ば強引に説き伏せて、というより巻き込んで、ようやく下山したのが数刻前。疲弊した身体を引きずって、なんとか命を繋ぎ、ようやく安全な場所で安心して休めるかというときにこの人は。
「……あの、遭難したのは天彦なんですが」
「そうだね」
「しかも、助けてくれませんでしたよね」
「そうだっけ?」
「テラさん、天彦はとっても寒かったです」
「だったら、僕の気持ちがわかるでしょ」
どういう理屈なんですか、それ。凍えそうだというのなら、無防備に脱ぎ散らかさないで。ひとの服にまで、そんなふうに手をかけて。暖炉の前で、きちんと暖かくして毛布に包まるんじゃあダメな理由って、そんなのは。
「天彦だって聞いたことくらいあるでしょ? 身体が芯まで冷えそうなときは、人肌がいちばんって」
「テラさん、」
「いいから、早くして。……ほら。ね? あったかい」
ベッドにまで潜り込んでくるなんて、どこまでも本当に身勝手な人だ。でも、冷たくするなんてできっこない。直に伝わる温もりを拒む理由なんてなくて、それどころかこんなときに欲するものであるのは事実で。触れてしまったら、こんなにも心地いい。
だから抱きしめて包み込む。深い呼吸をひとつ、あなたの薫り。しばらくそうして、やがて気をよくしてくれたら、きっと抱きしめ返してくれるでしょう。