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    レニ/右爆/轟爆
    眠れぬ夜の小さな図書館

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    轟爆/雄英生

    #轟爆
    bombardment

    不屈の好き『で、今度の個性はどんなヤツか解ったのか?』

     もう個性事故にあったのバレてんのか、鈍い癖に勘はいいからか?まあ説明する手間が省けて助かるっちゃ助かる。つぅか、掛けられた個性の性質が解らねェから見守りカメラなんてもん仕掛けられとンだわ、そう言うとなるほどと相槌を打つ男に、だからとっとと出て行けと再度促すが出ていきそうにない。それどころか、

    『今日から暫くお前とこの部屋でルームシェアできるよう申請してきた、掛けられた個性が解けるまでは俺と2人きりだ』

     ハ?いやいやいやおかしいだろ?どんな個性に掛ったのかも解らなくて、だから1人でカメラ付きの部屋に籠ってンのに、大体そんな申請通るのかよ?

    『ああ、本当は先生がやるはずの役割だが俺が立候補した、誰かはお前の側にいねぇとな』

     何だソレ、まるで個性の内容まで既に把握しているみてェな意味深な言い方しやがって…いや、轟は意味深な物言いをする奴じゃねェ。コイツはきっと個性の性質を把握しているんだ、でもって先生も轟も俺に肝心の中身を言わねェってことは、俺が個性の内容を知っちゃいけねェタイプのものってことだろう。クソッ、何かめちゃくちゃ面倒くせェことになりそうだ、

     と、急に視界が奪われる、目を覆っているのは俺より一回り大きな轟の手、ゴツゴツとした節が俺の瞼を刺激する、その刺激に面食らっていた所に、

    『早速だけど爆豪、目隠ししてもいいか?』

     もっと刺激的な提案が投下された。

    +++

     何で目隠しなんて、なんて言っても無駄だろうが、無駄と解っても悪態をついてしまう。それに目隠し如きで俺のパフォーマンスは落ちたりしねェのに、

    『爆豪、口を開けろ』

     いきなり蕎麦を突っ込むなっての、服も自分で着替えられるって!そもそも目を閉じていても殆ど何でも出来るのは知ってるだろォが、

    『そうだな、俺が世話を焼きたいだけかも。世話をされたことはあっても、爆豪の世話ってしたことねえから』

     たりめーだ世話されるような俺じゃねェわ!…でも、

    (自分の面倒は自分で見られるが、視界を閉じた状態でずっと過ごすってのは案外心細い、だから同じ部屋の中に轟が居るってのは正直かなり安心する)

    …って、

    『何抱きついとンだ?!』

    『爆豪が安心するかと思って』

     ンなワケあるかと反射で言ってしまった、コイツ目が見えないのを良いことにやりたい放題か?一体どんな顔してそんな台詞を吐いているのかだけでも確認したいのに、よりによって目隠しで何も見えないなんて。

     それに、俺は轟の顔が好きなのだ。好きなものが見られないというのは存外辛いのだと初めて知った。

    +++

    『今日から俺は喋らない、代わりにすぐ側にいることが解るようにいつもお前に触れているから』

     いやいやいや、じゃあお触りどーぞなんて言えるか!と思ったけれど、やっぱり何か意味があってのことなのだろう。解ったと頷くと早速手を繋がれるけれど、

    『手ェ繋いでいたらテメェのやりてえことができねーだろ、どっか適当に引っ付けとけ』

     すると膝の上に何かが乗っかる、それは轟の頭で、こら調子に乗ンな誰が膝枕してやるっつったんだよと喚いてみたけれど、やがてスウスウと寝てしまった轟から流れ込んでくる感触は決して悪くなかった。この所寝不足みたいだからマァいいか、

     それより音だ。視覚は完全に遮断されたが聴覚に関しちゃ何も聞いちゃいけないわけではないらしい。更には静かすぎるのも苦痛だろうからといって轟が設置したのはラジオ、FMから流れる流行りの音楽や、1時間おきの天気予報と交通情報、そんなものでも確かに気は紛れる。特に轟が学校に行っている間は重宝し、轟が戻ってくるとスイッチをOFFにして轟の息遣いを聞いて過ごす、

     こんなことを続けてもう一週間、

    『そろそろ個性の対処法が見つかってもいい頃合いじゃねーの?それとも、テメェがここにきた最初から対処法は解っていたってか?』

     後者なことは間違いねェ、マァ内容は言えねェンだろーなと付け加えると、

    『内容は言える、もう言えるようになった』

     そう言って轟はやっとカラクリを喋り出した。

    +++

    『好きになってしまう個性、ですか?』

    『そうらしい、好きと言っても恋愛の好きじゃない、どちらかというと忠誠心を強めるもの、好意を持った相手からの命令を断れない類のものだ。この個性が掛けられてからの一週間の間、なるべく沢山見た者がその対象になる。

     好意にしろ悪意にしろ精神操作系の個性はなるべく本人には言わないほうがいいというのがセオリーだから爆豪には伏せておくことになった』

     なるほどカルガモのように最初に見た者ってワケじゃないらしい、それは俺にとっては不幸中の幸い、だってもしもカルガモの雛のような性質だったら爆豪は現場にいた人物を好きになってしまったのだから。幽閉された爆豪の元にルームシェアを名乗り出た上、何も理由を言わずに無理やり目隠しをしてみたが、驚くほど爆豪は抵抗しなかった。もしかしてもう既に俺を好きになってしまったのかと抱きついたらしっかり怒られたので安心した。

    『個性の性質に追加情報だ、声もダメらしい』

     マジか、もう既に随分と会話してしまった、だからラジオを聞かせることで情報を分散させた。なるべく爆豪の心を縛らないように、爆豪の好きが俺という特定の人物に固まってしまわないように、視覚も聴覚も人と通わないよう遮断した。

     何も刺激のない状態が続くとメンタルに悪い、無刺激の状態に3日置かれると人は発狂するというから、俺は爆豪に触れることで刺激を続けた。爆豪を好きな俺にとって触れるというのは強烈な刺激だったが、爆豪にとってはどうなのか、嫌がってはいなかったからもしかしたらもうかなり個性の影響を受けているのかもしれないと思った。

     実のところ、俺にはもう覚悟があった。もしも爆豪が個性に干渉され、なおかつ個性が永遠に解けないものだったとしたら、その時はそのまま俺を好きになればいいと、多少個性に左右された歪な好きがその中に混ざっていても構わないと、

    『それじゃお前が辛くなると思うがね』

    『平気です、どのみち俺は近い未来に爆豪を口説くつもりだったし、他の誰かに渡す気もねぇんで』

     そう言ったものの、果たして爆豪の心はどうなったのだろう。この個性はどのみち一週間が経過するともう干渉しなくなる、但しその間に培われた好意は消すことはできない。目隠しを解いてやると眩しいといって顔を覆った、その手の上に手を重ねて大丈夫かと尋ねると、

    『大丈夫じゃなさそうなのはテメェじゃねェのか?』

     と返ってきて、それから、

    『変な気ィ回しやがって、どうせ見たら好きになるだの嫌いになるだのピンポイントで記憶喪失になるだの、そーいった精神系の個性だったんだろ?図星って顔してんなァ?どうせそんなこったろうと思って記録残しておいたわ』

     指を指したのは見守りカメラ、一週間分の録画が出来るというそれを再生し、リモコンを操作して早送りし、やがて流れてきたのはカメラに向かって喋る爆豪で、

    【1日目、轟がルームシェアと目隠しを提案した。胡散臭いことこの上ない、ムカついたが理由がありそうだから大人しく従うことにする。他人と遮断した理由は恐らく精神操作系の個性だから。よって俺は精神の変化をここに記録する】

    【2日目、俺は特に変化なし、轟は少し元気がない、夜もあまり寝ていない】

    【3日目、少し焦燥感が出てきた、何も見えないことがストレスになっている。特に轟の顔が見たい、俺はずっと前から轟の顔を見るのが好きだからだ】

    【4日目、轟の声を遮断された、ラジオの音はOKなのにだ。これで個性は確定だ、一緒にいる人間を好きになるか嫌いになるかのどちらかだろう。もしも好きになる方だとして、既に轟のことを好きな俺の場合はどうなるのか?個性のせいでより好きになっちまうのはちょっと癪だ、俺は俺の好きを自分で決定してえ】

    【5日目、轟の寝言が煩いが、寝言でも声が聞けるのは嬉しい。つーか、せっかく昼間にお喋りを遮断しても寝言でペラペラ喋って聞かせてちゃ意味がねェと思うが。そもそも俺が轟のことを好きな時点で好きにバイアス掛かってるから意味はねェ、こんな茶番鬱陶しいが、まあ1週間は付き合うとする】

    【6日目、轟はすっかり俺に触れることに慣れたらしい。最初のうちはスゲェ心臓の音させて面白かったのにすっかり図太くなって引っ付いて寝ている。対する俺はまだまだ慣れねェ、背中合わせで寛ぐのも、膝枕も、手を繋ぐのだって毎回心臓煩せェのに轟には聞こえないのか、聞こえているけど知らないふりしているのか?】

     録音はここまでだった。そして今日は爆豪と俺がこの部屋で生活するようになって7日目、

    『どうだテメェの努力の甲斐あったか?』

     ああ、努力はからきし空振りだが、でも最高のハッピーエンドだ。

    『なぁ爆豪、この個性は、最初から好きだった相手には無効なんだ、

     実を言うと俺はお前に好かれていると思っていて、だからきっと勝算ありだって思っていた。万が一好かれてなくても、既に俺がお前のことを好きで、今から口説いて好きになってもらうつもりだったから行き着く先はどのみち一緒だと、そう思っていたけれど』

     やっぱり個性の影響なしに好かれたかったと言うと、舐めンなテメェの好きよりずっと好きだわ個性なんかに左右されてたまるかザマァと不敵な顔して笑い、それから両腕で抱き締めてくれたかと思うと、ありがとうよって耳元で囁かれ、

     そうして俺達は好きの言葉を交換して交際を始めた。

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